Chapter18 2人の帰る場所
どうあれ俺達は、モルゾイの捕獲に成功した。
方法はあれだが、俺達が倒した事には変わりはない。
こんなに大きな巨体を、どうやって持ち帰るのかとミサに聞くと、どうやらモルゾイは腕の部分しか食べられないらしい。
暗闇の中を近付きよく見ると、腕の部分だけは白黒のまだら模様で、俺の知った牛の要素がある。
恐らくカルミナは、騎士が狩ってきたこの腕の部分しか、見た事が無かったのだろう。
鳴き声も、誰かが適当に教えたとしか思えない。
「つーかさ、お前、完璧に使いこなせるのはテレポートですかね〜とかアホみたいな顔で言ってたじゃん!全然使いこなせてないよ? よりによって俺のゼウスを飛ばしやがって! 下手したら訴訟問題だぞこれ!」
膝をついていた俺は、ガクガクと足を震わせながらゆっくりと立ち上がり、半泣きで拳を握りしめた。
「ゼウス……?? 神様の事ですか??」
「い、いや、なんつーか、ほら、神様の…絵がかかれたシールだよ!」
ミサが目をまん丸とさせて、キョトンとしていたので、俺は身振り手振りで説明する。
元々ビックリマ◯に、興味などは無かったのだが、
この異世界で、唯一、元の世界を思い出せる物として、
ゼウスに妙な愛着が湧いていたのだった。
「あー、あのモルゾイの目に付いてた紙みたいなやつですねー、紙の神でまさに神業! みたいな感じで良いじゃないですか。お互い無傷なんだし、よしとしましょうよー。」
誰がうまい事言えと!
確かに、ゼウスのおかげでモルゾイを倒す事ができた。
神に、いや紙か? 感謝せねば。
仰向けに倒れたモルゾイによじ登り、長剣を抜いた。
黒い毛で覆われた胴体と、白黒のまだら模様の腕の境目へと長剣を刺し、腕を切り取る。
思っていたよりは、血はでなかった。
腕の切断面を、ミサが用意していた布で包み紐で縛る。
普通なら、この猟奇的な行動に怖じ気付いてしまいそうなのだが、見た目が完全に魔物なので、そこまで良心は痛まない。
俺は半ば事務的に、そつなくこなしていた。
「よいしょっとぉーっ! さぁ、帰ろうぜ。
あ、着いたらすぐにパンツ履き替えろよー」
「わわ、わかってますよ! もう!」
俺は1本が10キロほどあるモルゾイの腕を、両肩に担ぎ上げた。
こんな力仕事、元の世界の俺だったら絶対に嫌がっていたはずなのだが、今は苦でも何でも無い。
街灯などはもちろん有るはずもない。
暗闇の中、月明かりを頼りに来た道を戻る。
幸い、他の魔物に襲われる事無く、俺達は無事に城の門まで帰る事ができた。
門の前では十数名の人影が見える。
俺達の帰りを、待っていたのであろうか。
「あれ……? 誰だろう? カルミナ達かなー」
「……! あわわわ……ヤバいですぅ……絶体絶命ですよ……」
遠くを見るように、目を細め、手の平を目の上に当てて見るが、俺には誰がいるのかよく分からなかったが、ミサはすぐに勘付き、急に震え出した。
もう少し近付くと、おのずと正体は見えて来た。
誰であろうそれは、ミサに嘘の集合場所を教えられた他の魔法騎士の方達だった。
「「ミィ〜〜〜サァァア〜〜〜!!」」
「ヒッ、ヒイィィイ……ゴメンなさぁぁーい……」
ミサは魔法騎士の方々に囲まれ、ボコボコにされている。手加減は勿論しているのだろうが、鬼の形相だ。
だが俺は助けない。これもまた優しさというやつだ!
チラッと横目で見ながらサッサと城へと入ろう……
俺が横を通り過ぎる時、ミサをボコる動きを止め、
俺に会釈をしていた。
きっと真面目で礼儀正しい方達なのだろう。
門をくぐり城内へと入った俺は、少し足早に、
カルミナの所へ戻ろうと、王室へと続く通路を歩いていると、
またあの男に会った。
「やぁー小田っち、また会ったね!」
ロアだ、天然でちょっと頭のおかしい剣聖様だ。
こちらに大きく手を振っている。
「あれー? 小田っちが担いでるのってもしかして、モルゾイじゃ……
もしかして、外に出るって言ってたのは、モルゾイを狩るためだったのかい?」
足を滑らすようなモデルウォークで俺に近付き、
肩に担いでいたモルゾイの腕を覗き込んできた。
「あ、あぁ、カルミナに頼まれてな」
「しかし小田っちも強いだねーモルゾイ倒しちゃうとかさ、何人で討伐したんだい? 10人ぐらいかい?」
ロアが壁にもたれかかり、髪をかきあげると顔の辺りがキラキラと光った気がした。
「ん? いや、2人だよ。俺と頭のおかしい魔法騎士」
「えっ!? 嘘だろ……? 普通、モルゾイ討伐といったら僕達、騎士団でも5人編成だし、魔法騎士でも10人以上で討伐に向かうのが普通なんだけど……」
壁から離れ、一歩俺に近付き驚愕の表情を見せた。
マジかよ! あのアホ魔法使いめ……下手すりゃ死んでたじゃねぇか。いや、死ねないのか。
あいつ1人でもチョチョイのチョイ的な事言ってたじゃねえか……騙されたぜ。
よし、今度はミサ1人に行かせてみるか。
「じゃ、じゃあ俺、カルミナの所に行くからさ」
「ああ、王にもよろしくね! あ、そうだ、今度は僕の団とも一緒に魔物討伐に行こうよ。約束だよ!」
「あ、あぁ……こ、今度な」
俺はいい加減肩が辛くなってきたので、早々に話を切り上げ、ロアに後ろ手を振った。
ロアは俺が見えなくなるまで大きく手を振っていた。
長い通路を抜け、カルミナの待つ王室の前に着く。
扉を開けると、天使のような笑顔で迎えてくれる少女。
「おかえりなさぁい 、K。」
「あぁ、ただいま、カルミナ。」
俺が歩んで来たくだらない人生の中で、今が最も
『生きている』と実感できる瞬間だった。