こんな娘がいたら僕はもう……!
「アンナ・ラブレ。担当はライター。種族はケンタウロス」
と、ケンタウロス娘が言い。
「シエン。原画をやっておる。ドラゴンじゃ」
と、ドラゴン娘が伝え。
「サラ・サイク。サラでいーよ。彩色やってまーす。一つ目のサイクロプスでっす」
と、サイクロプス娘が話し。
「ネ、ネーネ・リップル、です……スクリプトとか、やってます……種族はス、スキュラ、です……」
と、スキュラ娘がごもり。
「デス・クロウリー。一応ディレクターと広報と宣伝。言うなら雑務をやってます。知ってると思いますが、死神デス」
と、死神娘が呟き。
「早乙女 剣。人間です。ゲーム制作にばんばん協力させていただきます、よろしくお願いします」
と、ただの人間が締めて、自己紹介を終える。
それぞれが椅子やソファに座ったり、起ったりしたり。
「…………」
それきり、みんな黙ってしまう。もちろん俺も。
この感じ、大学のオリエーティングとか、就職した時を思い出すなぁ。
空気を読み合う感じというか、落ち着かない。
間を持たせるために出されたお茶を飲む。人間でも飲めるものらしい。
……よし。黙ってても仕方ない、こういう時は喋るのが一番だ。話さないと喉も閉じちゃうし。
と思って口開こうとして。
「では自己紹介も終わりましたし、次は質問としましょうか」
「特に早乙女さんの場合、沢山あると思いますので」
そう話題を向けてくれたのは死神、デス・クロウリー。
俺を連れて来て本人だから気を遣ってくれてるんだろうか。。
フード付きのマントを羽織って、死神って聞いてイメージするような死神像だ。
持ってるのは鎌じゃなくて十字架だけど。
顔は丸っこく、童顔で幼く見える。
年は聞いてないけど、もしかしたら本当に少女なのかも。
……大丈夫これ? 条例に引っかからない?
ま、それはさておき。
彼女には顔と両手しかないみたいだ。
胸も、腹も、腰も、股も、腿、脚も、足もない。
顔と両手だけでマントを身に着けている。
今もふよふよと浮いているし、マントを床に垂らしながら。
……なんだろう、すごい可愛い。
言い方は悪いけど、小動物的な可愛さ。君を守りたい愛でたい抱きしめたいみたいな?
身体、特におっぱいとお腹がないのは少し残念だけど、ツルペタって思えばいいよね。
それに顔と手があれば最低限の事は出来るし!
逆にプラトニックな関係という展開に出来る!
「そうだなぁ。まずは現状把握をしたいんだけど」
「把握したい事が多すぎて何から聞けばいいか」
流石にここでスリーサイズとか彼氏がいるかどうかとか聞くのはアレだよな、いくらボケだとしてもダメだよな。
何より下ネタ言っとくだけってのはつまんないし。
とりあえず俺が気になったのは。
「異界って言っても、あんまり俺がいたところと変わらないんだね」
室内を見回りながら聞く。
ここは事務所かな?
大きな部屋にワークデスクとワークチェアが6つずつ。その上にパソコンも6つ。
大きな棚と中くらいの棚が1つずつ。中には色々な本。そして大きな液晶テレビがあった。
「異界というのは説明しやすいよう、私が便宜上呼んだだけデスので」
「あ、そうなんだ」
「でも驚いたなぁ。パソコンとかテレビもあるし。現代的っていうか」
「勝手にファンタジーっぽいのをイメージしてた」
まぁ、アダルトゲーム作ってるって言ってたし。その時点で何をって話だ。
というかあのテレビでかくない? 俺の家のよりいいヤツじゃない?
それを言ったらPCもモニターも高いヤツっぽい。
あっちのデスクには液タブもある。
高級そうなワークチェアに、柔らかそうなクッションも。
「ではまずこちらの世界について話しましょうか」
「うん、よろし――」
「ちょっと、あんまりジロジロ見ないでくれる?」
「貴方達の世界にだってパソコンくらいあるでしょう」
そう遮ったのはケンタウロス娘だった。
「あ、ごめん、アンナさん。ゲームメーカーに来るの初めてでさ」
「それが違う世界のだって思ったらなおさら気になって」
「ヒトの世界の本に出て来る野蛮な種族もパソコンを使うんだって気になる?」
「……いや、別にそんな事は……」
「あと、私の事はラブレって苗字で呼んで」
「わかった。今度からそうするよ、ラブレさん」
どうやら英語圏と同じく、名前、苗字という順番らしい。
他の女の子にも気をつけよう。
「…………」
言い方は静かだが、確かな棘が刺さる。
最初から警戒心というか、敵対心丸出しだった。
まぁ彼女達からしたら俺が異界の住人な訳だしな。
ケンタウロス娘、アイナ・ラブレ。
ケンタウロスらしく、金色の髪をポニーテールで一つ結び。
顔立ちは凛々しく、しゅっと細く整ってて綺麗系だ。
姿勢もいいし、腕を組んでるのがまた似合う。
ただ、俺への不信感を隠そうとしてないので仏頂面なのが残念。
下半身は当然、馬。
そしてズボンを履いている。
やっぱり異界だし、ケンタウロス専門店とかあるんだろうか?
