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Chapter46 地下室の女


うむ、今日も実に平和1日だな。


本当に最近は何事も無く、怖いぐらいに平和である。

カルミナが公務の様な書類仕事をする時は、邪魔にならないよう城の中を当ても無くブラブラしたりしている。

たまにする事と言えば、ヴァイスさんが空いている時に剣の相手をしてもらうぐらいだ。


で、今日は何をしているかというと……

暇人全開で、そろそろ見飽きた城を未だ探索中である。


『……ケイ……キ……コ……エル……』


「まただ……幻聴……とは、違うよな……?」


最近、幻聴のような声がよく聞こえてくる。

幻聴と言うよりかは、厨二的に言えば脳内に誰かが直接語りかけて来ているような感じだ。


「今日は、まだ通った事無いとこ行ってみるか。」


普段ならば通らないであろう、食卓係の詰所と厨房がある通路へと足を運んでみる。

たまに人とすれ違うが、ほとんどが会った事無い人ばかりで、言わば城の使用人のような人達だった。


『……チ……カ……』


「え? ちか、地下だって? この声は俺に何をして欲しいんだ、一体……」


1番最初にこの声を聞いた時は、霊的な何かと勘違いし、震え上がった物だが、これは違う。

明らかに、生きた人だという確信があった。


根拠は、だって?

そりゃ、あれだ。野生の勘ってやつさ。


俺は通路を真っ直ぐと進み、食卓係の詰所、厨房を通り越し、そこで通路は行き止まりだった。


何だ、行き止まりか、と引き返そうと振り返る直前。

俺は壁に違和感を感じた。

いや、違和感ではない。ハッキリとそこには扉があった。

しかし表現としては正しいと思う。

そこにあるのに、それを認識出来ない。

とても不思議な感覚だった。


俺は迷う事無く扉の取っ手に手をかける。


ガチャッ ガチャガチャ


「んだよ、鍵かかってんじゃ」


……カチャリ


「……え、鍵が、ひとりでに開いた?」


俺は再び取っ手に手を掛け扉を開いた。


ガチャ……キィィィ……


そこに現れたのは部屋では無く、地下へと続く階段だった。怖いもの知らずな俺は、灯りも無く薄暗い階段を降りて行く。

階段を降り切った所に再び扉があった。


「こ、ここまで来て、これを開けないなんてのは物語上やっちゃいけない事だよな……」


俺は意を決し、扉を開けた。

暗闇に慣れ始めていた俺の目は、突然入りこんで来た明るさに目がくらみそうになる。


「やぁ、初めまして。圭くん。」


突然話しかけられ、直ぐに反応する事ができなかった。目をシパシパさせ徐々に姿が見え始めて来た……


「……あ、あなたが俺を呼んでいたんですか?」


俺の目に飛び込んで来たのは、椅子に足を組んで座った、俺よりは年上のお姉さん。

黒髪のショートに黒い瞳、黒のタートルネックに茶色のタイトなスカート。


「そうよ。立ち話も何だし、そこに座ってちょうだい。」


俺は、謎の女に言われた通りに向かいの椅子に座った。


「まさか、本当に来てくれるとは思わなかったわ。

魔力を持たない君に思念伝達(テレパシー)送るの大変だったんだから。

あ、そうそう私の名前はマリコ。よろしくね。」


マリコさんは足を組んだまま、テーブルに肘をつき顔を近づけ、俺の目をジッと見ていた。


俺は何故だかわからないが、このマリコさんという女の人に対して不思議と親近感が湧いていた。

しかし、同時に違和感も感じていた。



何故だ? 俺はこの人に会った事があるのか……?

いや、無い。初めて会うはずだ……

しかし、何故だ、マリコさんを見ていると不思議な気持ちになる。

懐かしいというか、何かを思い出すというか……


「ねぇ、圭くんはどこから来たの?」


「……!? え、いや、どこと言われましても……」


俺は唐突な質問に息を飲んだ。

カルミナは俺が異世界から来た事は公にはしていない。

言わないほうが色々と体裁がいいのだろう。


「あっ、一応隠してる感じなんだ? まぁそうだよねー私もそうだし。」


マリコさんが俺の目を見詰めたままニカッと笑った。


一瞬の間を置き、俺の頭の中の名探偵が目を覚ました。

隠してる、私もそう? どういう事だ……

それに最初から感じた、懐かしさと違和感……

見た目? いや、普通だ……服装だって普通……


ハハッ……ちょっと待てや俺。どこが普通なんだ?

この異世界でOLのような服装がか?

それに名前だって、マリコとか……

そんな、まさか……


「も、もしかして……マリコさんは!?」


「アッハッハ、もしかしなくても、そうだよ。圭くんと同じ日本人さ。

普通、一目見ただけで気付かないかなぁ〜見てて、笑いを堪えるのに必死だったよ。」


マリコさんは、テーブルをバンバンと叩きながら俺の顔を指差し笑った。


「じゃあ自己紹介も兼ねて軽く、私の身の上話でもしとくよ。

私は真実の真に理科の理、後は子供の子で真理子。

出身は東京、私は5年前23歳の時にこの世界に来たわ。

ただ、君と違う所は圭くんは召喚された。

私は偶然飛ばされてしまったって所だね。


当然、訳も分からず、行く当てもない私は辺りを彷徨い、魔物に襲われたの。

そこに、ここの騎士団が偶然通りかかり助けられて、

私はカルミナ王に拾われたって訳ね。


もちろんカルミナ王にも私が異世界から来たという事は言ってないわ。混乱させるだけだしね。

私はカルミナ王に恩を返す為、何ができるかを必死に考えたの。

そこで考えついたのは魔法だった。私はカルミナ王の役に立つ為に死ぬ気で魔法を勉強したわ。


そして私は、あらゆる魔法を使う大魔法使いとなった。

だけど、その代償は大きかった……

異世界から来た者が異世界の魔法を使う。

神の怒りにでも触れたのかしらね……

私は、神の呪いか、魔法の呪縛か、この部屋から2度と出る事が出来なくなったの。


あ、でも食事とか運んでもらえるし、シャワーもトイレもあるからいいんだけどね。アッハッハ。

それに外の様子は水晶を通せば見えるし、これで圭くんの事も知ったんだよ?」


真理子さんは、何年かぶりに同じ日本人に会えた事が嬉しかったのか、時折哀しい顔を見せながらも終始楽しそうに話してくれた。


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