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Chapter49 怒れる剣聖 中編


俺達が辿り着いた時、冒険者達の集落には、見るも無惨な光景が広がっていた。

見張り台は粉々に倒され、木で作られ、立ち並ぶ家屋には火が放たれており、

至る所で赤々と火が燃え盛っていた。


黒煙が辺りから立ち昇り、時折鼻を突くような、鉄臭い匂いが漂っていた。


集落の中央に、数十人の人が固まり、身を寄せ合っているようだった。

俺とロアを乗せた馬は、一気に駆け寄り、一ヶ所に集まった冒険者の人達の前で馬を止めた。


ロアは馬から格好良く飛び降りたが、俺は不細工に馬にしがみ付きながら、滑るように降りた。


「みなさん大丈夫ですか!? 魔物はどこに!?」


ロアの問い掛けに対し、誰も口を開かなかった。

冒険者達は身を寄せ合い、ガタガタと震えていた。


俺達の存在にさえ、気付いてもないように震え、肩をすくませ、目の焦点が合わない人や、ブツブツと独り言を言う人も居た。


その時、少し離れた場所から怒号が聞こえて来た。


「ロアッ! あっちだ、行こう!!」


「よし。行こう。みなさんはここに居て下さい。

すぐに魔物を討伐しますので、安心して下さい。」


ロアの慰めの言葉にも、誰も反応はしなかった。


俺達は、怒号が聞こえて来た方へと走る。

恐らく、第1騎士団の人間が闘っているに違いない。

家屋を曲がった辺りで、転びはしなかったのだが、

俺は何かにつまづき身体をよろめかせた。


「あぶっ!! っとぉ、一体何が落ち……て……」


一瞬、それが何かを理解するまでに時間がかかった。

それは、無惨にも千切られた、人の足だった。

力づくで、捻じ切られたようだった。側には女性の腕らしき物も転がっている。

辺りには血溜まりもできており、それを見た俺は、耐えられなくなり、一気に吐き気に襲われた。


「グッ……グァハッ、ゲホッ、ぐ……」


「小田っち、大丈夫かい!?」


「あぁ……もう大丈夫だ、悪りぃこう言うの初めて見たもんだから……い、急ごうぜ。」


ロアは冷静だった。人の死に慣れているのだろう。


家屋を曲がり、その先に見える別の家屋の側で騎士の姿が確認できた。

俺達は全力で走り、ようやく騎士団と無事合流する事ができた。……はずだった。


「遅くなってすまない! ベイルは無事のようだな。

他の団員は!?」


「ロ、ロア様!! も、申し訳ございません……

お、俺達じゃ……あいつを……グッ……」


団員ベイルはロアの顔見て、安心したのだろうか、一瞬笑顔を見せたが、前方を指差しながらボロボロと泣き出してしまった。


団員ベイルが指差す者。


「あ、あれが……魔物、なの……か?」


「ゲイン!! 今、助ける!!」


家屋の陰から姿を現した魔物。

人間の上半身に、鳥のような頭、下半身はムカデのようで蠍のようでもある。

ムカデのような下半身は長く、しならせ立ち上がると見上げてしまうような体長になる。


その姿を見ているだけで恐怖を感じてしまうような、醜悪な外見をしていた。


その魔物の右手には、気を失った団員ゲインが足を掴まれ、宙吊りのような体制になっていた。


「ゲインから、その汚い手を話せぇー!!」


一瞬、凄い風圧を感じた。

俺の横に立っていたロアが消えたと、思った時には既に剣を抜き、目にも止まらぬ速さで魔物のすぐ側まで駆け寄っていた。


ロアは信じられない跳躍力で飛び上がり、魔物の上半身へと切りかかる。がしかし。


キィーーーッン


魔物は身体をしならせ、下半身、つまりムカデの部分でロアの剣をいとも簡単に防ぐ。

どうやら、下半身は簡単には貫けない、とても硬い甲殻に覆われているようだった。


「チッ……」


ロアは剣を弾かれた反動で大きく飛ばされ、俺の近くにまで飛び戻ってきた。


「アッハッハ、オロカナ、ソンナナマクラノケンデ、ワタシヲキレルトオモウナヨ」


「お、おい、ロア。魔物って人間の言葉を喋るのか?」


「いや……そんなの僕は聞いた事はないよ。

ま、まさか、悪魔なのか!?」


急に喋り出した魔物に、俺達は心底焦った。

俺達が今、対峙している者が実は悪魔なのではと。


「お、おい! お、お前は悪魔なのか!?」


「ワタシハアクマデハナイ。オマエラノヨブ、マモノダ。アルオカタ二チカラヲワケアタエラレ、シンカシタノダヨ


ワタシハニンゲンガキライダ」


そお言うと魔物は、団員ゲインを軽々と上空へ放り投げた。


「ゲイーーンッ!!」


魔物は笑い声を上げながら、下半身をしならせ、

下半身の先端、蠍の尻尾を落下してきた団員ゲインに突き立てた。


尻尾は団員ゲインの身体を貫通し、ゲインは血を吐いた。

そのまま魔物は再び下半身をしならせ、こちらに向かい振り払い、ゲインを放り投げた。


「アーハッハッハッ」


ロアは顔を青ざめ、倒れているゲインの元へと走り寄った。


「お、おい、ゲイン……」


「……ロ、ロア……様? も……申し……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」


ゲインは最後にロアの顔を見て、安心したような顔で死んだ。

ロアは腹の底から叫び、目からは涙が流れ落ちていた。


目の前で人が死ぬのを見たのは、俺は初めてだった。

いくら初めて会う人でも悲しい感情になる。

だが、泣きわめくロアに対し、何を言ってやればいいのかは検討も付かなかった。



ロアは最後に、ゲインに祈りを捧げた。

そして立ち上がり、再び見せた表情は、いつもの陽気なロアでも悲しむロアでも無い。


とても冷たい目。表情から全ての感情が消えたような顔。

その顔を見た、俺の全身には鳥肌が立っていた。


「僕は……お前を……絶対に許さない。」

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