Chapter26 もう1人の異世界召喚者
「3日前、神はこう、おっしゃりました。
近いうちに、この世界に招かれざる客が来る。
その男はこの世界に、混沌と恐怖をもたらすであろう」
サラハさんは胸の辺りで手を組み、目を瞑ったまま少し怪訝な顔をしながら話し出した。
ん? カルミナさん……? 何故、一歩退いてジト目で俺を見てるんだ……
って、俺が疑われてるのか!?
いや、俺は招かれた客のような気がするのだが。
「それから、2日前、災いの子は舞い降りた。邪神より冠名を賜わる。災い降り立つはここより西の湖。災いの子は終焉に向かって歩き出す。」
「なぁ、カルミナ……イルムの兵士さんが、西の湖がどうとか言ってなかったか、確か……」
俺は兵士の言葉を思い出し、カルミナに視線を向けると、カルミナが俺の目を見て、コクッと無言で頷く。
「そして今日、災いの子は西の帝国を手中に治める。魔物も災いの子と同調し、世界に仇なす存在となる。
以上です。
既に、これは起きた事柄であるという事をご理解頂きたいと思います。」
話し終えると同時にサラハさんはゆっくりと目を開けた。
「なぁカルミナ、これはその男の手によって、ガルム帝国が落ちたって事でいいんだよな……?
それに、冠名ってクラウンネームの事だろ?」
「うん……帝国がたった1人に落とされるなんて、ちょっと信じられない……でもね、神には全てを見通す力があるの、だから本当なんだろうね。
これなら、第10騎士団が負けたのも頷けるね……」
俺とカルミナはお互いに顔を見合わせ、最悪の方向にパズルのピースが埋まってゆく事を感じとり、額に汗を流した。
俺と同じ日にこの世界に来た奴がもう1人いる。
そいつは根っからの悪で、邪神に気に入られ、クラウンネームを与えられた。
それから腕試しにと西の帝国を落とした。って所か……
「あのー、サラハさん、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
「その男って、異世界からの召喚者ですよね?
召喚者が実はもう1人居て、そいつが世界を救う的な事とか神様は言ってなかったですか……?」
この話の展開から予想しうる展開、それは俺が救世主の立場である事。
神は俺の事も知っているはずだ。
「いえ? 特に他には何も?」
クソッ、俺の主人公説が薄れていく!
「じゃあ、私達イルム王国はこれからどうしたらいいのでしょう?」
「そーだよっ! 私達、天使族にも何か力を借りたいって事なんだよねぇ? サラハちゃん?」
カルミナとナミエルちゃんは2人で並んでサラハさんに詰め寄るように顔を近づける。
2人を後ろから見ると何故だか姉妹に見えてくる。
「分かりました。端的に申し上げます。
知っての通り、私達神族の生き残りはあくまでも中立の立場を守らなくてはいけません。
そこでお願いです。イルムの民と天使で手を取り合い、
災いの子、いえ、災いの王を討ってもらえないでしょうか。
世界が終焉に向かうのを止めてもらいたいのです。」
サラハさんが真面目な顔付きで、並んだ2人に対して深々と頭を下げていた。
この展開、まだ、俺の主人公説は生きてる!
いや、俺が自分から主人公に近づく努力をしなくては。
「カルミナ、ナミエルちゃん、答えはもちろん……?」
「お受けしますっ!」 「しょーがないなぁもう。」
この3人の中で恐らく俺が1番ヤル気があったと思う。
カルミナは断る訳が無いとは思っていたが、ナミエルちゃんは渋々応じるような感じだった。
よし、決まりだ!って、何から始めればいいのだろう……
いきなり西の帝国に倒しに来ましたーッて、乗り込む訳にも行かないだろうし。
「よぉし、そうと決まれば1度帰って、大天使様たちに相談しってくっるよぉ〜。3日後ぐらいにカルミナちゃんのお城に遊びに行くから待っててねぇ〜ん。
圭ちゃんも、まったねぇー! ばいばぁ〜い」
ナミエルちゃんは渋々了解したと思っていたが、意外と楽しんでいるのか、すぐに笑顔になり俺達2人に手を振りながら出て行った。
うわっ! 飛んだ!
閉まったままの扉にそのまま突っ込んでゆくのかと思ったが、直前で勢いよく扉が開き当たらなかった。
本当に不思議な扉だ。
「じゃあ、私達も帰ろっかぁ〜、ねっ。」
「おうッ! そーだな。それじゃあサラハさん、失礼します!」
「また、いつでも寄ってらして下さいね。」
俺とカルミナは最後にサラハさんにお辞儀をして、歩いて扉を出た。サラハさんも扉が閉まり、俺達が見えなくなるまで頭を下げていた。
俺とカルミナは塔を後にし、カルミナが外で待っていたみんなにサラハさんから聞いた話を簡単に説明しているようだった。
また、ミサがいない……辺りを見渡す俺。
あ、いた、岩場の陰でしゃがみ込んでいた。
ミサの事だ、どうせしょうも無い事をしているに違いない。
「おい、ミサ! 今カルミナがみんなに話を……
って、何やって……」
「だぁーかぁーらぁ〜見てわからないんですぁー?
蟻の巣に石を詰め」
「蟻の呪いで死ねっ!」
俺達3人は再び馬車に乗り込み帰路へとついた。
帰り道、一晩泊まった後に数匹のゴブリンと、大きな蛙の魔物に襲われたが、俺とミサが馬車から降りる事無く、全てジャックさん率いる騎士団が倒してしまった。
無事、俺達はイルム王国に帰ってくる事ができた。
これからカルミナが大広間へ城の皆を集めて話をする。