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Chapter47 日本人


俺は真理子さんと、時を忘れ話し込んだ。

俺にとって、元いた世界の日本での出来事は、ほんの最近の事なのだが、

真理子さんにとっては5年もの空白がある。


当然、最近の流行りも知らなかった。

流行りの歌や、テレビ番組。プロ野球はどこが優勝したのか、芸能人の誰々が離婚したとか。


本当にくだらない世間話、いや、今となっては世間ではなかった。異世界話に花を咲かせた。


そんな時、真理子さんが不意に思い出したように、話の流れの中で重要な事を語る。


「ーー アッハッハ……圭くん中々話し上手だねー。

あ、そうそう。ちなみに、圭くんをこの世界に召喚したのは私だから。

それでさー、私あのアイドル大好きだっ」


「ちょっと待ったぁー!!」


俺は思わず立ち上がり、ねるとんバリのちょっと待ったを繰り出してしまった。


この姉ちゃん、何サラッと笑いながらとんでもない事カミングアウトしてるんだー!!


「わっ、ビックリするじゃない、どうしたのよ。」


「いやいや、ビックリしたのは俺の方ですよー!

何気なぁーい、会話で思わずスルーしそうになりましたけど、真理子さんが召喚士だったんですか!?」


俺は、刑事が犯人を問い詰めるかのように、両手を机に勢いよくつけ、顔を近づけた。


「うん。そうだよ? 最初はカルミナ王が魔法騎士の方に依頼してたみたいなんだけど、

今の魔法騎士の中に異世界召喚魔法を使える人が居なかったみたいで、

団長さんが私にお願いに来たって訳さ。


あれ? もしかして迷惑だった?」


真理子さんはミサとは違う、とても上品な得意顔でズイと俺に顔を近づけた。


「い、いや、迷惑……ではないですけど……

じゃあ、ビルの屋上に魔法時を書いたのも、

俺の背中を押したのも真理子さんなんですか!?」


迷惑なんてとんでもない。むしろ感謝すらしている。

俺に新しい人生を与えてくれた恩人なのだから。


「だから、言ったじゃない。私はこの部屋からは2度と出る事はできないって……

私の分身のような使い魔を異世界転移させて、君をこっちに送ってもらったのよ。


どうせ、何で俺なんですかぁー!?

とか聞くんでしょうから先に答えておくけど、それは私にもよくわかんないわ。

水晶に、カルミナ王を守るチカラを持つ者を映せと言ったら圭くんが映っただけだしね。」


「あははは……な、なるほど。」


得意気に語る真理子さんに、心を見透かされたような気がして一気に恥ずかしくなってしまった。


「……あと、ごめんなさいね。

使い魔が、君と一緒に変なのまで連れて来ちゃって……その人の事を知りたい?」


「……はい。お願いします。」


真理子さんは、組んだ足を戻し真面目な顔をした。

神楽の事かと、俺も椅子に座り直し、冷静になる。


「分かった。これは完全に私の失態だわ……言い訳がましいかも知れないけど、聞いてちょうだい。

まず初めに、私は君の存在を見つけてからは、しばらく観察させてもらっていたわ。

君に自殺願望がある事もわかった。


異世界転移は、作り出した魔法陣に、ある程度の高速スピードで突入する事により発動するの。

君の運転する車の前に魔法陣を展開させて、すぐにでも転移させてしまえばよかったんだけど、

どうせなら、自殺願望のあった君が、完全に元の世界に見切りを付けてからの方が、突然こちらの世界に来たとしても元の世界に未練は無いかなってね。


君が、飛び降りを選んでくれたのは好都合だったわ。

使い魔が地上に魔法陣を展開し、君がそこに飛び込む。

計画は完璧だったわ……

しかし、失敗した。まさかあんな夜中に偶然人が通りかかるなんて予想していなかったの。

落ちてきた君は、その人を巻き込んで転移した。


異世界転移は1人につき、1度しか出来ないの。

私は失念したわ……この人にだって、仲間や大事な家族がいるのに、私がそれを奪ってしまったと……


それで、どうしても気になった私は、その人の周囲の環境や過去を調べたわ。

本当に吐き気がした……その人は悪魔そのものだった……


その人は、両親を自らの手で殺害し、それだけに飽き足らずこの数年で8人の人間を殺害していたわ。

俗に言う、シリアルキラーね……

私は、この世界にとんでもない人を呼んでしまった……

本当にごめんなさい。」


全てを語り終えると、真理子さんはうな垂れるように頭を下げていた。


「色々と教えてくれて、ありがとうございます。

ほら、元気出して下さいよ! 心配しなくても俺が責任もって、そいつを倒しますから!」


俺は、うな垂れる真理子さんを元気づけようと、椅子から勢いよく立ち上がり満面の笑みでガッツポーズをして見せた。


「ふふっ、ありがとね。

上の厨房が騒がしくなってきたわ、そろそろ昼食の時間じゃないかしら?」


真理子さんは天井を見上げ、上が騒がしいと言ったが、俺には何も感じない、ただの静まりかえった地下室だとしか感じなかった。


「もう、そんな時間でしたか。じゃあ、そろそろ戻ります! 色々とありがとうございました。

また……遊びに来てもいいですか?」


「もちろん。いつでもいらっしゃい。

私はいつでも、ここにいるから。」


真理子さんは、ニカッと笑い手を振っていた。

俺は久しぶりに会った日本人に別れを惜しみながらも、頭を下げ、満面の笑みを見せ部屋を後にした。


薄暗い石畳みの階段を登り、扉を開け通路へと出る。

ゆっくりと閉まった扉は、さながらオートロックのように再び鍵がかけられた音がした。


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