悲しい
昔 昔
あるところに
少年が一人 住んでいました
少年は 毎日 畑を耕し
木の実や野草をとり
日々を過ごしていました
ある日
戸が叩かれました
「誰ぞ」
返事はありませんでした
少年が戸を開けると
そこには 己よりも一回り小さな少女でした
「これは驚いた
人を見たのは久方ぶりだ」
少女は震えて少年を見上げていました
「何ぞ」
少女は行くところがないと
泊めてほしいと言いました
少年は放り出すわけにもいかず
泊めてあげることにしました
夕食の時
少女は口をつけようとしませんでした
「どうした
食わんのか」
少女は頭を垂れたまま黙っていました
「遠慮はいらん
食え」
それでも少女は黙ったまま動こうとしませんでした
「変な物は入っておらんぞ
それとも
狐に化かされているとでも思っているのか」
少女は首を横に振りました
「ならば 何ぞ食わん」
すると少女は ぼろぼろと 泣き出してしまいました
「どうした
怪我でもしたのか」
少女は また 首を横に振りました
少女は自分が口減らしのため捨てられたことを話しました
食事をする事に罪悪感を感じていたのです
「恨んではおらんのか」
少女は また 首を横に振りました
恨んではいない
ただ
悲しい
そう 言いました
「捨てられたことがか」
少女は また 首を横に振りました
必要とされていないことが 悲しい
一人になることが 寂しい
そう言って 少女は また 泣きだしました
少年は理解出来ませんでした
少年は物心がつく頃には一人だったから
それが当たり前だったのです
ですが 少女の泣き顔を見て
哀れに思い
少年は少女に
気がすむまでここに居て良いと言いました
少女は泣きやんで
少しの間 驚き その後
少し嬉しそうに笑いました
時が経ち
少年は青年に
少女は立派な女性に成長しました
二人は 毎日 畑を耕し
木の実や野草をとり
日々を過ごしていました
ある日
彼女が言いました
「少しの間 町に降りてきます」
彼は彼女を見送りました
ですが 待てど暮らせど彼女は戻ってきませんでした
彼は町で何かあったのではないかと心配になり
町に降りることにしました
町に降りると人が沢山で彼は驚きました
「何と人の多さか
これでは見つけられるかどうか」
きょろきょろと周りを見回していると
人集りを見つけました
覗いてみると祝言をあげているようでした
彼は驚きました
そこには白無垢を着た彼女がいました
「そうか
居場所をみつけたのか」
彼は安心して 家路につきました
家路につくと
泥を落とし
夕食の準備をしました
気づくと二人分の用意をしていました
「おや…」
誰に伝えるでもなく
恥ずかしそうに 頭を掻きました
夕食を終えて
落ち着くと
何と無く
部屋を見回しました
ぽろっと
雫が落ちました
止めどなく溢れ出てきました
彼は理解出来ませんでした
何ぞ
何ぞ
何ぞ…
彼は気づきました
これは まるで出会った頃の少女の様ではないかと
ぼろぼろ
ぼろぼろ
溢れ出てくるのです
「嗚呼…
これが…」
少年は青年になりました
少年は一人ではなくなっていました
少年はまた一人になりました
少年は理解出来る様になりました
悲しい 、と…