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01:終わる世界とバースデイ

色々、わかる人にはわかるネタがあります。

『おらは死んじまっただ』


 昔の歌謡曲にこんな歌詞があった。


 まさしく今の俺の状況を現している。これ以上ないという程に。そう。


「俺は死んでしまった」


 目の前は闇、闇、闇。


 足元は浮遊感。


 そこにいるのか、いないのかもわからない。


 何も見えず、触れず、感じず。


 ただの夢? 違う。


 確信がある。


 死んでしまった者だけが分かる確信。


 自分が死んでしまったという確信。


 原因はわかっていた。


 嬉しいことに、悲しいことにわかっていた。


 テクノブレイクというもの知っているだろうか。


 オナニーのしすぎて死んでしまうというものだ。


 これはネット上で流行ったジョークニュースがそのまま広まってしまった、というのが事実らしいが。


 うん、まぁ。


 死んでしまったみたいだ、俺。オナニーのし過ぎで。


 やっぱりインフルエンザの時に抜くのはまずかったか……。


 したことあると人はわかると思うけど。


 あれは本当にやばい。心臓がバクバクする。


 イクと同時に動悸がやばい。俺の動悸で俺が死ぬ。実際死んだんだけど。


 三十路を前になって何やってるんだって思う。


 有休をとって何やってるんだって思う。


 でも仕方ないじゃん! 超大手メーカーの新作ゲームだったんだから!


 風邪だろうがコレラだろうが赤痢だろうが梅毒だろうがインフルだろうがやるでしょ! でしょ!?


 そして使うでしょ? シゴクでしょ? コクでしょ? 抜くでしょ? オナニーするでしょ?


 それで死んだんだから意味ないんだけど!


 まぁ、全ルートクリアしたし。そういう意味では良かったんだけど。


 ……いや、良くない。


 死んだら全部お終いじゃないか。これから出るであろう面白いゲームも出来ない。


 今月出る新作も。来月出る続編も。来年に延期したFDも出来ない!


「はぁ……」


 そう言っても仕方ない。


 だって俺、死んだんだから。


「さてと」


 これからどうなるんだろう。というか、どうしたらいいんだろう。


 ゲームとか漫画なら、天使とか死神が来たりするんだけど。もちろん美少女の。


 家族とか世話になった人への別れの挨拶さよならをさせてくれたり。


 それか『今度は貴方の番です』とか言って、俺が死神になったり。


「ミツケタ……」


 もしかしたら俺に死神の才能とかあるかもしれない。。


 髪の色、ブラック。瞳の色、ブラック。職業、死神。とかそういうの。


「…………」


 ……あれ?


