俺Chapter45 発動条件
ラウルさんは全てを話し終えると、身ぶるいをし、1度自分の頬を叩いた後、冷静に俺の目を見据えた。
「ラウルさんすいません、ありがとうございます。
白い悪魔ですか……ラウルさん達も神楽に剣の技を奪われてたんですね。」
「奪われた!? それはどういう意味ですか!」
ラウルさんは思いもよらない言葉に動揺していた。
しまった……カルミナは演説の時に、神楽がクラウンネーム保持者だとは言わなかったんだった。
本当の事を言うべきか、カルミナの意図を信じるか……
「あ、いや、神楽は悪魔……そう、悪魔なんですよ。
力を吸い取ってしまうような奴なんですよ!」
俺は慌てた顔で嘘を吐いた。
これから共に闘う仲間に嘘を吐いてしまった。
罪悪感に苛まれたが、これは仕方のない事何だと自分に言い聞かせた。神楽の正体が全てバレ、異世界から来たとなった時、急に現れた俺という存在にも疑いの目は向けられるだろう。
そうなった時、周囲の俺を見る目は激変するだろう、それは想像するに容易い。
「そ、そうか……悪魔だったか……どうりで敵わない訳だ……」
ラウルさんは目を瞑り、震える手を押さえつけていた。それを横で黙って聞いていたナポリさんが、慰めるかのようにラウルさんの肩を叩いている。
しかし、今のラウルさんの話の中で、特に不審な点は見当たらなかったな……
悪魔は神楽の能力には発動条件があると言っていた。
何か特別な行動なのか、それとも気付けないほどの小さな事なのか……
神楽に斬られる事? そんな安易な考えでいいのか?
俺が2人の存在を忘れ、考え込んでいる所に、ラウルさんが重大なヒントになるかも知れない事を思い出し、話してくれた。
「そういえば……関係無い話しかもしれませんが、神楽と闘っている時には気付けなかったのですけど、我々が目を覚まし、城に帰り鎧や防具を外していた時、私の鎧の隙間から1枚の小さくちぎられた紙がヒラリと落ちたのです。
それで、皆に確認した所、場所はズボンのポケットや、背中の中、剣の鞘など様々でしたが、皆一様に同じような小さくちぎられた紙が出てきました。
何やら文字が書いてあるのですが我々には読めませんでした。
神楽に入れられたのか、元々誰かのイタズラで入れられていたのか分かりませんが……
いや、関係無かったら申し訳ない。」
ラウルさんは話しながら、鎧の隙間に手を入れ1枚のちぎられた紙を俺に手渡してくれた。
ラウルさんが手渡してくれた小さな紙。
そこに書かれていた文字を俺はすぐに読む事が出来た。
セブン イレ
そこでちぎられてはいたが、すぐに答えは分かった。
間違いない、これはコンビニのレシートだ。
この世界の誰かが、イタズラで入れたのでは無い、
こんな物はこの世界には存在しない。
これをちぎり、騎士の皆に入れたのは神楽しかいない。
「すいませんラウルさん、コレ、少し預かっててもいいですかねー。」
「あぁ、全然構わないよ。」
俺は、ラウルさんとナポリさんに、ありがとうございました。失礼しますと、頭を下げ闘技場を後にした。
俺はレシートの切れ端を見詰めながら王室へと戻る。
窓の外から見える空は茜色に染まっていた。
これに一体どういう意味があるんだ……?
神楽のイタズラ……んな、バカな!
どこの誰が命を懸けた闘いの中でイタズラを仕掛ける。
なんのメリットもないだろう……メリット?
じゃあ、神楽がコレを騎士団全員の身体に忍ばせる事に、何かしらのメリットがあるって事なのか?
メリット=発動条件
これが1番自然な解釈ではないのか。
レシートが発動条件……いや、多分それは違う。
よほどのレシートマニアでは無い限り、そんな枚数を持ち歩いている人は少ない。
すぐに弾切れになってしまうはずだ。
俺は王室の扉を開け、中へと入り椅子に座ると、さながら名探偵の如く、眉間に人差し指を当て考える。
「K、お帰りーどこ行ってたのぉ?」
レシートでは無くてもいい……? 他の物……
神楽の持ち物を忍ばせる事が条件?
そもそも忍ばせるという事は、なかなかに無理があるのでは無いだろうか?
「ねぇってばぁーKぇ〜?」
人間相手には悟られないように忍ばせる事も出来るだろうが、神楽は悪魔や魔王からも能力を奪っている。
悪魔相手にそんな芸当が出来るだろうか……
「聞いてるぅ〜? さっきねぇ、ヴァイス達にコレ貰ったんだぁ。こないだ私が護衛団のみんなにあげた新しい洋服の対価ですって。」
対価……そうか! 神楽は能力を奪う前に相手に対して、何かを対価として渡さなければいけないんじゃないのか!?
恐らく、その取引の中には価値という概念は存在しないのだろう……
相手が悪魔なら、自分の持っている物を投げ渡し、相手が無意識にでもそれを受け取ってしまえば発動するのだろう。それならどうにかなる。
神楽の所有物と引き換えに相手の能力を奪う……か。
「ねーえーKっ」
「分かったぞ!!」
カルミナがすぐ後ろにいる事に気付かずに、俺は勢いよく椅子から立ち上がった。
「きゃっ!!」
「ぬわぁぁぁあ!! カルミナいたのか!?」
俺は考え事をしていると、周りが見えなくなるとは思っていたが、こりゃ重症だな……
「カルミナ聞いてくれ。俺さっきさ、第10騎士団団長のラウルさんと話をして来たんだ。神楽に襲われた時の話を聞いた時、こんな物をラウルさんは持ってたんだ。」
ポケットからレシートの切れ端を出しカルミナに渡した。
「これは俺がいた世界にしか無い物なんだ。
これは能力を奪われたと思われる全員に仕掛けられていたらしい。
ここからは、あくまで俺の仮説だ……
だが、信憑性は自分で言うのは何だが高いと思う。
神楽の能力発動条件は……
ーーー
俺はカルミナに、自分の考え、思い付いた事全てを話した。カルミナは真剣な顔で俺の話を聞き、俺の出した仮説に賛同してくれた。
この仮説を騎士団に話すかどうかの判断はカルミナに任せる事にする。
そして、天使族からの連絡も、悪魔からの接触も無く
イルム王国は、至って平和で何事も無い日々が10日ほど続いた。