Chapter30 今一度の決意
今だけは、戦いの事を忘れて楽しもう。
カルミナも同じ気持ちなのか、ローブを深々と被っている為、表情はうまく読み取れなかったが、楽しそうな雰囲気は伝わって来た。
慌ただしい事の連続で、聞く間がなかった、俺がずっと気になっていた事をカルミナに聞いた。
いや、聞いてしまった。
この質問はしないほうがよかったのかも知れないと、
俺は後で深く後悔する事になる。
「なぁ、カルミナ。1つ聞いてもいいか？」
「うんっ、なーに？」
「カルミナって家族はどうしてるんだ？
いやぁ、俺が知ってる世界感では国王はヒゲ生やしたオッサンとかが、普通でさー。
カルミナが国王って聞いた時から気になってたんだよ。
それに、カルミナ以外に王家の人には会った事なかったから、どうしてんだろう？ ってねー。」
俺は歩きながら、何気ない会話のつもりで聞いた。
悪気などは無い。本当に軽い気持ちだった。
それを聞いたカルミナが歩いていた足を止めた。
あれ？ カルミナ黙りこんじゃったぞ……
これ聞いちゃマズイ地雷質問だったのか……？
「い、いやっ、ゴメン！ 変な事聞いて、別に話さなくても」
俺は重くなった雰囲気を察知し、焦った顔でカルミナにこれ以上は聞かまいとしていた。
「……んな、……れた。」
「え？」
「……みんな、ころされた。」
カルミナは、うつむき消え入りそうなとても小さな声で呟き、肩を揺らせて泣き出してしまった。
俺には、何があったのかを聞く度胸は無かった。
聞いた所で俺に何かができるとも思わなかった。
俺は何て事を聞いてしまったんだ……
女の子を泣かせてしまうなんて、イケメンの特権だと思ってた過去の自分を殴りたい！
「え、いや、あの……カルミナ。ゴメン。」
俺は何とかこの場を繕おうと慌てた。
こんな時、どんな声を掛けてあげるのが正解なのか、人生経験の圧倒的少ない俺には思いつかない。
いくら国王と言えど、幼き少女。
しかし少女と言えど、一国の王。
彼女は強かった。いくつもの死線を潜ったのだろう。
顔を上げ、俺に向けた視線は涙の跡はあるが、いつものカルミナに戻っていた。
聞かれたくない過去は誰にでもある、カルミナはその辛い過去を今はもう乗り越えたのであろう。
「……ぐすっ……えへへ、もう大丈夫っ！ なんでＫが謝るのよぉ、いきなり泣いちゃってゴメンね。」
カルミナは涙を拭い、気丈に振る舞っている。
それを見て、俺は何故だか余計に胸が苦しくなった。
「あのねぇ〜私、お兄ちゃんがいたんだぁー、
お兄ちゃんはね、いつも冷静で真っ直ぐで、私には特に優しかった。最後の最後まで私を守ってくれて……
少しだけ、Ｋとお兄ちゃんは似てるんだよ。
優しくて、とても真っ直ぐで。
だから、Ｋに守られてると本当に安心するの……
あっ、ゴメン、いきなり変な話しちゃって……」
カルミナは夜空を見上げながら、遠い記憶を思い出すように兄の事を語ってくれた。
俺はカルミナが言うような立派な人間ではない。ましてや亡くなったお兄さんと比べるなど、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
だけど、俺は素直にカルミナの言葉が嬉しかった。
これを、もらい泣きと言うのだろうか、自然と俺の目からも涙が流れ落ちている事に気がついた。
「……そろそろ帰ろうか、カルミナ。」
「うん、そうだねっ。」
カルミナは笑顔を取り戻し、俺に微笑みかけた。
俺もそれに釣られるように、笑顔になった。
俺はカルミナの笑顔を守りたい。
この笑顔は俺の命を賭けるに値する、いや、1度捨てた命と比較するのは間違っているが、それでも俺は全てを賭けてでも守ると、今一度心に決めた。
ーーとある某所
「イッヒッヒ、今日、僕、面白い人に会いましたよ〜？
聞きたいですか？ 聞きたいでしょう？ 仕方ないですね〜教えましょう。」
道化師は仮面の下でニタニタと笑い、1人の男に近付いてゆく。
「っんだよベリアル。テメェがする話で面白かった事なんて1度もなかったぞッ！」
その白髪の男は革張りのソファーに足を組み、道化師の顔を睨みつけ踏ん反り返っていた。
白髪だが老人という訳ではない。むしろ若い男。
「イヒッ、君は本当に手厳しいね〜。
君と同じ境遇の男に会いましたよ。もう1人の召喚者というやつですねぇ〜。
東のイルム国王と親しくしておりました。
彼達は君の存在は知ってるようでしたよ？
どうです？ 面白い話でしょう？ 我らが主様。」
道化師は、その白髪の男の前に立ち、膝をつき敬服した。
「ハッ！ マジかよ！ それが本当なら最高に楽しい話だな！
ふ〜ん……俺以外にもう1人ねぇ……
是非会ってみたいもんだな。」
白髪の男は道化師の話に興奮し、身を乗り出すように道化師の顔に自分の顔を近づけた。
「そうでしょう。そうでしょーう！ 僕もこの先どうなるか考えただけで、頭がおかしくなりそうでーす。」
道化師は立ち上がり、両手で自分の頭を掴んでグルグルと頭を回し、興奮している。
「て事は、そいつらにとっちゃぁ、俺がラスボスの魔王って訳だ。 ハッ、楽しくなってきやがった！
ラスボスはダンジョンの1番奥で、勇者が来るのを待ってなきゃいけねぇよなぁ、ベリアル。」
白髪の男は再びソファーに持たれかかり不敵な笑みを浮かべていた。
「魔王ですか……？ イッヒッヒ、いーですねぇ。
それでは、僕はこれで失礼します……
……魔王、神楽様。」
