Chapter37 VSバジリスク
双頭の大蛇バジリスク。魔物の中では上位クラスの強敵。暗く、湿度の高い場所を好む。
雑食で無機質な物以外なら何でも食べる。
もちろん人間も捕食対象である。
「よし! 俺が剣で前線に出る。ミサとアイリは左右に分かれて魔法で援護してくれ。」
俺は革ベルトの鞘から長剣を抜き出し、双頭の大蛇に向かい長剣を構えた。
「わわわ分かりまましたよー」
「……了解。」
俺を中心にミサとアイリがそれぞれ左右に散る。
おお……今の俺、超絶カッコよくない?
まさしくリーダーのような感じがして気持ちいい……
しかし、慣れてきたのか魔物を目の前にしてもあまりビビらなくなったぞ。
悪魔のほうが100倍迫力あったぜ。
「行くぜ! 先手必勝だ! オラァァァアッ!」
長剣を、振りかぶり間合いを詰めるように双頭の大蛇に向かい走る。
蛇の動きというのは素早い、だが俺は思い違いをしていた。
確かに蛇は素早いが、この大蛇は普通の蛇と比べたら、とてつもなく大きい。
イコール、動きは遅いはず。と、自分の解釈で決めつけてしまっていた。
蛇は蛇だった。
「うわぁぁあっ!」
大蛇は俺の剣など、御構い無しに真っ直ぐ俺に向かってきた。そしてそのまま片方の頭で俺に突進したのだ、それはまさに頭突きだった。
俺は頭突きを体にまともに受けて、吹っ飛んだ。
「……ッガハァ……ゲホ、ゲホッ、くそ、超痛え……
アバラが折れたかもしんねぇ……ど、どういう事だ……」
一瞬何が起きたのか把握出来なかった。
俺の能力が今は発動しなかった。
後方に大きく飛ばされ、何度も転がりようやく止まる。
「圭ぽんっ! だ、大丈夫ですかぁー! 」
「……圭。」
ミサは驚き、心配する表情を見せる。しかしアイリは心配はしているのだろうがいつもの無表情だった。
まさか、物理攻撃には対応していないのか?
もしかして、死に直結するような致命傷は無効化できる。みたいな条件でもあるのか?
例えば、あの大蛇に噛み付かれたら俺はどうなる?
じゃあ、1回試してみましょうかぁ〜みたいなノリじゃ、本当に死んじまうかもしれねぇぞ……
「わ、わりぃ……ドジったわ。だ、大丈夫だから!」
多分、アバラが折れてる。息に合わせてズキズキと痛む。
女の子を前に、弱い自分は見せられない。
絶対にプライドが許さない。尻餅をついたまま大きく手を上げ俺は平気なフリをした。
「な、なぁ〜んだ、本当大袈裟なんですから圭ぽんは。」
「……先輩、次がきます。」
ミサとアイリは俺を背に大蛇と対峙した。
大蛇が口を大きく開け、2人を威嚇する。
「いいいいきますよぉー!」
「……はい。」
杖を構えるが、いつものようにミサは恐怖で震えていた。
アイリは何も変わらない、眠そうな目で慌てる様子も無く落ち着いている。
「灰となるがいいですー! メガフレアー!」
ミサの全身が赤い光に包まれ、前方に赤い魔法陣が形成されていく。
いけぇ! ミサァー! って、ちょっと待て!
確かお前のメガフレアは弱火でじっくりのはずじゃ……
ミサの作り出した魔法陣から放たれた、火の魔法メガフレア。それは俺の予想を遥かに越える物だった。
直径5mほどの、巨大な灼熱炎の球体。
その巨大な球体が大蛇を包み込み、燃え盛った。
「……う、嘘だろ……? あれが本当のミサのメガフレア……」
「ええぇぇぇー! なな何ですか今のー!」
俺は唖然とした表情で、燃え盛る大蛇を見ていた。
ミサは驚愕の表情で、燃え盛る大蛇を見ていた。
魔法を繰り出したお前が1番驚いてんじゃん!
て、よく見たらミサの背中に魔法陣が……
なるほど。アイリの仕業か。
魔力強化系の魔法なのか、アイリの魔法をミサの体を通して放ったのかはわからないが、アイリすげぇよ。
ギョアァァァァァアッー!!
「や、やったのか……?」
俺は少し前のめりになり、思わず口走る。
しまった! このセリフでは完全にフラグだ……
俺、この闘いが終わったら結婚するんだ。的な。
爆炎が消え去り、焼失したかに思われた大蛇。
やはりフラグは立った。大蛇はそこに居た。
無傷とはいかないが、あまりダメージを受けた様子でもない。
「く、くそ、あれで倒せないとか、どうすれば……」
アイリがトコトコと早歩きで俺に近づいてきた。
「……圭、バジリスクには多分魔法耐性がある。」
「バジリスク? 大蛇の事か。魔法が効かないならどうすればいい?」
「……物理攻撃。圭の剣だけが頼り。」
「ハハッ、マジか……じゃあ俺がやるしかねぇな。」
俺は、痛みを堪えて立ち上がり、再び長剣を構える。
痛みで顔中から流れる脂汗が止まらない。
「……なぁ、アイリ、バジリスクの動きを少しの間だけ止める事はできるか? 足止めになる程度でもいい。」
「……できる。」
アイリは俺の要望に、いつもより少しだけだが、力強い表情をしていた。気がする。
「よし、じゃあ頼むぜ。俺がバジリスクを切る!」
アドレナリンで痛みが少し麻痺してきた気がした。
俺はアイリの言葉を信じ、無我夢中で再度バジリスクへと突っ込んだ。
「あぁぁぁぁぁー!」
「……グラビティ。」
アイリが茶色の光に包まれ、バジリスクの真下へ魔法陣が展開されてゆく。
重力の増加により、バジリスクは地面に張り付けられるように、動けなくなっていた。
「これでもくらえやぁーっ!」