Chapter44 2人の団長
俺は、ツンデレ女騎士団長ディアンと別れた後、闘技場へと向かった。城の敷地内の裏手に位置するこの闘技場は俺も1度だけだが利用した事がある。
天井が石造りによってアーチ状に作られた薄暗い通路を抜けると、一気に太陽の光が降り注ぎ、視界が広がる。そこがチカラを競い合う場所、闘技場である。
俺が闘技場へと出ると、目の前で2人の男が闘っていた。お互いに真剣を持ち寄り、激しく斬り合っている。もちろん殺し合っている訳ではない、お互い重厚な鎧に身を包み、斬られたとしても甲高い金属音が鳴り響いているだけだった。
「うわ、すっげぇ迫力だな……痛くないのか……? しかし、実力差か、片方がかなり押してる感じだな。」
とても簡単に声が掛けられるような状況では無いと、俺は2人の戦況を見つめていた。
しかし、ここで決定的な一打が勝負を決める。
片方の騎士が大振りを空振りよろめき、隙を見せる。
「……クッ、これならどぉだぁぁあああー!!」
これがわざと作られた隙だという事に気付かず、これは好機とばかりに一歩踏み出し斬りかかった。
「フンッ、それでは馬鹿のひとつ覚えだな!!」
隙という罠を張っていた男は、まんまと乗ってきた男の懐に素早く飛び込み、勢いよく剣を突き立てた。
「ぐわぁぁぁああッ……」
胴を突かれた男は、後方に大きく飛ばされ、顔を覆っていた冑が外れ転がっていた。
「……つ、つえぇ……これが団長か……」
俺は2人の闘いに感動すら覚え、無意識のうちに小さく拍手をしてしまっていた。
「ムッ、あぁ、あなたは確か圭様ではないですか。こんな所へどうかされたんですか?」
勝利した騎士が俺の存在に気付き、剣を腰の鞘へと収めこちらへと歩いてきた。
「えっと、あなたは……?」
「あぁ!! これは失敬……
私は第10騎士団団長ラウルでごさいます。直接お話しするのは初めてですね。」
騎士は慌てたように、顔を覆っていた冑を脱ぎ去り、右手を差し出した。
この人が、騎士団の中でも武闘派揃いと言われる第10騎士団の団長か。近くで見ると思ってたより若いな……下手したら同い年ぐらいか。
「あ、どうも。初めまして。」
俺は差し出された右手に快く握手に応じた。
「……おいおい、俺を忘れないでくれよ……
いちちち……よいしょっと。
私は第8騎士団団長ナポリです。宜しく。」
後方に倒れていた騎士がゆっくりと起き上がり、こちらに歩いて来て、右手を差し出した。
「あ、小田 圭です。宜しくお願いします。」
俺は再び差し出された右手に快く握手に応じた。
ナポリさんも同い年ぐらいに見える。
俺は、何だか大学時代の数少ない級友を少し思い出し、懐かしい気持ちになっていた。
「しかし、圭様には見っともない所を見られてしまいました。お恥ずかしい限りです。」
ナポリさんは恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いていると、ラウルさんが突っ込む。
「ナポリが本気で来ていいぞって言うからだぞ!」
「いやぁ……さすがにあそこでアレは無いよ……」
「ムッ、ならば稽古はもう付けてやらんぞ!」
「あ、冗談だってぇー、また頼むよ。なっ?」
「今度、一杯奢れよな、」
本当に仲が良いのが伝わってくる。お互いを認め合い、尊重し合うというのだろうか。2人の笑顔からはたくさんの思いが伝わってくる。
俺にもこんな友人がいたら人生変わっていたのだろうか。
「あ、あの、そういえばお2人は何故俺に敬語を使ってくれるんですか? だいたいの人は俺が気に入らないっつーか、そんな態度の人が多かったので。」
俺は2人の間に割って入るのが申し訳無くなりながらも、1つ聞いてみる事にした。
「カルミナ王の婚約者とあらば、我々騎士団が貴方方を敬い、お守りするのは当然の事です。中にはならず者の騎士がいたかも知れませんが、今は……なぁ!」
「はい。今や、圭様を認めていない者など、いませんよ。古代の究極魔法を使いこなし、たった1人でモルゾイの大群を討伐。ましてや、あの大悪魔に対してまでも臆する事なく素手での撃退……誰が今の圭様を見て反感などするものでしょうか!」
2人は肩を並べたまま、それぞれ腕を組み、目を瞑りながら熱い言葉で熱弁してくれた。
「あのぉ……その話は誰から……?」
「はい。剣聖ロア様からです!」
あの野郎……めちゃくちゃ話盛ってんじゃねぇか!
「ハハ……話変わるんですけど、ラウルさん。神楽……
いや、ラウルさんが西の湖で闘った男の事を教えてもらえませんか。嫌な過去を掘り返すのは悪いと思ってます。
ただ、そいつを倒す為に少しでも情報が欲しいんです。お願いします!」
俺は真っ直ぐにラウルさんの目を見詰めた後、ラウルさんに対し深く頭を下げてお願いした。
ラウルさんはしばらく考え、ゆっくりと話し出した。
「……神楽っていうんですか、あいつ……分かりました。
あの日我々、第10騎士団は西の湖の近くへ地理の調査の為に訪れていました。そこで少し休憩を取ろうと湖に立ち寄った時、湖のほとりに1人の見慣れぬ服装をした男が立っていました。初めは冒険者か何かだと思い、私は気にもしなかったのですが。
うちの若い団員がちょっかいを掛けに行ったのです。
少し離れていたので、内容まではよく聞こえなかったのですが、ここは何処だ、みたいな事を言っていたと思います。
私が1度目を離し、次に見た時には既に団員は倒れ、神楽はこちらに走って来ていました。
一瞬でした、次々と団員達が力が抜けたように倒れ、私は剣を抜き応戦しましたが、圧倒的なスピードと身体能力の高さの前に、私は何度も小型のナイフで斬りつけられ、不思議と全身から力が抜けるように意識を失ってしまいました。
再び目覚めた時には、我々は剣が振れなくなっていました……それから我々は三日三晩剣を振り続け、身体が覚えているものなのか、ようやく最近感覚を取り戻した所であります。
特徴ですか? 若く、体型は細く華奢で……
白髪……白い悪魔のような男でした。」