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Chapter39 不死の弱点


天使の霊を降ろした俺の身体は、かなり疲弊しきっていた。手足に体、全てが重く感じる。

しかし不思議と、脇腹を刺すような痛みは無くなっていた。


「なぁ、アイリ、お前が俺に降ろした天使ってのは、降霊術って言うぐらいだから、もう生きちゃいない天使って事なのか?」


俺は地面にお父さん座りのような体勢で、アイリの方へと向き直した。


「……はい。霊体です。」


アイリは少し回復したのか、俺の横に立っていた。


「……そっか……きちんと例を言いたかったなぁ……

さっきは聞きそびれたけど、天使を降ろすってのは危ない行為だったのか?」


「……普通死にます。」


さらっと、とんでもない事言ったな、今。


「……人間の器で天使の魂を受け止める事はできても、維持はできません。肉体が破壊されてしまいます。」


「な、なんでそんな危険な事、俺にしたのかなぁ?」


アイリは無表情のまま、淡々と説明じみた話し方をしている。俺は、引きつった笑顔でアイリの目を見つめた。


「……何と無く?」


うぉい! 何と無くの一言で俺、殺されかけたの?


俺の死ねない能力のおかげで、今生きているのか、

天使の霊が俺の身体を守ってくれたから、なのかはわからないが、俺のアバラを治してくれたのは天使の霊で間違いは無いだろう。


「……あたしが降霊術使ったの秘密にして下さい。」


アイリは少し、目を伏せて人差し指を自分の口に当てていた。


「ん? あ、ああ。」


そんな危険な術なんだ、恐らく禁術かなんかで、無断で使用したら誰かしらに怒られるのだろうな。

しかし、ミサが言いふらすのでは……?

いや、あいつはアホだから洞窟から出た途端に全て忘れてしまうようなやつだ。


「あ! そういやカルミナに、危なくなったらアイリの思念伝達(テレパシー)で助けを呼んでって言われてたんだった! 忘れてたわ…」


頭の中に、一瞬カルミナの顔が浮かび、思い出したような表情で膝をパンと叩いた。


「……誰が来る予定だったのですか?」


「えーっと、確か…第1か第3騎士団て、言ってたかな。」


「……呼ばなくて正解です。」


それを聞いたアイリがピクッと反応し、ムッとしたような険しい顔つきになっている。


「そ、そうなのか? まぁ何とかなったしな。」


なんだ? アイリはロアが苦手なのか?

それとも、第3騎士団……は、俺は知らないや。

まぁいい、深くは聞かないでおこう。


その頃ミサは、巨大な世界樹の木により登り、手頃な太さの枝を見つけ、折ろうと必死になっていた。


ボキッ バサバサバサ……ドサッ


「ふぅ……ようやく折れましたよー。任務完了です。」


ミサは、自分の手首より少し細いぐらいの枝を、全身の力を使い無理矢理へし折り、地上へと落とした。

世界樹の上で汗を拭い、満足そうな表情をしている。


「世界樹って、なんつーか、神聖な木じゃねぇのか……?

そんな雑な扱いでいーのかよ。」


俺は、ようやく少し身体に力が入るようになり、ゆっくりと立ち上がり、ミサを見上げた。


「いいのですよ。どうせ、ただの木ですからねー。」


ミサは世界樹の幹を手の平でバンバンと叩いた。


ぜってぇ、いつかバチが当たるぜこいつ。


「さぁ、無事に目的は果たせたので、帰るとしましょう。早く帰って新しい杖を作るのですー。私、今からワクワクしてきましたよ。」


ミサは世界樹の幹に抱き着くような体勢でスルスルと下へ滑り降りてきた。


無事、ではないけどな。


「しっかし、帰り道もまた、迷わないようにしなきゃいけないんだよな。結構大変だぞ……」


俺は右手で自分の髪の毛をグシャっと掴み、めんどくさそうな顔をした。


「……ここへ来る時に、白い紙を目印にとちぎり落としながら来ました。」


全然気付かなかったぜ……

さすがアイリ! どこぞのアホとは出来が違うな!


世界樹を後にした俺達は、アイリの置いていた目印のおかげで、何も考える事無く洞窟の外まで出る事が出来た。

歩いている内に自然と身体の倦怠感も薄れ、ようやく万全の状態、と言うところで今回の冒険は幕を閉じてしまった。


しかし、新たな収穫もあった。

いや、新たな問題が出て来た。

あくまで、推測だが、死に至らない攻撃は俺の身体には通るみたいだ。

もちろん、痛みも伴う。

元の世界とは少し現状が異なっている。


もし、あの時バジリスクに一飲みにされていたら、俺はバジリスクの胃の中ですぐには死ねず、ジワジワと溶かされ、どれ程の苦痛を味わう事になったのかと考えただけでおぞましい。


「何をカッコつけて、浸ってるんですか。早く城に帰りますよ? 私は早く帰って世界樹の加工をしたいんですよ。まさか、手伝いたいんですか?」


洞窟を出て、久しぶりに夕日となった太陽を浴びながら浸っていた俺を、背後からミサが杖でつつく。


「本当、ミサって悩みなさそうだよな。」


俺は遠い目をしてボソッと呟いた。


「ななな何をっ、私にも悩みの1つや2つ!

えーっと、団長に怒られないようには、とか、晩ごはんが最近少ないなぁとか……」


「よし、帰るかアイリ。」


「……はい帰りましょう。」


真剣に考え出したミサを横目に、俺とアイリは城へと向かい歩き出した。


「ち、ちょっと待って下さいよぉー。」



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