そして馬らしく、ズボンの上からでもムッチリ具合がわかる。というか強調されてる。
ムッチリというかムッキリだろか?
「まぁまぁ。そうピリピリするなアンナ」
「早乙女も話にくくなるじゃろう。なぁ?」
「普通に考えたら俺ってめっちゃ怪しいですからね。みんなからしたら」
「そんなヤツにジロジロ見られたら仕方ないですよ、シエンさん」
それに、それぞれの立場ってもんがあるしな、どこでも。
俺はここで一番新入り、言うなら下っ端。
波風立てないようにするのも大事だ。
「カッカッカ。抜けとると思ってたが中々」
そう、牙を見せるように笑い、
「我はシエンでいい。呼び捨てにされて怒るような器は持ってないからの」
「敬語も気にしなくてよいぞ。これから一緒に働く仲間なんじゃしな」
「わかった」
と頷く。
それは嬉しいけど、ラブレさんへの当てつけみたいに言うのやめてくれないかな。
多分シエンさん、いや、シエンは分かっててやってるんだろうけど。
見た目はロリ少女だけど溢れ出る威厳がすごい。
ドラゴンと言う通り、腕には鱗、額には角、お尻からは尻尾と。
鋭い八重歯も輝き、可愛い。
笑顔の口も裂けてるように大きくて食べられてしまいそうだ。
何よりその胸がすごい。
小さな身体に不釣合いなほどの物量を誇るおっぱい!
アンバランスでアンビシャスでアンジャッシュな存在。
おそるべし、ロリ巨乳。
「しかし礼儀はわかってるようじゃな、人間」
「もし我を『ちゃん』づけでもしてたら打ち上げていたぞ、空に」
「喋り方とか雰囲気に貫録があったので」
「あとはドラゴンって聞いて、多分年上なんだろうと」
「見た目で年ってわからないもんだし。みんななら、なおさら」
「じゃあアタシはどー見えるー?」
そう聞いてきたのはサラちゃんだった。
「花も恥じらう年頃って感じ? 少なくとも30の俺より若いでしょ」
「せーかいだよおにーさん。花も恥じらいまくる18でーす」
「お、おにーさん……!」
やばい、めっちゃ感動する。というか興奮する! 甘美な響き、おにーさん。
「ん? どしたの、おにーさん」
「い、いや……何もだよ、サラちゃん……」
「くすくす。そう、おにーさん。にやにや♪」
この子、多分わざとやってるな。
一つ目の女の子、サラ・サイク。
特筆すべきはやはりその大きな一つ目。
顔の半分ほどのその目には、こっちの目が引かれてしまう。むしろ惹かれてしまう!
上目遣いとかされたらやばいだろうなぁ……破壊力何倍だよこれ……。
界王拳4倍だって耐えられた孫○空だって耐えられないだろう。
しかも何というか。ギャルちっく? なのがまたいい。
髪の毛は茶髪で毛先がウェーブでちょい巻き。
肩は大胆に露出させ、そこから覗くブラ紐。いや、これはもう覗かせてない。
寝そべってるぞ、肩の上でブラ紐が。日光浴してる。
スカートも膝上何センチだ? 綺麗な太腿をこれでもかと見せて。ギリギリを攻めすぎ。
胸も大きそうだ。腰が細いからかな? 余計に大きく見える。
少なくともアンナよりは大きそう。
「……貴方今、失礼な事考えなかった?」
「いいや、全然」
自然と目線が向かってしまった。
でも失礼な事では断じてない。だって事実だし。
「というかサラはいい加減、我の『ちゃん』づけをやめろ」
「私もやめてくれない? 何かバカにされてる気がして」
そう言うシエンとアンナ。
「いーじゃん、その方が可愛いし」
そう言うサラ。
「その意見には全面的に同意する」
そう言う俺。
「あ、あの……っ」
そう言う……えっと、確か……。
「……は、話がちょっと……脱線、し過ぎなような、気が……」
人間の手と同時に、下半身から生えるタコの触手を絡ませる。
そうだ、思い出した。
「ごめんねリップルさん。ちょっと雑談しすぎちゃった」
「い、いえ……」
それだけ言って、目を逸らすスキュラのネーネ・リップル。
人見知りか、警戒されてるのか。
あんまり俺の方を見ようとしてくれず、落ち着かなそうに人の手と触手を絡めている。
さっきまでの女の子と達と全く違う反応で、ちょっと新鮮だ。
年齢はラブレさんやサラちゃんよりも上、かな?
眼鏡もかけてるし、こっちを向いてくれないのでよくわからない。
スキュラなので当然下半身に目が行く……。
と思いきや、お見事、と思わず言いそうなのはその胸。
多分シエンより大きいだろう。
しかも今、手を胸で合わせてるから寄せて上げられて。
……うわ、やば。
なにあれ凶器? 俺を殺そうとしてるの? こわっ!
