Chapter17 死闘
少し冷静さを取り戻したのだろうか、ミサの顔から、
気持ちの悪い引きつり笑いが消えていた。
しかし、どうしたものか。
というか牛じゃないじゃん! まるっきりモンハンの世界観だったぞ。
騙された……いや、勝手に俺がモルゾイ=牛 と思い込んでしまったのが悪いのだが。
何とかして、俺達はモルゾイを倒さねばならない。
俺の剣は、自分で言うのも何だが頼りにはならない。
不本意だが、今はミサの魔法だけが俺の頼りだった。
「ミサ、落ち着いたか?」
「はい! 私これでも大魔法使いなのでぇ。テヘッ☆」
さっきまでの、イカれた顔が嘘のような、
満面の笑みと、テヘペロ。
立ち直り方が、いかにもアホだな。
「よし、大魔法使いミサ様は他にどんな魔法が使えるんだ? とりあえず今、有効手段になりそうなやつ」
作戦会議をするかのように、俺はミサの正面に胡座をかき、座り。
ミサも俺と向かい合うように、正座をした。
「えーっと、じゃあメガフレアとかどーですか?」
「おおー! 相手も一応獣だし、炎とかいかにも効きそ…
ちょっと待て、弱火でじっくりコトコトみたいに、
小さな炎じゃあないだろうな……?」
俺は一瞬イケる。と思ったが、ミサの事だ、どうせ何か裏があると、疑ってかかった。
「バカにしないでください!プンッ。私の全力のメガフレアで作るシチューは評判なんですからねっ」
ミサはむくれっ面でアゴを尖らせていた。
「うぉい!! やっぱりじっくりコトコトじゃねぇか!!
変に刺激したら、余計危ないだろ。
確実に一撃で仕留めないとこっちが危なくなるし……
他には何か無いのか?」
ミサがボケて俺がツッコむ、さながら夫婦漫才のようでもあった。
「そうですねぇ、あとは、完璧に使いこなせるとしたら、テレポートとかどうですかねぇー。」
よくそれだけで大魔法使いとか自称したな。
俺は自分で言うのも何だが、自称頭がいい。
頭をフルに回転させ、作戦を考えた。
「剣とテレポート……か……それなら、俺の剣をテレポートさせる事は物量的に可能なのか?」
「ちょっと貸してみて下さい。……あー、これぐらいの物なら余裕ですよ。まさに楽勝です。」
鞘から抜き出した長剣を、ミサに差し出すと、
ミサは両手で長剣を受け取り、上げたり下げたり、重さを確かめると、楽勝だと豪語した。
「よし、次は、物体の中へ物体をテレポートさせる事は可能か? 例えるなら金庫の中へ、扉を開けずに内部へ物を入れたりだ……」
「んー……やった事無いけど、できるんじゃないですかぁー? どうするつもりなんです?」
ミサは俺に長剣を返しながら、首を傾げていた。
やった事無いけど、できると言える。
この心構えは素晴らしい。
「この剣をミサが、モルゾイの頭の中へテレポートさせる。すると、どうなると思う?」
俺は受け取った長剣を、自分の頭に重なるような仕草をミサに見せた。
「あー! 小田ぽんあったまいいですねぇー。その作戦ならきっといけますよー」
ミサはすくっと立ち上がり、目をまん丸にさせ興奮した。
この作戦が成功すれば、恐らくモルゾイを倒せる。
モルゾイの頭部は、この長剣よりは小さい 。
テレポートが成功すれば、頭から剣が貫通し、飛びだす。それが致命傷となるだろう。
だが、成功した時の様は、まさにグロ映像だろう。
「よし、行くか。もうちびったりすんなよ!」
「わわわわかってますよ! 早く行きましょう」
ミサに続き、俺もすくっと立ち上がり、拳を握りしめた。
俺達は、恐る恐る森を出たあと、暗闇の中をゆっくりと歩くモルゾイへと近づいた。
再び、モルゾイと合間見える。
近くで見ると、見上げる巨体に邪悪な存在感。
絵も言われぬ恐怖で、俺の足は震えた。
しかし、ミサの方に目をやると、何故だか自信に満ち溢れている顔をしていた。
頼りにしているぜ! 相棒!
「完全に敵意が剥き出しになる前にやっちまおう!
よし、頼んだぜ、ミサー!」
先手必勝。相手に先に仕掛けられてしまうと、
恐らく勝機は無い。俺は、長剣を頭より高く掲げた。
「……時空を司る精霊よ……我が問いに答え、我のチカラとなり、空を切り裂き、時を超えよ!!
テレポートォー!!」
先ほどまでとは別人のような顔で詠唱を唱えだすと、ミサの身体が、薄い紫色の光に包まれた。
唱え終わり、杖を振り下ろすと俺の頭上には、紫色の魔法陣が現れた。
出た! 魔法陣! 何回見ても感動する。
物凄くリアルなCGを目の前で見ているようだ……
「ん?……何か発動したみたいな感じはしますけど、剣はまだここにあるんですが……?」
「えぇー!? ちゃんと私テレポートしましたよー?」
俺達2人はお互い目を合わせ、目をパチクリさせた。
「モルゾイの様子はっ……ん? 何だ? モルゾイの顔に何か引っ付いて……あぁぁぁぁぁああ!」
何か状況の変化を探ろうと、モルゾイを見上げた。
すると、モルゾイの顔付近に、何か違和感を感じた。
モルゾイの、両の目を覆うようにそれはあった。
そう、あれは、ビックリ○ンシールである。
俺が後の家宝にと、大事にポケットの中へとしまい込んでおいたはず。
裏紙とシールの2枚に分かれ、モルゾイの両目の中へと、
目隠しをするように、見事に入りこんでいた。
「……おいおい……シールってのは、裏紙剥がしちゃったら価値がなくなっちゃうんだよ…ゼウスぅぅう!」
俺はモルゾイを見上げ、絶望の表情で、膝からガクッと崩れ落ちた。
「え? なんですか? ちょっと何言ってるかわからないんですけどー?」
急に前が見えなくなり焦ったのか、モルゾイが必死に目の中に入り込んだ何かを取ろうともがいているが、
手がとても短く、顔に全然届いていない。
ちょっとウケる。
モーガァァァアァァッー!!
モルゾイが地響きをあげながら急に走り出し、雄叫びを上げながら暴れ出した。
そしてそのまま大木に激突し、その場に倒れ込んだ。
ズズゥーーン……
俺たちは倒れたモルゾイにゆっくりと近付き、息絶えたのを、長剣でチクチクと刺したり、杖で叩いたりし、反応が無い事を確認した。
そして俺は手を合わせた……もちろんゼウスにだ!
「はぁ……はぁ……ど、どっちが倒されてもおかしくないような死闘だったな……」
俺は膝に両手を付き、息を荒げる芝居をした。
「は? 何言ってるんですか?」
おい、そこはノッて来てくれないのかよ。