Chapter43 女騎士団長 ディアン
第3騎士団団長 ディアン。大きな目にブラウンの瞳、
美しい金髪をポニーテールに纏め、少し幼さの残る顔立ち。その可愛らしい風貌からは想像できないほどの男勝りな性格と言葉遣い。
女騎士と言えど、他の団員からの信頼は厚く、彼女を慕う者はとても多い。
だが、そんな彼女にもあまり知られていない欠点、いや、愛すべき点があった。
「あ、あのー、ディアンさん……? 大丈夫ですか?」
俺は、わざとらしい心配顔で、ディアンに近づく。
「……!! いや、これはすまない。情け無い所をお見せした。し、しかし、貴様が急に変な事を口走るからだぞ! あまり私をナメない事だな。」
ディアンはすぐに正気を取り戻し、凛々しい姿勢で俺の目をキッと睨み付けた。
うおぉ……怒った顔怖えぇ……
でもディアンって多分歳下なんだよなぁ。見た感じ、凄く若く見えるし。
少しツンデレ属性をいじってみるか。
「実はさ、ここに来たのは、これから先共に闘う事になるだろう騎士団の人達と仲良くなりに来たんだ。だからさ、君の事はディアンって呼んでいいか?」
俺は出来る限りのイケメンスマイルを繰り出す。
「よ、呼び捨てだと!? それに、仲良くだと……わ、私は貴様を信用していないと言ったであろう!」
「……いや……俺はただ……こんな綺麗な女性と、もし仲良くなれたら、それはそれは素敵な事だなって……
いや、ダメならいいんだ。非礼を詫びるよ。」
予想通り怒ったディアンに対し、哀しげな表情からの訴えかけるような視線を繰り出した。
「っし、仕方ないわね! そっそこまで言うんだったら、友達になってあげようじゃない// か、勘違いしないでよね!! あ、あんたがお願いするから仕方なくなんだからねっ//」
よほど、容姿を褒められる事に慣れてないのか、ディアンは顔を真っ赤にし、口を尖らせている。
楽勝だ。俺がどれだけ恋愛シュミレーション物をやり込んだと思ってやがる。ましてや、ツンデレ属性なんてもんは初心者向けだぜ?
「じゃあ、これからよろしくなディアン。ところで、今この詰所には各団長さんはいるのか?」
俺はダメ元で握手の右手を差し出しながら話した。
「フンッ、よ、よろしくね、圭!! この時間、非番の団長達なら闘技場のはずよ。」
ディアンは目こそ合わせはしないが、意外と握手には素直に応じてくれた。
って、そっちも呼び捨てじゃねぇか!
あれ、このくだりは前もあったような気がする。
「そっか、ありがとな! 俺はこれから闘技場へ行ってみるよ。ディアン、またなー!」
俺は振り返り、手を上げ走り出し、全てを言い終える頃には姿が見えなくなっていた。
「ああ、気をつけろよ。
……
1度貴様と手合わせしてみたいものだ。」
第10騎士団団長 ラウルさんに俺は話を聞きたい。
ラウルさんは神楽を見ている。何か些細な事でもいい、俺は少しでも情報が欲しい。
俺は足早に、闘技場へ向かって走り出した。
ーー悪魔の国 通称 魔界
周囲に漂う、禍々しい魔力のせいで太陽の光を遮断し、昼間でも薄暗く、草木も育たない。あるのは無尽蔵に高低差のある岩場だけ。
そこに、かつて魔王城と呼ばれた城があった。
魔物はおろか、下位の悪魔ですら決して近寄らない城。
しかし、今この城には悪魔の王はいない。
1人の人間がこの魔王城を支配していた。
「おい!! アドラメレクいるかー!?」
「…ハッ、ここに。 いかがされましたか神楽様。」
黒い霧と共に、頭部は髑髏、身体は蠍という異形の悪魔が現れた。
「暇すぎんだよ……待ってるだけってのはつまんねぇーなーおい。ところでよぉ、この世界の人間全てを俺の配下に治めるにはどうしたらいい?」
神楽は暇を持て余すように、ソファーに座り白けた顔で壁に向かいナイフを投げ続ける。
「全てと言われますと、西の帝国から逃げ去った者、東の王国、それに各地に点在する冒険者の村や集落。合わせるとかなりの数でございますが……」
「んなこたぁ、わかってんだよ!! それを考えるのが魔王の参謀の仕事だろが。」
神楽の機嫌を伺うかのように言葉を選ぶアドラメレクに対し、神楽はイラつき罵声を浴びせる。
アドラメレクは別の部屋から水晶のような物を持ち出して来て、魔力を水晶に向けて込めた。
そこに写っていたのは東の王国の人間が数名。
しばし覗きこんだ後、これは神楽様に褒められると確信し、ほくそ笑んだ。
「神楽様……東の王国には面白い能力を持った人間がおります。この能力ならば神楽様の望む世界に手が届くかと。」
「なんだ、もったいぶらず言って見ろよ。」
「ふむ……これは……クラウンネーム……なるほど。主人を持たぬ者に対して命令するだけで忠実な下僕となるようです。
おや、クラウンネームがもう1人……これは剣の能力みたいです。……ホッホッホ、これは素晴らしい。魔王様クラスの魔力を持った者までいます。
あと……モヤがかかりよく見えませんな……まぁ、こやつは大した能力ではないでしょう。」
アドラメレクは水晶を覗き込んだままブツブツと呟く。
「おいおい、何だよ! 東の王国は能力の宝庫か!?
剣の能力はどうでもいいが、下僕にできる能力に魔王並の魔力か……おもしれぇ、そいつらの能力を奪ってぶっ殺してやるか。」
神楽は嬉しそうな顔で立ち上がり、水晶を鷲掴みにして覗き込んだ。
「ホッホッホ……それでこそ我々の王のあるべき姿……」