第5話(最終話) 「ありがとう」と言えるようになろう
「ユーリ、わすれものはないかな?」
「うん! おさいふとママが書いてくれたメモ、ハンカチとティッシュは入ってる!」
今日も元気いっぱいのユーリと少ししんぱいそうなお母さんがはなしています。
いつもはユーリより元気なジニーはどうしたのかな?
「ジニーはかぜをひいちゃったの」
「きのうの夜、おふろから出たあとも、うすぎだったから、それでかぜをひいてしまったのよ。本当はユーリとジニーにおつかいに行ってもらおうと思っていたんだけどね……」
「おれは元気だからな! ……げほっ……」
ジニーは元気いっぱいのふりをしていますが、ざんねんながら、せきをしています。
「はいはい、ジニーはあたたかくして、ねててちょうだい」
「……はーい……」
「ママー。おつかい行ってくる」
「行ってらっしゃい、ユーリ」
そのようないきさつでユーリはお母さんにたのまれて、1人でおつかいに出かけることになりました。
「こんにちは」
「こんにちは」
ユーリはきちんとあいさつができてえらいですね。
なぜならば、ユーリが今歩いているところはまだ家から出てすぐのところなので、知っている人が多いのです。
「ユーリちゃん、気をつけてね!」
「うん!」
道路や信号もお母さんやお父さんから教わったとおり、左右をよく見て、ピッと右手をあげてわたっています。
「おじょうちゃんは1人でおつかいかな? えらいね」
「………………」
ユーリが知らない男の人にはなしかけられました。
その男の人はわるい人ではありませんが、人見知りのユーリにとってはビクビクしてしまうのです。
「うわーん!」
「ご、ごめんね」
ユーリはなき出してしまいました。
男の人はユーリを見てなだめようとしますが、さらになき声は大きくなり、走ってにげてしまいました。
「あれ? 行っちゃった……」
その人が気がついたころには、ユーリのすがたはありませんでした。
♡
ユーリは公園のブランコにこしをかけていました。
「これから、どこに行くんだっけ……?」
出かける前にお母さんが書いてくれたメモを手さげからとり出します。
『りんご 1こ
バナナ 1ふさ(やおや)』
メモにユーリが読みやすいように、大きな字で書いてありました。
「やおやさんでりんごとバナナを買わなくちゃ……」
さっきまでないていたユーリはメモをしまい、ハンカチでなみだをふき取り、ポケットにしまいます。
「わたし、がんばらなくちゃ。お兄ちゃんの分までがんばらなくちゃ……!」
ユーリはブランコをおり、やおやさんへ向かいました。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 今日はキャベツといちご、りんごが安いよ!」
やおやにはいつものおじさんが声を出してやさいやくだものを売っています。
いつもはジニーとお母さんといっしょによく行くお店ですが、今日はユーリだけです。
ユーリはきちんとおじさんに「りんごとバナナがほしい」と言えるかな?
「あれあれ? ユーリちゃんかな? お母さんとジニーくんはいっしょじゃないの?」
「……うん……」
おじさんはユーリがきたことに気づきましたが、ジニーやお母さんがいないことに気がつきました。
ユーリは心細そうに小さくうなづきます。
「何かほしいものはあるかな?」
「りんごとバナナ」
「いくつかな?」
「1個ずつ」
おじさんはユーリにこわがられないようにやさしく声をかけました。
ユーリはビクビクしながら、おじさんのしつもんに答えます。
「りんごとバナナね! ちょっとまっててな!」
「うん」
「バナナはいっぱいついてるほうがいいかな? 1本だけかな?」
「いっぱいついてるほう」
「あいよ!」
おじさんは赤くておいしそうなりんごときれいな黄色のバナナをえらんでくれました。
「ユーリちゃん、お待たせ! 今日はがんばってきてくれたごほうびでりんごをもう1こサービスするよ!」
「あ、ありがとう……?」
「ユーリちゃん、どうしてだれかにしつもんするようなはなしかたなのかな?」
「わ、わたし、1人できたから分からなくて……」
「それだったらすなおに「ありがとう!」って言えばいいんだよ!」
「すなおに?」
「ああ。すなおにかんしゃの気持ちをつたえることは大切だよ!」
「うん」
ユーリはお金をはらい、おじさんからビニールぶくろに入れられたりんごとバナナをうけとりました。
「おじさん、ありがとう!」
「ああ、まいどあり!」
おじさんはユーリに「かんしゃの気持ちをつたえる大切さ」を教えてくれました。
♡
家にはジニーとお母さんがユーリが帰ってくるのをまっていました。
「おれもおつかいに行きたかった!」
「こんど行かせてあげるから大人しくしていなさい!」
ジニーはあいかわらずおちつきがありません。
その時、家のドアがどんどんとたたいている音が聞こえてきました。
「ママー!」
「ほら、ユーリが帰ってきたわよ! ユーリ、今あけるわねー!」
「うん!」
お母さんはげんかんに向かいます。
お母さんがドアをあけたら、そこにはユーリがえがおで立っていました。
「ただいま!」
「ユーリ、おかえりなさい」
「おかえり、ユーリ!」
「お兄ちゃん、ちゃんとねてた?」
「ジニーはずっとおちつきがなかったけどねー」
「……………………」
やはり、おつかいに行っていたユーリもジニーのことがしんぱいだったみたいです。
あいかわらずおちつきがなかったと言われたジニーは下を向いていました。
「はい、ママ」
「ありがとう!」
ユーリはお母さんにやおやで買ってきたりんごとバナナが入ったビニールぶくろをわたしました。
「あれ? りんごがもう1個入ってるわね……」
「それ、わたしの分! おじさんがサービス? してくれたの」
「ユーリ、おれいは言えたかな?」
「うん! 「ありがとう」を言ってきたよ!」
「えらい! ユーリはおりこうになったわね!」
「えへへ、ありがとう」
こうしてユーリのおつかいがおわりました。
ジニーとユーリはこれからも毎日、少しずつですが、せいちょうしていきます。
これからどんなお兄さん、お姉さんになるのか楽しみですね。
というわけで、このおはなしはおしまい。
2018/03/30 本投稿