寄せて上げられてるからだけじゃない、確かな元の大きさがあってこその盛り上がりだ。
「……あ、すみません……お茶、飲まれたの気づかなくて……お代わり持ってきますね」
ウニョウニョと扉を開けて部屋の向こうへ。
……あれ? もしかして避けられた感じ?
まさか自分が思ってる以上におっぱいを凝視しすぎてしまったか……?
あの暴力的大きさには抗えないとしても失礼すぎる……今度から気をつけよう。
そしてティーポットを持って帰って来るリップルさん。
見ないように、見ないように、と
「お、お待たせしました……どうぞ……」
「どうも」
向けられたポットの先にカップを運ぶ。
俺の持つカップの先に触手が添えられがっちりホールドされる。
等間隔で並ぶ吸盤。こう並ぶと絶景というか。
異形っぽさの見た目で言うならリップルさんが一番かな。
人間と触手のギャップがすごいし。
よく見たら他の触手は先に靴下はいてるな。
ってことはこの二本がよく使う腕、他のが足って区別なんだろうか。
そういえばスキュラの下半身って確か、犬の頭とか魚の尻尾じゃなかったっけ?
「……あの、あんまり見られると……その、気になって……」
「あ、俺の方こそごめん。さっきからデリカシーがなくて……」
「……さっきから?」
まずい、胸のことは気づいてなかったらしい。『さっきから』はヤブヘビだった。
「い、いやあの……さっきから触手が気になっちゃって」
「触手が、ですか……? へ、変……とか……?」
「そうじゃなくて。リップルさんの触手はめちゃくちゃ綺麗でベリキュートだけど」
「ただ俺の世界ではスキュラって下半身が犬とか魚って話なんだけど、違うんだなって」
「か、下半身って……」
驚いた拍子に顔を俺へと向ける。
その頬は真っ赤に染まってて。
少し地味目な感じだけど、綺麗な顔立ちをしていた。
これは嬉しい発見だけども。
「いやいやいや! そこだけピックアップされると俺も困るっていうか!」
「変な意味じゃなくてね? 100%好奇心というか、疑問というか……!」
「ほんとごめんなさい、すみませんでした!」
言い終わる前にすでに土下座を決める。
「そ、そんな……っ……やめ、やめてください……」
「本当にすみません、申し訳ない!」
「でもこれだけは言いたい! 俺は事実無根なんです! 本当に変な意味はなかったですから!」
「酔っ払ってる者は全員そう言うよな」
「痴漢した人とかねー」
「……下品。やっぱりヒトって」
「そこ、静かにして!」
身体を平たくして、頭を低くして謝り続ける。
人間だって十人十色、千差万別、有象無象なんだ。
本人が気にしてる事なんていっぱいあるはずだし。簡単に口に出すべきじゃなかった。
「も、もういいですから、早乙女さん……」
「……わたしも、その……少し、意識しすぎました……」
「だから、も、もう頭を上げてください……」
リップルさんの、申し訳なさそうな声が降って来て。
「リップルさん……」
どうやら許してもらえたらしい。
「これからは気をつけます。」
そう言葉だけじゃなく決心しながら、俺は顔を上げて、立ち上がろうとして……。
「おや。顔を上げていいと言ったが、土下座をやめていいと言ったかのう」
「アタシも聞いてなーい」
「ほんっっっっっとうにごめんなさい! 勝手に土下座やめちゃって!!」
「い、いえ……! 土下座ももういいですから……っ!」
「シエンもサラも、リップルさん困らせないで」
とラブレが助け船を出してくれた、が。
「困らせてよいのは早乙女だけか?」
「う、うぐ……」
「全く。ヒトが来ただけで不機嫌になりおって」
「さっきのアンナちゃん怖かったー。漫画とかドラマで見るお姑さんみたいで」
「そ、それは……」
「もしくは好きな女の子に悪戯する男の子とか?」
「……サラ、それは本気で怒るわよ」
「野菜ばかり食べてるから短気になるんじゃ。我のようにカルシウムを摂れ」
「カルシウムって。骨を取るの面倒だからそのまま食べてるだけでしょ、シエンは」
あっちはあっちでまた何かやっていて。
「お願いです早乙女さん、頭を上げてください……!」
「うおおおおおおおお! こんないい子に俺は気を遣わせて……!」
「いいいいえ! わたしはいい子じゃありませんから……っ……早く土下座を……」
「貴方も。いい加減リップルさんを困らせるのはやめなさい」
頭の上でわーきゃーとかしましい声が飛び交っていく。
その声を聞きながら、謝りつつも。
俺は自然に笑みを浮かべてしまった。
楽しい彼女達との生活は、絶対楽しい事になる。
そう思ったから。
土下座をし続ける人間と、騒ぎ続ける異形娘達。彼らの前に、
「あの、そろそろ説明をしてもいいデス?」
死神、デス・クロウリーの声は、全く届かなかった。