Chapter4 絶対障壁
うーむ、意味がわからない。
カルミナは俺に駆け寄り、介抱するように俺の顔の側にへたり込んでいた。少し泣いていたように見える。
「……K?」
カルミナは、切られたはずの俺の背中を見て、不思議な顔をしていた。
「!?」
俺は、カルミナに名前を呼ばれ、目の前にあるカルミナの太ももをガン見していたのがバレたのかと思い、焦る。
い、いや、見たけど見てないっすよ!?
透き通るような白い肌だなぁとか、もう少し角度があればワンチャンとか思ってないっすよ!?
しかし、俺は背中を切られたはずだ、感触もあった。
ほんの一瞬だが痛みもあった。
自分ではよく見えないが、恐らく血も出ていない。
上着と中のTシャツだけが見事に切られている感じだ。
なんなんだこいつは、マジシャンか?
恐らく、名のあるプロマジシャンとお見受けする!
「え……?あれれ? いや……お、俺は確かに切ったはず……」
モブキャラは、俺の背中をマジマジと観察し、狐に摘まれたような顔をしていた。
「ルフィいや、ルビー君だっけか、今……間違いなく俺の背中を切ったんだよね?」
俺は、呆気に取られたカルミナの横でゆっくりと立ち上がり、砂を払いながらモブキャラに問い掛けた。
「えっ? あ、はい、それはもう思いっきり……」
よし、とりあえず2、3発殴っとくか。
「オラァー!!」
「ひ、ひぃぃいー!! ば、化け物だぁー!」
ルフィ、いやルビー君は、物凄い速さで逃げてしまった、初対面の相手に対して、いきなり化け物呼ばわりはないだろう。
その前に初対面なのに、殺されかけたのだが。
しかし、逃げてくれて助かったと言うべきか、否。
丸腰の相手に刀を持ったまま尻尾巻いて逃げるとは……
何とも情け無い。
それを見ていたカルミナが、目を輝かせながら俺に言った。
「す……凄いですぅ! 感動しましたぁ!
やっぱりあなたで間違いなかったんですね、その能力で私を守ってほしいのです!」
カルミナも急いで立ち上がり、俺の側に駆け寄ってきた。
「んん? 殴りかかる能力??」
「い、いえ、違います……そのぉ何て言いますか、
私達の世界では、今では誰も使う事ができないとされている、
忘れさられた古代の究極魔法、絶対障壁です!」
カルミナは両手を組み合わせ、神に祈るようなポーズで目を輝かせながら、俺に顔を近づけて話した。
何それ怖い
詳しく
「わ、私も古い書物でしか見た事が無いのですが、
かつて、その究極魔法の使い手は、いかなる戦闘でも傷1つ負わずに敵を殲滅できたとか……
何せ、百年以上も前の話ですから、詳しい事は……」
カルミナは、自身の記憶を手繰るように右手の人差し指を唇に当てながら話す。
なるほど、敵にズバズバ切られながらも、奇声を発し勇敢に殴りかかればいいのか。 実に狂人だな。
「いや……俺がいた世界には、魔法なんて存在しなかったよ? 確かに色々と思う所はあるんだけどさ……
と言うか、お、俺だって知らなかったんだし!」
確かに、元いた世界では刀で切られたりなんて物騒な事はなかったからわからなかっただけで、
元々こんな体質だったのか……
そんなバカな、そんな体質なら亜人として今頃FBIに捕まって、エリア51に幽閉されているだろう。
「カルミナ様ー!ご無事ですか、お怪我はありませんか? 遅れをとってしまい大変申し訳ありません。」
カルミナの名を呼びながら1人の男がこちらへ、息を切らしながら走り寄って来た。
初老で髭を生やし、大きな紋章の入った剣を腰に携えている。身なりも実にそれらしい。
その初老の男が走り寄るやいなや、カルミナの前に跪き平伏した。
むむっ、これはテンプレの予感がする。
「彼が身をていしてこの私を助けて下さったのだ」
カルミナは俺の方を指指し、片膝をついた初老の男に対し威圧的に話し掛けていた。
「な、なんと! 我が国の主を助けて頂き、心よりの感謝を申し上げます」
初老の男は片膝をついたまま、俺のほうに身体を向きかえ、一礼をしている。
ほら、なんか主とか言い出したし!
って、カルミナ……なんか少し喋り方変わった?
「お前が誰で、私が誰かを説明してやれ。あと、今の状況も簡単にな。」
カルミナは腕を組み、片膝をついた初老の男に命令する。
カルミナに命令された初老の男は、まだよく分かっていない俺に色々な話しを聞かせてくれた。
初老の男の名はヴァイス、カルミナ専属の護衛団の団長。
ある程度予想はできていたが、思った通り、
カルミナは、東のイルム王国と言う国の国王。
王妃とか女王ではなく、国王で間違いないみたいだ。
女の子が国王なんて珍しいのではないかと、思ったが、それはあくまで俺の中での考えなので、
この世界では珍しくないのかも知れない。
先ほど襲ってきたのが、西のガルム帝国の兵士。
簡潔に説明すると、西と東は今まさに戦争中である事、
西の帝国にとってはカルミナの首が欲しいという事、
と、いった話だった。
つまり俺が、カルミナの文字通り盾になり、襲い掛かる西の帝国の魔の手から、カルミナを守り切ればゲームクリアという認識でいいのだろうか。
「小田殿! お礼も兼ねまして城へ招待致します。」
国があるのだから、当然と言えば当然なのだか、
城と言う言葉に、俺はテンションが上がった。