Chapter14 王からのお願い
「よぉーし! いっただきまぁーす! 」
俺は勢いよく手を合わせた。それを見たカルミナは、
少し不思議な顔をしていた。
良い子のみんな、ちゃんといただきますは言えてるかな?
パッと見た感じは、食卓に違和感を感じない。
パンとスープに、何かの肉のステーキに山盛りの果物。
俺が飛び降り自殺を図ってから、どのくらいの時間がたったのだろうか、久しぶりの食事に心が踊る。
「期待してた以上に美味しいよコレ! パンも凄く香ばしくて最高! 」
まずは、パンを大きくかじり、スープを一口飲んだ。
「うちの食卓係が焼くパン美味しいでしょ、私も大好きなんだぁ〜」
カルミナはパンを持って、頬に当てながら満面の笑顔を見せた。
「あ、そういえばパンって、俺がいた世界と共通語なんだな。これはスープでいいのか?」
パンを片手に持ったままスープを指差した。
「うん、スープだよぉー」
「じゃあ、このステーキは牛……」
「モルゾイのお肉だよー柔らかくて美味しいよね〜」
俺が肉を指差し、牛肉と言い終える前にカルミナが、満面の笑みで、謎の生物の名前をよんだ。
何それ怖い
「い、いやぁ……ハハッ、お、俺の世界にはモルゾイなんて生き物いなかったからなぁ……ど、どんな生き物なんだ?」
俺は少し額に汗をかきながらも笑顔を保ったままカルミナに問い掛ける。
名前からして俺は、頭の中で、とんでも無いクリーチャーを想像していた。
「えーっとぉ、大きくて足が4本あってぇシッポもあって白黒のまだら模様! あと、モ〜って鳴くぅ!」
カルミナは斜め上を見ながら、思い出すように右手の人差し指をこめかみに当てていた。
俺の頭の中で、完全に牛の情報と一致した。
「……あぁ、よかった、俺の世界にも牛って名前でいるよ……それなら安心した!」
安堵の表情を浮かべ、傍らに置いてあったフォークを手に取り、肉へと刺し、口へと運ぶ。
美味い! 松阪牛のように、口の中でとろけるような食感!! あっと言う間に全て完食してしまった。
そこで、カルミナが突然話を切り出す。
「さっきまでKは、ヴァイスと特訓してたんだよね?
私がお城に居る間は、騎士もたくさん居るし、ずっとお側に着いてなくちゃいけないって訳でも無いから、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれるぅ?」
右手にフォーク、左手にスプーンを持ったまま、
こちらを向いて話している。
「ん? ああ、いいけど?」
俺は一通り食べ終わり、口の辺りを拭っていた。
「あのね、調理部隊からモルゾイ……牛? だったかな? お肉の在庫が切れたって、お話しを聞いたの。
普段は騎士団に捕獲をお願いするんだけど、今は騎士団全ての部隊に、別々の命令を下しちゃってるから、
魔法騎士の人達にお願いしたの。
そしたらね、女手ばかりじゃ不安だからって、男の人を貸して欲しいと頼まれたの、それでKの実戦練習もかねて、どぉかなぁって……」
カルミナはようやく両手に持ったスプーンとフォークを置き、お願いするように両手を組み合わせた。
おいおい、魔法騎士さんに会わせてと、お願いする前にそちらから来たか……
これは俺にとって、願っても無い展開!
可愛い(願望)魔法使いちゃんとデー……いや、実戦とは、
断る理由は無い。ましてや相手は牛だ、いけるだろう。
「ああ、いいぜ! カルミナの頼みならしょうがないしな!! 一狩り行ってくるぜぇ!」
俺はあくまでカルミナの頼みなら、の部分をを強調しつつ、拳を天井へと突き上げた。
念願の魔法騎士ちゃんに会える……
「ありがとぉーじゃあ、1時間後に城の門の前で集合ね! 魔法騎士のほうには私が伝えておくからねぇ」
カルミナの顔が、パァーっと晴れるような笑顔になった。
「ん? えらい急な話しなんだなー、もうそろそろ日が暮れるんじゃないのか?」
窓の外を見ると、空は赤く染まり、上のほうから紫がかって綺麗なグラデーションになっている。
「え? だってモルゾイって、明るいうちは隠れてて日が暮れ出す頃に活動するじゃない! じゃあ、お願いねぇー。」
そう言い残すと、カルミナは足早に出て行ってしまった。魔法騎士に話をつけに行ったのであろう。
ちょっと待て、牛にそんな習性があるなんて初めて聞いたぞ?
俺が知らないだけで、これは常識なんだろうか?
まぁいい、あまり気にしてもしょうがない。少しくらいは、何か武器を持って行ったほうがいいだろうな。
流石に魔法使いとはいえ、女の子に任せっぱなしと言うのは俺のプライドが許さない。
とりあえず、騎士団が詰所として使っている部屋へ行けば、何か武器になる物があるだろう。
扉の外に立っていた騎士に、詰所の場所を聞き、俺はそこへと向かう。
長い廊下を歩いていると、前方からなにやら顔の辺りがキラキラと光っている、騎士らしき男がこちらへ向かって歩いて来た。
「やぁ、また会ったね!」
ロアがオーバーアクション気味に手を振っている。
悔しいが、俺より少しだけイケメンの [剣聖] ロア。
「君、城中でかなりの有名人だよ! 王の婚約者でしかも絶対障壁の使い手ってさ、突然なんだけど僕は、君の事を親しみを込めて小田っちと呼びたいんだけど、いいかな?」
謎のモデル立ちで、俺の顔を指差しウインクをした。
な、なんだ? 馴れ馴れしいを通り越して天然っぽく見えてきたぞ……俺はこういう奴は嫌いじゃないが。
「あぁ、いいぜ! そのかわり俺もロアって呼ばせてもらう事にするよ。」
親しげにされる事にすら慣れてなかった俺は、自分でもよく分からない表情をしてしまっていた。
「もちろんいいさ! 別にロアぽんみたいな感じで呼んでくれてもいいんだよ?」
何故か少し身体を横に向け、髪をかきあげながら言う。
あー、こいつ天然だわ間違いない……
まさか、剣聖様であろうお方がこんなやつだとは……
「い、いや、ロアでいいや。なぁロア、何か武器になるような物無いかな? ちょっと魔法騎士と外に出る用事があるから何か持ってたほうがいいかなって。」
少しめんどくさそうな気がしてきたので、強引に話を進めていく。
「へぇー、あ、じゃあコレあげるよ。僕はまだスペアもあるし、友情の証ってやつさ!」
「え!? いいのか?」
ロアが腰に巻いていた革ベルトごと外し、剣と鞘付きの革ベルトをセットで手渡してきた。
俺は、鞘から剣をスラリと抜いてみる。
細身の長剣 これは軽くて振りやすい!
ロアは変な奴だが、いい奴なのは間違いないようだ。
俺はロアに礼を言い、待ち合わせ場所へと、はやる気持ちを抑えつつも足早に向かった。
いざ魔法使いちゃんの元へ!
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