Chapter10 少女の為に出来る事
俺があの後、カルミナから念を押されたのは、
その効果が分からないうちは、クラウンネーム持ちの人間には下手に接触しない事。
俺に覇気が効かないからと言って、他の能力まで効かない保証は無いという事だった。
カルミナのように、多くの人を同時に支配するような能力は珍しいみたいだ。
ほとんどは、個人の能力向上タイプが多いらしい。
クラウンネームが、能力を使った時にはオーラが見える。カルミナのように能力を自分で止められないようなタイプは、常にオーラが見える。
恐らくカルミナも、あまりこのチカラの類に関しては、自身無さげなので、あまり詳しくないのだろう。
聞いた話を纏めるとこんな感じだった。
「も、もしや、この俺の死ねない体質はクラウンネームでは? 俺が、この世界に選ばれし人間の1人だったと……」
俺は一歩後ずさりし、厨二病さながらに、それっぽいポーズを決めた。
せっかく異世界に来たのだ、この不思議な体質がクラウンネームのせいだとしても、何ら不思議は無い。
「うん? 違うよ?」
カルミナは、間を置かずキョトンとした目で言った。
まさかの即否定。
「だってKが切られた時、オーラは出てなかったよ!
んーと、魔法に近い感じがしたから、私は絶対障壁だって思っちゃったけど、魔法とも何か違うんだよねぇ……
詠唱も無しで、魔法陣も見え無い魔法なんて、人間が使う所見た事も聞いた事もないもん。」
カルミナは身振り手振りを交えて説明した後、とても難しい顔をしている。
人間が使う所は見た事無い、という言葉に俺は少し引っかかりを覚え、人間以外が魔法を使うのかと考えはしたが、言葉には出さなかった。
なるほど。 神の仕業でも魔法でも無いというのなら俺自身が神になった……これはワンチャンあるな……
「案外、呪いの類いかもねぇ〜」
カルミナは満面の笑みを俺に向けていた。
笑顔で怖い事を言わないでくださいますか?
マジで呪いの類いもあるから、怖い。
俺、元の世界で誰かに酷い事したのかな……
「そ、そういえば、さっき兵士さんが襲われたって言ってただろ? しかも相手は1人だって……
それってもしかして……」
俺は、少し焦った表情で話題を変え、少し考えるようにポケットに手を突っ込んだ。
「私もそう思う。第10騎士団は、イルム騎士団の中でも強者揃いなの。 たった1人にいいようにやられるなんてクラウンネーム持ちしか考えられないよ。
だから、団長の回復を待って詳しく聞くつもりだよ。」
カルミナも少し、考えこむような表情で話した。
「あぁ、やっぱそうだよなぁ……」
一個小隊を、1人で倒してしまうような奴から、
俺がカルミナを守らなきゃいけないなんて、
いったいどうすればいいのだろうか。
死ねないからと言って、相手が倒せる訳ではない 。
いくらなんでも素手ではダメだろう。
旅立ちの初期設定の勇者でさえ、こんぼうぐらいは持っているはずだ。
「なあ、カルミナ……ここで俺に剣を教えてくれるような人っているのか? いや、えっと……
カルミナを守る為にも、攻撃手段はあったほうがいいと思うんだ。」
俺は話題と気分を変える為に、少し笑顔でカルミナに話しかけ、剣の素振りのジェスチャーをした。
流石に、実物の剣を振った経験は無いのだが、
中学生の時に、授業で竹刀を振った事はある。
授業で着回しする胴着と、防具が物凄い悪臭を放っていたのが今でも記憶に残っている。
ちなみに、その時の相手が剣道部で、開始1秒で脳天に強烈な一撃を食らった。
「守るって、目の前で言われるとなんか照れるね……
うん、いるよ。 ヴァイスにお願いしてみるね!
ヴァイスは、あれでも結構強いんだからぁ。
あ、あと、うちの騎士団には……もう1人……」
カルミナは少し頬を赤く染め、1度視線を外した。
そして、それを誤魔化すように真っ直ぐと俺を見た。
ヴァイスさんか、見た目は確かにいい歳だが、
あの凛々しい佇まいからは、確かに強さも同時に感じた。
是非、お相手してもらいたいものだ。
その後、カルミナの計らいでヴァイスさんと再び合流し、俺はヴァイスさんに頭を下げて、剣の相手をして貰えないかと頼み込んだ。
なんとか、剣の練習相手は快諾してもらえた。
しかし、剣の技は教わる物では無く、各々が極め、
習得する物と力説され、相手はするが教えはしないという条件付きではあった。
それだって構わないさ、俺だって、少しでも剣が振れるようにならないと。
昔から、何だって見よう見まねで、形ぐらいはできるようになるぐらいの器用さは、自慢では無いがある。
俺が、カルミナを守る。
と語った事を、俺は絶対に有言実行してみせる。
新しく貰った人生を、成功し、後悔しない為にも。
最後にカルミナが言った、騎士団にもう1人。
と言う言葉の続きは、もう1人のクラウンネーム。
[剣聖] がこのイルム王国の騎士団にいるようだった。
1度会って、その腕前を見て見たいと素直に思った。