行き遅れ魔王様と幼なじみ執事
「ねぇ、結婚適齢期って知ってる・・・?」
私は同室内でキビキビと働いている親友兼部下の執事に問いかける。
「存じておりますが」
執事は振り返ることも手を止めることもなくハキハキと答える。
「私の結婚適齢期っていつなのかしら・・・?まだよね?人間で三十歳ぐらいらしいし、鶴は千年、亀は万年と言うわ。なら亀と同様に万年生きる魔王である私の結婚適齢期はまだまだよね・・・?」
「落ち着いてください、魔王さま。瞳からハイライトが消えております、怖いです」
「私はもう嫌なのよ。お母様に「ね~、魔王ちゃぁ~ん、孫はまだかしら~、せめて旦那さんぐらい見たいな~」とか言われたくないのよ!」
「よろしいではありませんか、先代のことですから、純粋にそう思っていらっしゃるでしょうし」
「だから辛いのよ!」
「せめて結婚したいと仰るのならば外に出てはいかがですか?
いつまでもこんな地下に引きこもってなどおらずに」
「嫌よ。ジャージだしお化粧してないし、何より面倒だもの」
「魔王さま・・・」
いつもの言い訳に執事は、笑みを浮かべながら頬をひくつかせる。
やばい、怒らせたかしら・・・。
「なるほど。着替えたくもない、化粧もしたくないと。ならば本日の縁談はご破談ということでよろしいですね?」
「・・・え?」
「よろしいですね?」
「今なんて言ったの!?」
「よろしいですね?」
縁談って言ったわよね!?お見合いってこと!?
「よくなあああああああああああい!待って待って!準備するから!ちゃんとするからぁっ!」
「ならばまずは身支度を整えてください、魔王さま。そんなボサボサの髪にダボダボのジャージでは・・・」
「わかってるわよう!相手は?相手はどんな人なの!?」
「本日は・・・東の国の勇者様ですね。16歳とのことです」
執事はどこからか薄いファイルを取り出し、ページを捲る。
「16歳とのことですが、どうやら発育不良のようですね。これでは少年のようです。しかし、体力、知識ともに同年代では随一とのことで」
「見せて見せてー!」
執事の隣に立ち、手に持つファイルを覗き見る。
そこには13歳ほどに見える青い瞳の少年が写っていた。
「え、若!これで16歳?まだまだ子供じゃない!」
「言ったでしょう、発育不良と。背も低いですし、なにより東洋人種が年の衰えがあまりないとの話ですよ。成長が遅いんじゃないですかね」
「なるほど、合法ショタってわけね!」
「違います」
「ぐ腐腐・・・おねぇさんにまかせなさぁい・・・じゅるりっ」
「落ち着いてください、魔王様。はしたないですよ・・・」
ハッ、いけないっ、トリップしかけていたわ・・・。
「ところで、今回の戦略は?参謀殿」
私は真剣な口調で執事に問いかけるも
「はぁ、いつもの調子でよろしいのでしょうか」
と気の抜けた返事をするだけだった。
「ぶぅ~、なによう、ノリが悪いわねぇ~」
「いかんせん職務中なので」
「まぁいいわ、それで、本当にどうしたらいいと思う・・・?」
「そうですね。巷では「草食男子」なるものが増えているらしく、年上の女性にリードされたい、との風潮が増えているそうですよ」
「なるほど!やっぱりショタ受けなのね!お姉さんにまかせなさぁい!」
私の解釈に執事は納得がいかないのか、呆れ顔で
「はぁ・・・まぁ、それでよろしいのではないでしょうか」
何かを悟ったようだった。
「魔王、勝機を見たり・・・!ぐ腐腐・・・じゅるりっ」
「頼もぉう!ぼ・・・俺は東の国の勇者!魔王殿に謁見願いたい!」
大きな門をくぐり、城に入ると真っ暗闇の広大なホールだった。
かなり広いものの、目に見えるところには誰も、何も見当たらない殺風景なものだ。
いくら敵地と言えど、勝手に上がりこむわけにもいかないと思ったのだけど・・・
精一杯の大声をはりあげたものの、一切の返事がない。
まさか無人なのでは・・・と思っていたら突如、
「お待ちしておりました、勇者殿」
暗闇の奥から燕尾服の男が出てくる。
肩までかかる黒い髪にモノクルを着け、シルクの手袋をはめて優雅に一礼して見せた。
先ほどまで何もなかったはずの場所に突如幽鬼のように静かに、鮮やかに現れた僕は思わず息を呑む。
いけない、ここで呑まれては・・・!
