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Chapter31 マスティマとベヒモス


ベリアルと名乗る悪魔と会ってから小1時間ほど経っただろうか。

俺とカルミナが城下町ロートリアから戻ると、何やら門の辺りが騒がしい。何者かと門兵が争っている。

門兵ではない、明らかに人間離れした大きさの人影が見えた。

いや、あれは人ではない。


「な、なんだありゃー? 」


俺達は、只事では無い何かが起きていると察知して急いで門兵の元へと駆け寄った。


頭部は象、体つきは鬼のように筋骨隆々で2足歩行、

お腹だけがぽっこりと出て、餓鬼のようでもある。

見るからに醜悪なそれは、武装した門兵達をいとも簡単に素手でなぎ倒した。


「お……おいおい……これ、ヤバいんじゃないか、カルミナ? すぐに助けに入らないと!」


「あ、あんな魔物、東の地域では見た事ないよっ!

ただの魔物じゃないようなぁ……気をつけてK。」


弾き飛ばされた門兵が俺のすぐよこに倒れ、気絶した。俺はそれを見て顔が青ざめてしまうが、カルミナの手前ビビったとは口が裂けても言えない。


「あぁ! 騎士団達もすぐに騒ぎを嗅ぎ付けて来てくれるだろ。カルミナは少し下がってて。」


俺は丸腰なのを忘れ、先頭に躍り出た。


勢いに任せてバケモンの前に出たはいーけど、めっちゃ怖いんすけど? 見た目ヤバない?

俺の膝のバイブレーション機能が止まらない!


「……イタ……オマエダ……ニオイ……オナジ……」


醜悪な化物は、俺を見つけるなり他の門兵などを無視し、俺に向かい一歩前へ出てきた。


「は、はぁぁあ〜? なな何言ってんだ?

誰と同じだってぇー?」


ようやく外の異変に気付いたのか、10人ほどの騎士が門に集まり出し、門を背に醜悪な化物と対峙した。


「……オマエ……カグラ……サマ……テキ……」


「かぐらさま? 敵? もしかして……」


醜悪な化物は、俺に襲い掛かってくるような素振りは全く見せない。


かぐら……神楽? って日本語?……そうか、わかった。

この世界観に不釣り合いな名前、その神楽って奴が、もう1人の召喚者に違いないだろ!

て、事はこのバケモンは神楽って奴からの刺客ってとこか。


その時、城の方向から眩ゆい光を感じ、振り返ると、顔の辺りがキラキラと光る男がこちらに向かって来た。

第1騎士団団長 [剣聖] ロアである。


「あれー? 敵襲だと思って来てみれば、小田っちじゃないか。ねぇねぇ、こないだ、カルミナ様のお話の前に手を振ったの気付いてくれたかいー?」


ロアは、醜悪な化物の存在を無視するかのように、俺の近くに笑顔で近づいて来た。


何故、こんな凶悪で醜悪なバケモンを目の前にして、普段通りのキャラでいられる……


「って! うわぁ! バケモンいるぅー!」


俺の隣にまで来て、ようやく気付いたようだった。


何故、この巨体のバケモンに気付かなかった……

お前の目線には俺しか映らんのか。


「よう、ロア。俺、カッコつけて前に出たはいいんだけど、長剣持ってきて無かったわ……ロア頼めるか?」


「ハハハッ、お安い御用さっ! この程度の魔物、クラウンネームを使わなくともっ!」


剣聖が来たからには、俺の出番は無いだろうと安堵し、ロアの肩をポンと叩いた。ロアは快く了承し、革ベルトの鞘から剣をスラリと抜いた。


ロアが、目にも止まらぬ速さで間合いを一気に詰めると、その勢いのまま醜悪な化物に斬りかかった。


あー、1度ロアの能力見てみたかったなぁ……

剣聖て言うぐらいだから、相当な剣技なのだろう。


やった。と、思いかけたその時。

醜悪な化物の前に黒い霧が現れ、ロアの高速の斬撃はいとも簡単に受け止められた。 わずか指2本で。


「あらあら、暴力はよくないですわぁー。

わたくし共は、ただご挨拶にと伺っただけですのに。」


黒い霧から女が現れ、親指と人差し指で摘まむようにロアの高速の斬撃を止めていた。


黒髪に底無しのような黒い瞳、背中には白い片翼。

妖艶な雰囲気を纏った、天使のようで、しかし天使では無いと断言できるような女が立っていた。


「初めまして。わたくしはマスティマ、よく天使と間違われますけど、れっきとした悪魔ですわ。ウフフ。

そして、そちらの子が暴飲暴食を司り、貪欲を象徴する悪魔、ベヒモスちゃんですわよ。」


マスティマと名乗る悪魔は、現れてから剣を止める時までも、視線を俺の目から1度もずらさなかった。


「マスティマ……サマ……」


突然現れたマスティマと名乗る悪魔に敬服するベヒモスと呼ばれる悪魔。

剣がマスティマの指から離れると、素早い動きでロアは後退した。


「わりぃ、ロア。後ろの木の陰にカルミナがいる。

護衛を頼めないか?」


「……ああ。それはいいけど、小田っちはどうするつもりなんだい? まさか戦うつもりなのかい?」


俺の横に飛んで戻って来たロアに、悪魔に聴こえないように小さな声で話し、ロアもそれに続けた。


「あいつらは挨拶だけと言っていた、俺の話術で何とかしてみるさ。」


再び俺は前へ出た。内心は逃げ出したいくらいに怖かった。だが、騎士団やカルミナまで見てる中で弱腰な俺は見せられない。

ロアは約束通り、カルミナの元へと向かってくれた。


「お、おい、あんたら、何の用が会って来たんだ。

わざわざ悪魔様がこんな所まで来たんだ、もちろん目的が無いって訳じゃあ、ないんだろ?」


俺は震える声を隠す為、わざと大きな声で喋った。


ベリアルに会ったのが、ほんの1、2時間前だ、こんな短時間で悪魔に再び遭遇するとは考え辛い。

カルミナは言っていた、悪魔の事には詳しく無いと、

と言う事は、悪魔自体、滅多に遭遇する奴らじゃないはず。


悪魔の移動手段は恐らくあの黒い霧。霧となって移動できるのであれば、空を飛べるのと同じだろう。

ベリアルが神楽の元へ戻り、神楽がマスティマを差し向けた。と、考えれば合点がいく。


「ウフフ、もちろん貴方に挨拶をですわ。

神楽様に、我々の敵となる者の顔を1度は見ておけと申し付けられましたの。

ベリアルの言う通り、確かに貴方からは神楽様と同じ匂いを感じますわ。」


マスティマは俺に微笑みかけた。恐ろしい笑顔で。


やはり俺に会いにだったか。

同じ場所から来た奴なら相手がどんな奴だろうと、

気にならない訳が無い。

同郷のよしみ、意味は知らないが、多分そんな感じだ。


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