Chapter32 完全無欠の王
城門前は、異様な重くるしい空気に包まれていた。
若手の騎士達は悪魔を見る事自体が初めてだった。
魔物ではなく、悪魔、呼び名が変わるだけでなく、
圧倒的な存在感。ビリビリと伝わる圧倒的な魔力。
多くの騎士は恐れ慄き、ただの一歩も動けないでいた。
「ははは……そりゃまた、ご丁寧にどうも。
災いの王……神楽だっけか? あんたらみたいな悪魔を従えるなんて、とんでもない奴みてぇだな?」
俺は引きつった作り笑いで、精一杯強がって見せていた。マスティマの目を見ているだけで、魂が持っていかれそうな感覚になる。
マスティマが現れてからは、ベヒモスと呼ばれる巨体の悪魔は、マスティマより一歩後方に下がり、片膝をつき、口を閉じている。
マスティマが自分より上位悪魔である事を表していた。
「ウフフ、神楽様は、このゲームを楽しみたいと仰られてましたわ。そこで、プレイヤーである貴方に、ある程度の情報を流し、貴方にも最大限楽しんで頂こうという、寛大なる心をお持ちなのです。」
げ、ゲームだって? 神楽はゲーム感覚でこの世界を壊そうとしてるってか? ふざけるな!
「神楽様は、西の帝国の国王を殺した日の夜、我々悪魔の父である、魔王サタン様を屠りました。」
「ち、ちょっと待ってくれ! 異世界召喚されてたった2、3日で魔王までやっちまったてのかよ?」
マスティマはとても嬉しそうに、まるで自分の恋人の話でもするかのような表情をする。その話の内容に俺は驚きを隠せなかった。
「さぁ、何日かなどは、わたくしには分かりかねますが、それは圧倒的強さ、圧倒的魔力でしたわ……
ウフフ、今思い出しても身体中が震えます……とても素敵なお姿でしたわ……」
マスティマは顔を赤らめ、自分の両手で自分の身体を抱きしめるような仕草で身体を震わせている。
さてはドMだなこの女……
「でも、そりゃあんまりにもおかしくないか?
神楽は俺と同じ世界から来たはずだ! いくら何でも強すぎるし、展開が早すぎるだろう。」
この時、俺を支配していた感情は、恐怖ではなく神楽に対する嫉妬だった。
「神楽様はクラウンネームをお持ちですわ。そこで……
わたくしには、神楽様が何を仰られてるのかは、よく分からなかったのですが、
テレビゲームには説明書、攻略法という物が存在し、プレイヤーはラスボスの事を事前に知る事ができるとか? だから、貴方に教えてやりなさいと。
神楽様のクラウンネームは[略奪]ですわ。
対峙した者の、能力、技能、魔力。
あらゆる物を略奪できるのです。」
は、はぁぁぁぁぁあ? そりゃ無双過ぎるだろっ!
敵と対峙すればするほど、全てのステータスが増えていくってことか……?
どれだけの者が神楽にチカラを略奪されたのかは分からないが、ただ、確実に最強なのは分かった。
まさしく俺が、なりたかった完全無欠のチートキャラ
「ウフフ……ただし、能力の発動条件だけは教えません。
神楽様のお楽しみが無くなってしまいますわ。
それから、ラスボス側は勇者の事を事前に知る事はできない。ゆえに貴方の能力には追求するなと。
神楽様のように貴方も素敵な能力をお持ちなのでしょうね。楽しみにしておきますわ。」
マスティマは俺に期待するかのような笑みを浮かべ、
俺は神楽との能力の格差に打ちひしがれていた。
素敵な能力だって? 俺の能力地味すぎんだろぉー!
フフッ、俺の能力を知りたいかい?キラッ
とか、やってみたかった……
「最後に貴方のお名前をお聞かせくださるかしら?」
「……小田……圭だ。」
「それでは、小田ちゃん。いずれお会いする日まで……
さぁ、帰りましょうベヒモスちゃん。」
「……ハイ……マスティマ……サマ……サラ……バダ……」
2人の悪魔が黒い霧に包まれ、消えた。
重苦しかった周囲の空気が一気にはれる。
悪魔と対峙し、立ってるのがやっとだった若い騎士達は腰が抜けたように、皆座り込んでいた。
「Kーっ! 大丈夫ー? 怪我とかしてないー?」
「小田っち! 君は本当に怖い者知らずだなぁ!
悪魔を相手にするなんて、僕でも怖かったのにさ。
って、あれ……? カルミナ様のお話し方がおかしかった気が……」
他の騎士と同じように、腰が抜けてその場にへたり込んだ俺の元に、カルミナとロアが走り寄ってきた。
「ん、あぁ、大丈夫だよ。緊張したぁー!
とりあえず、これで敵の大将の名前と能力が分かったな。
悪魔が嘘を吐いているような感じはしなかったし、
今はこの情報を信じて、策を考えよう、カルミナ。」
俺はロアの肩を借りて、ゆっくりと立ち上がりカルミナを安心させる為に笑顔を作った。
災いの王、神楽。
クラウンネーム[略奪]を冠し、あらゆるチカラを奪い自分の物にできる。
俺達の相手は完全無欠のチートキャラだった。