僕は動揺を悟られぬように、精一杯取り繕う。
「あの・・・」
「我が主、魔王さまの元へと案内させていただきます」
去勢も虚しく、有無さえも言わせてもらなかった・・・。
そのまま燕尾服の男は「黙ってついてこい」と言わんばかりに歩み出す。
僕はそれの後を追う・・・。
広大なホールの正面を抜けて・・・魔王って言うと最上階にいるんだろうなぁ・・・なんてテンプレートなことを考えていると、男は逆に地下への階段を降りだす。
あれ?と思いながらも蝋燭の灯だけを頼りに螺旋階段を下る男についていくと、やがて部屋の前に辿り着く。
どうやら先程の螺旋階段はこの部屋への直結のようだ。
「どうぞ」
燕尾服の男が扉を開き、僕は足を踏み入れると・・・
ふわり、と風が頬を撫で、いい匂いがする。
これは・・・花の香り?
こんな地下に風や花が・・・?
部屋の中を見回すと、正面に何か見える。
あれは・・・テーブルセット?
不思議に思い近づくと、誰かが座っているのが見える。
徐々に徐々に近づくと・・・
「ようこそいらっしゃいました、勇者様。どうぞお掛けくださいな」
とても美しい少女がいた。
長い黒髪に丸く大きな瞳にみずみずしい唇。
その端正な顔はずっと見ていたくなる、まるで人形のような。
そんな彼女がにこりと花にも負けぬ大輪の笑みを浮かべている、僕に対して。
とくん、と胸が高鳴る。
いつまでも座らない僕を不思議に思ったのか、少女はゆるりと首を横に傾きかける。
「どうか、なさいました・・・?」
その仕草さえも愛らしかった。
「どうぞ、勇者様。お掛けください」
突然、真横から声がする。
驚き、振り向くといつからいたのか、先ほどの燕尾服の男が僕の座る椅子を引いていた。
「う、うん・・・。ありがとう」
「いえ」
燕尾服の男は先ほどまでと同じように、抑揚を感じさせない声で冷たく返事をする。
それどころか、先程よりも冷淡な気がする。
どことなく、おもしろくなさそうだ。
「執事」
「・・・かしこまりました、お嬢様」
少女の呼び声に執事と呼ばれた燕尾服の男。
やっぱり、執事だったんだ・・・・。
確かに燕尾服にモノクルに手袋なんていかにも執事って様相をしてるしなぁ、などと考えていると、
僕の前にティーカップが置かれる。
「これは・・・」
戸惑いながらも、ほのかに熱いティーカップを持ち上げ、しずしずと眺める。
「紅茶、ですわ、勇者様。執事の淹れる紅茶は美味しいんですよ」
突如差し出された紅茶に戸惑っていると、ふと少女が僕の手からティーカップを取り上げると、ふーふーと息を吹きかけ、自らの口に運ぶ。
「・・・うん、美味しい♪」
「お嬢様」
執事が咎めるような口ぶりで少女を呼ぶと、
「えへへ、ごめんなさい、つい」
赤く小さな舌先をぺろりと出し、イタズラっぽい笑みを浮かべる。
「どうぞ、勇者様。味はパッチシですわ♪」
先ほど少女が口付けた僕のティーカップをそのまま僕の手にもたせ、僕の指を両手で包み込む。
少女の白い手はとても小さく、冷たかった。
その冷たさが熱いティーカップとあいまり、かえって気持ちよかった。
ティーカップを見ると、少女が口付けた縁には桃色の口紅が付着しており、
・・・ごくり、と思わず生唾を飲み込んでしまった。
「・・・そこまでです、魔王様」
再び呆けていた僕の横から、執事の声がする。
・・・魔王様?
「ぶぅ~、なによう!まだこれからじゃないのっ!」
すると対面に座っている少女が頬を小さく膨らませて、抗議の声を上げている。
先ほどの清楚な雰囲気とは一変し、元気な声だった。
「お分かりになりませんか?勇者様もドン引きですよ」
え・・・?
