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Chapter51 終焉に向かって


計10車の馬車が連なり、イルム王国へと向け走る。

俺は冒険者達を乗せた馬車に乗り合わせていた。

馬車の中の雰囲気は、決して良いものでは無い。


頭を抱え蹲る者、ブツブツと独り言を話す者、目の焦点が合わない者、貧乏ゆすりが止まらない者。


とてもでは無いが、こちらから話し掛けようとは思える状態では無かった。

しかし、無理も無い。目の前で仲間達が次々と殺害されてしまったのだ。

さすがに平常心は保てないだろう。


そんな中、1人の青年が話し掛けて来た。

俺が気になり声をかけた青年だった。


「あ、あの……さっきは助けて頂いてありがとうございました。お名前を聞いてもよろしいでしょうか。」


「ん? あ、いや俺は何もしてないよ。例なら騎士団に言ったほうが、あいつらも喜ぶはずだしな。

俺の名前は、小田 圭だよ。」


白髪の青年は俺に深々と頭を下げていた。

しかしこの男、俺のイメージしていた神楽の人相にピッタリなんだよな。

瞳は蒼いが、顔立ちは日本人ぽい。

目はギョロっとしていて、悪い言い方をしてしまえば不気味である。


「……そうですか。小田様せめてものお礼にコレを受け取ってくださいませんか。」


青年はズボンのポケットをまさぐり、ある物を俺に向け差し出していた。


それは、なんと金で出来た指輪に大きな宝石まで着いたとても高価そうな指輪であった。

この世界で、金や宝石がどの程度の価値なのかは全然分からないが、おいそれと受け取るような品物では無い事ぐらいは分かる。


「この前、山奥のダンジョンで手に入れた戦利品なんですよ。」


「い、いや、気持ちだけ有難く頂いておくよ!」


俺は小さな頃にオカンから、知らない人からは絶対物をもらってはダメやで! 借りが出来るからな!

と言い聞かせられて育ってきた。


「……分かりました。


…………チッ。」




気まずい空気の馬車に揺られる事、約1時間。

俺達を乗せた馬車は、ようやくイルム王国の門をくぐる所まで来ていた。


門をくぐると、冒険者達は1度馬車から降ろされ、

手荷物検査を受ける事になった。

そこで俺も馬車を降り、門兵に身体中を調べられている冒険者達を横目に歩いて城内へと入って行く。


城内へ入り、王室への通路を歩いていると見知った顔が、通路へとしゃがみ込んでいた。


「よぉー、こんな所で何してんだアイリ! 腹でも減り過ぎたのかー?」


「……誰かと一緒にしないで下さい。

……何か嫌な空気を感じたので、圭を待ってました。」


アイリは俺の姿を見つけると、ゆっくりと立ち上がりトコトコと近寄って来た。


「……圭、何か、臭いです。」


「えッ!? 汗掻いたからかなぁ。」


「……いえ、そうでは無くて何か悪い物に近付いた匂いがします。」


アイリが俺の身体中に顔を近付け、スンスンと鼻を効かせるように匂いを嗅ぐ。


辞めてくれ!! すげぇ恥ずかしい……

金髪ロリ少女に匂いを間近で嗅がれるなんて、元の世界ではお金が発生しそうなシチュエーションだが、俺にその気は無いぞ!!


「……圭が2人……。」


「は? 何言って」


「……圭によく似た、同じ匂いが混じってる。」



俺によく似た同じ匂い? 何処かで聞いた事あるぞその言葉……何処だっけな……思い出せ……

……


……




『あの方と同じ匂いですわ』


『同じ匂いを感じてねぇ、カマをかけさせてもらったよ』


『オマエ……オナジ……ニオイ。』


……




「……な、なぁ、アイリ。その匂いってのは、魔物とか、この世界の人間の匂いなのか……?」


「……違う。私は、この匂いで圭がこの世界の人間じゃない事にはすぐ気付いた。

……圭の世界の匂いがもう1つ。」



「ッちっくしょう!! やられた!!」


「……ど、どこ行くの、圭。」


俺は悪魔の言葉を思い出し、ようやく勘付いた。

手遅れになる前にと、全速力で走り出す。


「アイリ! 騎士団に伝えてくれッ! 外にいる冒険者の中に、多分神楽がいるッ!」


一度振り返り、アイリに伝言を頼むと、また全速力で城の外へと走る。

馬車が並び止められた場所へと来たが、やけに静か過ぎる。


おかしい……あんだけ居た人達は何処に……


まさかと思い、俺は馬車の中を恐る恐る覗き込んだ。



「……クッ、遅かった……。」


冒険者や門兵が、全員首をかき切られ馬車の中へと無惨にも押し込められていた。


「で……出て来いッ! かぐらぁぁぁぁああッ!!」


俺は感じた事の無い怒りに全身が震え、心の底から叫んでいた。


「……きゃぁあ」


その時、城の中から少しだけ悲鳴が聞こえて来た。


ま、まさか入れ違いになった!?

そんなはずはない! どういう事だ!?


俺は再び全速力で城の中へと戻ると、王室へと続く通路に人だかりが出来ていた。

人が邪魔で通路の先の状況が掴めない。


「ち、ちょっとすいません! 通して下さい!」


俺は人混みを掻き分け、前へ出ようともがいた。

人混みの先頭には、第3騎士団女団長のディアンと第2騎士団団長のジャックさんが呆然と立ち尽くしていた。


俺は一瞬ムカついてしまった。

団長が2人も揃って、一体何をぼけっとしてるんだ!

何かあったのなら、いの一番に動くのがあんた達じゃあないのか! と。


ようやく全ての人を掻き分け、俺は先頭へと出た。



「クッ、ククッ、アァーハッハッハッ!」


何故、団長達が呆然と見ているしか出来ないのかが、

痛いほど分かってしまった。


「よぉ、小田ァァッ! また会ったなぁッ!

お前らがなかなか来ねえから、退屈で仕方ねぇからよぉ〜ルール破っちゃったよ! ギャハハッ。」


く……くそぉ、俺がもっと早くに勘付いていれば……

俺があいつを守るって約束したのに……



神楽は少女の背後に立ち、少女の首にナイフを押し付けている。

捕らわれた少女カルミナは、口を開かず静かに目を瞑り涙を流していた。



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