Chapter28 城下町ロートリア
「さぁ、行こうカルミナ」
俺はカルミナの頭から、拝借してきたワンピースのようなローブを頭からスポッと被せ、王室から連れ出した。
城下町ロートリアまでは門を出てすぐだった。
歩いて5分ほど、まさに駅近、いや、城近物件だ。
この街は、俺がこの世界に来た初日に、一度だけ馬車の中から見た事がある。綺麗な西洋風の街並。
しかし、いざ自分の足で来てみると本当に広い。
とても大きな街だった。
カルミナは街へ入ると同時に、ローブの帽子の部分を目が隠れるぐらいに深々とかぶっていた。
まだ街の人達は帝国が落ちた事を知らないだろうが、
西の帝国と戦争中とは思えないほどに活気があり、
そこにはたくさんの笑顔があった。
夜の出店も立ち並び、街も明々と光が灯っている。
あ、あっちに見えるのはいわゆる風俗街では?
よし、次は1人で来るとするか……
「しかし、日も落ちたってのに凄い人だな〜。この街は毎日こんな感じなのか?」
街のメインストリートだろうか、道の両側にズラッと出店が並んでいる。たくさんの人の中をカルミナと並んで歩いていた。
「うんっ!そうだね。この街の人達は本当に毎日楽しそうに暮らしてるの。
……でも、こんな楽しそうな人達を近くで見るのは本当久しぶりだなぁ……アル……」
「え、なんて?」
カルミナが最後小さな声で何かをボソボソと呟いていたが、俺にはうまく聴き取れなかった。
「んーん、なんでもないよっ!
それに、この街には、どこの国にも属してしない冒険者さん達も、たくさん立ち寄るみたいだよ。」
「へぇー、この世界には冒険者とかもいるんだな〜。
そういえば、さっきから騎士っぽい格好をした人をチラチラ見かけるんだが。」
カルミナは何かを誤魔化すように、笑顔を作り首を振っていた。俺は特に気にせず辺りをキョロキョロと見渡し、人間観察に勤しんでいる。
「騎士団の人だよっ。第1から10の騎士団のうち、2つの団に毎日入れ替わりで街の警護をしてもらってるんだよー。」
そうだったのか、さっき見かけた騎士が、風俗街で色っぽい服装をしたお姉さんにつれられて、如何わしい店に入っていったが、カルミナには黙って置くか。
「なぁ、カルミナ、何か軽く食べないか?
美味しそうなもん出してる出店もあるし……
って、そーいや、俺、金持ってねぇーッ!」
「アハハッ、大丈夫だよ、私がちゃんと持ってきてるからぁ。ねー、何食べる〜?」
俺はポケットに手を突っ込み、ポケットの裏地を引っ張り出した。するとカルミナが笑いながらお金の入った布袋を俺に差し出した。
く、くそぅ、なんてこった……歳下の女の子に食べ物を奢られてしまうとは……
カッコ悪過ぎんだろ、 俺!
「じゃ、じゃあ、あの串焼き肉食べようぜ!」
「あー、ギャリウヌの串焼きだねっ! 美味しそうっ」
しまった……モルゾイじゃなかったのかアレ。
なんだよギャリウヌって!! 怖えよ!!
どうせまた、あきらかな珍獣だろうからあえて聞くまい。
「おっちゃん! 串焼き2本お願い!」
いかにも大将といった顔付きの男に、俺は2本指を立てて、注文した。
「らっしゃい! あいよぉ〜2本ねぇ〜。
2本で400イルだ! ほら、お嬢ちゃん持てるかい?」
カルミナが無言でコクリと頷き、串焼きを受け取った。
俺はカルミナから受け取った布袋から硬貨を出し、
100と書かれた銀貨4枚を大将に手渡した。
「ほいっ、まいどぉ〜!
しっかし兄ちゃん、可愛い女の子連れてるねぇ〜彼女かい? 大事にしなよ〜ハッハッハッ。」
大将は腕組みをしながら、顔を隠したカルミナをジロジロと見ている。
カルミナの顔が太陽に吠えろの夕日のように赤い!
まさか国王だとは、普通は思わないよなぁ。
もし、今国王だとバラしたら、あのおっちゃんどんなリアクションになるのか。
いや、バラさないけどね!
大将の屋台を後にし、熱々の串焼きを一口頬張る。
なんだこれ、めっちゃウマイ! マイウーって奴だ!
豚肉に近い気がする……多分豚の魔物だろう。
2人で食べながら歩いていると、街の中心の噴水広場に何やら大勢の人だかりが出来ていた。
「なんだろう……ねぇ、Kっ行ってみよぉ〜。」
カルミナは軽く俺の袖を掴み、人だかりに近づいた。
人だかりの中心で道化師のような格好をした人がパフォーマンスをしているみたいだ。
ピエロと呼べるような可愛い見た目ではなく。何か邪悪な雰囲気の仮面を被った、男か女かもわからない人間だった。
物が消えたり、移動したり、手品なのか魔法なのかはわからないが、凄く鮮やかなパフォーマンスだった。
「イッヒッヒ、今日はここまでですよ。
それではまたお目にかかりましょう。」
不気味な道化師は右手を挙げ振り下ろしながら、観客に一礼し、観客も盛大な拍手を送っている。
「なーんだ、もう終わっちまったのかよ〜。」
もっと観たかったなぁと2人で話しながら、その道化師の横を通り過ぎようとした時だった。
俺は耳を疑った。
「……イッヒッヒ……これは面白い。
……もう1人の召喚者ですか…」