「違うわよう!これはきっと私の魅力にメロメロでドキドキなのよっ!」
あながち間違いじゃないだけに、恥ずかしい・・・
「自意識過剰も過ぎますよ、魔王様。単に気圧されただけかと思いますが」
「なんでよっ」
「魔王様の演技が最初の作戦のお姉さまでもなく、次のお嬢様でもなく単なる痴女だからではないでしょうか」
「痴女ってなんでよっ」
「初対面の相手に下手すれば間接とはいえキスを強いるような女性をいかが思われますか?魔王様」
「・・・痴女かしら?」
「痴女かと思います」
僕を置いてけぼりにして、魔王様と呼ばれる少女と執事の男のよくわからないやり取りが進んでいく。
「う~・・・悪く無いと思ったんだけどなぁ・・・」
「悪くはないのではないでしょうか、魔王様の頭ほどは」
「なによっ、そんな言い方しなくていいじゃないのっ」
「冗談です」
「う~・・・・馬鹿っ」
「・・・待って待って待って!待ってくださいっ!」
「どうかした?」
「どうかされましたか?」
奇怪なものを見るような目で僕を見る少女と男。
「え・・・執事?」
横にいる執事を指さす。
「そうですが」
頷く執事。
「・・・魔王様?」
対面に居る少女。
「そうですが」
執事を真似して応える少女
「・・・ええええぇぇぇぇ・・・」
想像してたのと違う・・・。
もっと筋骨隆々の男とか獣の頭した化け物とか角とかあるのとか想像してたのになぁ・・・。
目の前に居る魔王はとても麗しい少女だった。
「落ち着いた?」
「なんとか・・・」
淹れ直した紅茶が僕の前に置かれる。
「君が、魔王、なの?」
「そうだけど・・・あなた、私のことも知らずに来たの?」
「う・・・」
「失礼ですが、勇者殿。あなたはここに何と言われいらっしゃいましたか?」
「えっと・・・僕は確か、村長に「魔王の元へ行け」とだけ」
「え、それだけ?」
「ふむ・・・・」
魔王は驚き、執事は何か考える素振りをしている。
「それで、あなたはここに来てどうするつもりだったのですか?」
「そりゃあ魔王を倒すものだと・・・」
「へ?」
魔王の姿を見てそんな気も失せちゃった・・・・少し、ほんの少し。
別に惚れたとかそういうわけじゃ・・・。
それに僕には村に許嫁のビアンカがいるし!
「なるほど、やはりですか」
執事は何かに納得したようだった。
「あなたは魔王様を倒すべく勇者のつもりだった、ということですね、勇者殿」
「え、そりゃあ勇者って言うからにはてっきり・・・」
「えぇー・・・」
僕と執事の当たり前のように思えるやり取りに魔王はなんだか納得がいかないようだった。
「またしても、ですね。魔王様」
「うぅ~・・・」
魔王と執事は答えがわかったようだけど、僕にはさっぱり、勇者って魔王を倒すものなんじゃないの・・・?
「えっと、どういうこと・・・?」
「良いですか、勇者殿。貴方様は勇者でも英雄でもございません。言うなれば人質。人身御供。村娘みたいなものですよ」
「・・・は?」
「供物なのですよ」
「・・・供物?僕が?」
「はい。魔王様に「どうか我々を襲わないでください、これを差し上げますから」というような風に捧げられたのですよ、あなたは」
「・・・は?」
「あなたは売られたのですよ、国や村、親にさえも」
「・・・なんで?」
「さぁ?そこまではわかりかねますが、帰ってもあなたの居場所はないと思いますよ?」
「そんな馬鹿な・・・」
「といっても、我々にも選ぶ権利もありますので、勇者様には帰ってもらっても結構なのですが」
執事はなんとなくそうしてくれと言わんばかりの口調で妥協案を提示する。
その態度がなんとなく気に入らないので思わず反論する。
「・・・なんで?僕は生贄なんでしょう?受け取らなかったら人類を滅ぼすの?」
「まさか。そんなことしませんよ、魔王様も、我々魔族も。
我々魔族があなた方人類より強いことは弁えているつもりです。
だからといって蹂躙するような真似はしませんよ。
あなた方が積み重ねてきたものを台無しにする、そんな賽の河原の石を崩す鬼畜生のような真似は。
我々はあなた方より強い、それでも立場は対等であると思っていますよ」
「じゃあなんで・・・僕は・・・」
「昔からの慣習なのですよ。
我々魔族があなた方人類のことをよく知らず、蹂躙しようとしていたときに当時の権力者たちが差し出した人身御供、それが勇者ですよ。
私たちはこんなに素晴らしいですよ、だから滅ぼさないでください、と差し出されたのが」
「そんな馬鹿な・・・」
「何もおかしくなどありませんよ。現にあなた方がこうして生きながらえているのですから。
あなた方、代々の勇者が魔王様に捧げられることで人類は助かっているのです。
まぁ、先代、当代の魔王様共に人類をどうこうするつもりはもっぱらないので単なるお見合いみたいなものですね。現にあなたがここでお断りしても、何の問題もございませんよ?