 何かさっき聞こえて――


「ミツケタ……デス」


 まただ。この暗闇の中で、また聞こえて……。


「突然失礼します。貴方は早乙女 剣さんで間違いないでしょうか?」


 少女が目の前に現れる。


 黒い衣を身体にまとい、黒い十字架をその手に握り。


 そして。


 何より可愛かった。


「結婚しよう」


 その小さな両手を優しく握った。


「落ち着いてください」


「ごめん、そうだよね。いきなりすぎた」


 俺というものが焦りすぎた。物事には順序ってものがあるし。


「まずは友達からお願いします」


「……予想してたよりアレな方デスね」


「話を聞いてください。貴方は早乙女 剣さんで間違いないでしょうか?」


「そう、早乙女 剣。君は?」


「……私はデス・クロウリー。死神デス、クロとお呼びください」


「死神の方だったかー」


 まぁ天使がこんな格好してるとも思えないし。


「それでクロさん」


「呼び捨てで構いません」


「オッケー、クロ。さっきの返事は後で聞くとして」


 実際彼女とは仲良くなりたいけど、こうしてても仕方ないし。


「死神のクロと一緒にいるってことは、ここって死後の世界?」


「その通りデス。理解が速くて助かります」


「マジか……退屈しかしなさそうなところだなぁ」


 まぁ今はそんなのどうでもいいか。


「俺はこれからどうなるの? 普通に死んじゃう? それとも死神の役目を継いだり? もしくは違うパターン?」


「いえ、貴方にはこれから異界に来てもらって」


 言って、クロは一度目を伏せて。


「私達と一緒にアダルトゲームを作っていただきます」


「わかった、ならすぐに行こう」


 即断即決で即承即答した。


 そして聞く。


「アダルトゲームを作る? 異界で? 俺が? 何で?」


「……その前に、何故一回頷いた後でまた聞くのでしょうか」


「ノリ、かな」


 クロは一度、『ちょっと面倒なものを相手にしてしまった』的な目をしてから、続けた。


「私達はゲーム制作をしているのデスが、それに協力してくれるヒトを探していたのデス」


「君達が? 死神がゲーム作ってるの?」


「はい、正確にはそれぞれ種族が違う4人で」


「すごいな、どうなってるんだ異界」


「早乙女さんが思っている以上に異界も発展していまして」


「発展しすぎにもほどがあると思うけど」


 どこをどうやったら異界でアダルトゲームを作ろうってことになるんだろう。


 そういうものって言われたら納得するしかないけど。


「協力してくれる人、と言っても誰でもいいわけではありません」


「アダルトゲームをよく知っており、そして好きであることが必要デス」


「それこそ、ゲームが原因で死んでしまうくらい」


「そうして見つけたのが早乙女さん、貴方でした」


「確かに。そうなると俺以上の適任者はいないなぁ」


 確かにゲームショップで働いてるし、ゲームもそれなりに数こなしてるけど。


 あれ? ってことはクロ、俺の死因知ってるんだ。


 ……なんだろう。恥ずかしいと同時にちょっとだけ興奮しちゃう。


「でも俺、興味はあるけど実際に作ったことないよ? アドバイスとか感想くらいしか言えないと思うけど」


「問題ありません。端的に言えば、そういうアドバイスや感想が必要なので」


「はぁ、なるほど」


「……どうでしょうか。強制ではありませんので断ってもらっても構いません」


「そもそも、早乙女さんにメリットのある話でありませんので」


「最低限の衣食住は用意していますが、お給料も多くは払えませんし……」


「うーん……それでゲーム作りねぇ」


 上の暗闇を、と言ってもどこを向いて暗闇なんだけど。


 見ながら考える。


 こともない。


「やるよ。いや、やらせてください」


 そう答えた。


 人間界で? 死んだ俺が? 異界で? アダルトゲーム作り? 唆るよこれは!


 こんな面白そうな話、断る理由の方がないでしょ?


「………………」


 俺の答えを聞いたクロは驚いたような顔をして。


「私が言うのも変デスが……本当にいいのでしょうか?」


「いいよ別に。あ、住むところと食べるものがあるって言うなら給料はそんなにいらないかな」


「それはこちらとしても助かりますが……もしかしたら、早乙女さんを騙そうとしているのかもしれませんよ……?」


「え? 騙そうとしてるの?」


「いえ、してませんけど……」


「でしょ? じゃあ疑うのって意味ないし。それに騙すなら騙すで、もっと上手いこと言うんじゃないかな」


「…………」


 今度は信じられないものを見るような顔になって。


「そもそも私を見て何か思わないんデスか?」


「ん? 可愛いと思ってるけど」


「……そうではなく。驚くとか、不気味がるとか」


 どういうことだ?


 と思うと同時に、ある違和感に気づく。


 あぁ、《そういうことか》。


「死神の君には悪いけど、俺は別に驚かないよ」


「幾多のエロゲをプレイし、雑多の漫画を読み、数多のラノベを漁ったから」


「君のような身体など、2000本前に通過済みだ!」


「に、2000本前デスか……」


「ごめん、流石に2000本は言い過ぎた」


「でもゲームの中で骸骨とかドラム缶とかしたこともあるし」


「そんな俺からしたら、人の顔してる時点で驚く要素はない」


「なるほど……それは色んな意味で安心しました」


 クロとしては俺に驚いてほしかったみたいだけど、逆に俺の方が驚かしてしまったみたいだ。


「それでは、早乙女さんにも納得していただいたということで、行きましょうか」


「うん、よろしく」


「移動の時に少し視界が歪みますのでご注意ください。人体に影響はありませんのでそこはご心配なく」


 その声がしたかと思ったら、クロの言う通り目の前の闇が歪んだ。


 闇が歪むというのは変な表現だけど。


 確かに、歪んで。


「みなさん、貴方が来るのを待っています」


 まるで夜が明けるように。


 闇が、開けていく。


 そして俺は。


 新しい世界へと。


 産まれ落ちた。






 途端に感じる、落ちるという感覚。


 と、続く衝撃。


「うごっ!?」


「すみません。ゲートの位置を間違えました。大丈夫デスか?」


「だ、大丈夫大丈夫……お尻打っただけだし……って」


 目の前には広がる光景。


 そこは見たことがない場所、初めて訪れる場所。


 の、はずなんだけど。


 机、パソコン、椅子、時計、窓、カーテン、電灯。


 見慣れるまでもなく、見慣れたものだった。


 そして。


「その男なの?」


「抜けた顔をしとるのう」


「すごーい。本当に鱗も角も触手もないんだ」


「ほ、本物のヒト、です……」


 床にへたり込む俺を、値踏みするように見つめて来るヒロイン《女の子》達。


「……ぁ……」


 たまらず俺は、声を漏らしてしまう。


 目を奪われる。


 彼女の圧倒的な個性と、魅力に。


「私の邪魔だけはしないでよね」


 下半身が馬の女の子。


「精々期待しておるぞ」


 牙をギラつかせ、角と鱗を持つ女の子


「よろしくねー♪」


 大きな一つ目の女の子。


「ど、どうぞおね、お願い、します……」


 触手を蠢かす女の子。


「ではみなさん、まずは自己紹介をしましょう」


 そして改めて。


 マントの中に頭と両手しかない女の子。


「……はは、すごいなこれ」


 俺のノリと直感は、やっぱり間違ってなかった。


 こんな面白そうな女の子達と、面白いことが出来るなんて。


 こうして。


 異形な女の子達と俺との、アダルトゲーム制作が始まった。

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