先ほど言ったように親にさえ売られたあなたに帰る場所があるかは私どもにはわかりませんが。
何なら一度帰って確かめますか?もっとも、帰ってもまたここには戻ってこれませんが。
帰って自分の居場所を確かめるか、ここで魔王様と婚約されるか。あなた次第ですよ」
執事はペラペラと今日一番の饒舌っぷりを発揮する。
話してる内容は僕を煽り立てるようなものばかりで、混乱した頭では冷静に受け入れられない。
「ね?ね?勇者様、私と結婚しましょ?ここで暮らしましょ?」
矢継ぎ早に魔王が僕に結婚を迫ってくる。
正直、魔王は可愛いし、この城は大きい。
村での貧相な生活とはまったく違う生活になるだろう。
だけど・・・
「だけど・・・僕には・・・村に残した許嫁のビアンカが・・・!
約束したんだ!僕が無事に帰って来たら結婚しようって!ずっと一緒だって・・・!」
すると、魔王は顔を頷かせて、肩をプルプルと震わせ・・・
「う・・・うわあああああああああああああん!」
突如号泣しはじめる。
・・・は?
「また、またああああ!なによう、許嫁ってえぇぇぇ!口約束じゃないっ、どうせっ、そんなの勇者の奥さんってブランドに目が眩んだ性悪女に決まってるじゃないの、ばか、ばあぁぁぁぁぁかぁぁぁぁ!」
泣き始めたと思ったら、ものすごい勢いで僕の許嫁を罵倒しはじめたんだけど・・・
性悪はどっちなんだろうかと軽く引いてると、執事が魔王に胸を貸し、頭をなで始める。
「よしよし、魔王様。まだ勇者様がいらっしゃいますので、泣かないでください。
なるほど。あなた様は魔王様よりも故郷の許嫁を選ばれると。
そうですね、親には見捨てられましたが、愛を誓い合った許嫁ならばどうでしょうね。
あなた様が魔王様を選ばれるようならば、情事中のあなた様のアヘ顔ダブルピースの写真でも撮り、「僕は元気でやっています」とのメッセージでも贈ろうと思いましたが、必要はなさそうですね」
今日一番ごきげんな様子でこの執事何言ってんだ・・・。
「ううぅ・・・ばぁか・・・」
執事の胸に顔を埋め、憎らしそうな視線で睨む魔王。
涙目だから怖くないどころか可愛い。
「う・・・」
可愛さにたじろぐ僕を見て魔王は調子づき、
「ばぁかばぁか、どうせその許嫁なんて勇者の嫁ってブランドに目が眩んで、あなたが帰ってこなかったこなかったで「私は可哀想な未亡人です」オーラ漂わせて別の男とよろしくやってるんだから、ばーかばーか!」
僕の許嫁、ビアンカ、散々な言われようだなぁ・・・。
「よしよし。それではお見合いも破談ということで。勇者様にはお帰り願いましょうか」
未だ泣き止まない魔王の頭を撫でながら、ニコニコと笑みを浮かべる執事。
どうやらこの執事、無表情と思ったらあくまで魔王の前だけ見たい。
今なんか魔王に見えないように僕にすっごい笑顔向けてるし、
ドヤ顔が超ムカつくんですけど!
魔王!上!上!
「それでは、ごきげんよう」
執事は静かに告げ、指をパチンっと鳴らし、景色が変わる。
そこは僕の生まれた村だった。
どうやら僕は本当に売られたらしい。
真っ先にビアンカのところに行けば、幼なじみのロランとよろしくやっている場面に出くわすは、悲しみに明け暮れて家に帰れば家はなくなっているし、村長のところに行けばお化けと勘違いされ泣きながら謝られるし。
落ち着いたところで親の所在を聞けば、国からのお金で都会に引っ越したとのこと。
住所はわからないとのこと。
どうやら本当に僕は捨てられたようだった。
・・・魔王、様、かぁ・・・可愛かったなぁ・・・。
「うううぅ、し~ちゃぁ~ん・・・」
私は幼なじみの愛称で呼ぶ。
愛称で呼ぶときは仕事はお休みの合図。
「なぁに?マオちゃん」
するとしーちゃんはすぐに意図を組んでくれる。
「またふられたぁ~・・・」
「よしよし。残念だったねー。次があるよ」
「うううぅ~・・・」
しーちゃんは泣き止まない私の頭をポンポンと優しく叩き、撫でてくれる。
しーちゃんのナデナデは温かくて気持ちよくて好き。
「よしよし。疲れたね、今日はもう寝よう?」
「うん・・・もう寝るぅ・・・」
すぐさましーちゃんは正座をし、膝をポンポンと叩く。
それは膝枕の合図。
「はい、マオちゃん、おいで」
私は寝そべり、しーちゃんの膝枕に甘える。
するとしーちゃんは黙って頭を撫でてくれる。
心地よい。
「うぅ~、しーちゃん、だいすきぃ~」
私はしーちゃんの膝に顔をぐりぐりと擦り付ける。
「うん、私もだよ、マオちゃん、だいすきー」
「うー、私もう、しーちゃんと結婚するー」
「じゃあ私もマオちゃんと結婚するー」
「うふふ~」
「うふふ~」
二人して笑い合う。
「う~・・・許嫁だって~」
「ね~」
「う~・・・リア充滅びろ~!」
「リア充滅びろ~」
重い瞼を擦りながら二人で冗談めかして言い合う。
「疲れたね、マオちゃん、もう寝よう?」
「・・・うん~」
「じゃあほら、おやすみ」
「うん・・・おやすみ~」
しーちゃんが頭を撫でていた手を止め、額にキスをする。
これが私の子守唄。
「ふぅ・・・おやすみ、マオちゃん」
私は幼なじみの上司が寝静まったのを確認してため息をつく。
「よかったぁ~・・・、マオちゃんが結婚しなくてぇ~・・・」
マオちゃんは昔から愛らしくて、人気があった。
彼女の隣にいる私はずっとそんな彼女が大好きで、でも誰にも取られたくなくて。
だからずっと一緒にいると約束して。
だけど、大人になるとどうしても一緒に居れない時間は増えてくる。
それが嫌で、私は彼女の部下になって仕事の時も一緒にいるようになって。
また一緒にいられると安心したら次は彼女に婚約の話があがって、そうなると彼女と離れ離れになってしまう。
そんなことはさせないと男装までして、マオちゃんとの仲の良さを見せびらかす。
そうすると相手の男は私達の仲を疑って婚約を取り下げた。
これは使えると思った私は、先代魔王様が持ってくる見合いや、慣習である勇者との見合いには必ず同席し、邪魔をしている。
これがいつまで続くのだろう、マオちゃんはいつまで私と一緒に居てくれるだろう。
結婚したいと口々に言う彼女を、私はあえて邪魔している。
そんな私の本心を知っても彼女は私を好いてくれるだろうか、一緒にいてくれるだろうか・・・・。
嫌な考えばかりが頭を駆け巡る。
「・・・んぅ~・・・しぃちゃぁ~ん・・・」
彼女を撫でる手がいつの間にか止まっていて、マオちゃんが寝苦しそうに私を見上げる。
「はいはい、いますよー」
すぐに頭を撫でてあげると、満足そうに微笑み、
「えへ~・・・しぃちゃぁ~ん・・・だいすきぃ~」
呂律の回らぬ舌で寝ぼけながら言う。
彼女の寝顔も、寝言も幼少の頃からずっと変わらなくて。
私はそんな彼女がずっと好きで。
「私もだよ、マオちゃん」
寝ている彼女の唇にキスをする。
「ゆっくりおやすみ、マオちゃん。
起きたらまた一緒だからね」