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明日のヒーロー  作者: 山多かおる
第一幕◆始まりはいつも小さな出会い◆
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第二話 小さくて大きな一歩

 第二話です。これを開いてくれている方は第一話を読んで少しでもこの作品を気に入ってくれた方ということになります。大変素晴らしくありがたいことなのです。そんな気に入ってくれた方の期待に沿えるように尽力するので、どうかお楽しみください。 

第一四話までは溜めてあったので一気に投稿しています




 パタパタとローファーで駅の階段を登る。一段登るにつれ、、飛び出す絵本みたいに巨大な建物が立ち上がっていく。建物はどんどんと空高く伸びていき――僕の目の前に現れた。

 建物の名前はHTIVS。Hero training international vocational school(ヒーロー養成国際専門学校)だ。トウキョースイドウバシに建っている巨大なこの学校は世界中の税金から成り立ち怪物や魔道具犯罪者と戦うヒーローを育成するのが目的だ。この学校はもちろん、この学校の周辺の繁華街も生徒のための設備が整っているので、バリア内のなかでも住みやすい町としても有名だ。

 そして僕――ヒロは今日この学校に入学するのだ。豪華で立派な学校の、これまた豪華で立派な門の前に僕は――期待に胸を膨らませて立っていた。自分でも目が輝いているのが判る。

 門は石で出来たアーチゲートで鉄格子までついている。門の両端には鉄製の楼台があり、夜はこれで明るくすることを示していた。あえて古典的な手法に頼るあたりセンスを感じさせる。そして門の前には白と黒のゴシック調の服に、白くふわっとしたスカートをはいた綺麗な黒髪を結んでツインテールにした少女が立っていた。その整った雰囲気から僕は人目で彼女が受付役だとわかった。僕はパタパタと彼女に駆け寄り声をかける、

「あ、あの。ぼ、僕今日っ、入学の、生徒、なんですっ、けど!」

 全くおぼつかない口調に自分で噴出してしまいそうになった。そうとう緊張している……。そんな僕を馬鹿にする風もなく彼女は優しく微笑んだ。

「入学許可証、ある?」

「あ、あります!」

 僕は声を裏返らせながらカバンを漁り、その中からクリアファイルをやっとこさっとこ引っ張り出して、そのなかから一枚、立派な紙を取り出す。そしてそれを彼女に突きつけた。僕の突きつけた紙を彼女は覗き込むように見つめる。そして頷いて彼女はこういった。 

「確かに本物ね。ところであなたの名前……。もしかしてこの学校に親戚いる?」

 突然の彼女の問い、そんなことはない、と僕は首を振った。それからある可能性に思い当たって彼女に問いかける。

「あの、もしかして……その。天川英雄、ここにいるんですか?」

 僕が口にした名前を聞いて、彼女は驚いたと目を丸くする。

「ヒデと知り合いだったの?」

 彼女の反応に、僕は身を乗り出して目を輝かせる。

「やっぱりいるんですね!」

 すると彼女は僕の余りの勢いにクスクスと笑みを浮かべた。

「ええ、いるわ。でも君がそんなに嬉しそうにする理由が私には判らないなぁ」

「実は……僕とヒデは約束したんです。いつかHTIVSで再会しようって。やっぱりアイツのが先に入学していたかー!」

 天川英雄。僕と偶然同じ苗字を持ち、同じくヒーローに憧れる少年にあったのは僕が中学生の時だった。親の都合で別れる羽目になったのだが、別れ際に僕と英雄は、HTIVSで再会することを約束したのだ。あれから三年が経って今、英雄は一足早く入学していたのだ。

「うわ~嬉しいな。久しぶりだな~」

 気持ちが高ぶって足浮きだっている僕、一方彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。

「ヒデに会いたいなんて変わっているわね、君」

 その彼女の云い方は明らかに英雄を馬鹿にするものだったので、僕は思わずムッとした。

「そんな云い方ないんじゃないですか?」

 すうと彼女はあら、と笑う。

「ごめんね、もしかしたら違う人かもしれないもんね。私たちの中でその名前は学校一の問題児のことだから」

                ◆

「まあ細かい話はあとよ。君を入学式の会場に案内するわ」

 彼女はそう云って校舎の方へ体を向け、そちらへと歩いていく。僕は慌てて彼女の後を追いながらも考える。ヒーロー目指している同姓同名がそう簡単にいるもんか、と。校舎へと続く道を行ききながら彼女は僕の方を振り向いて微笑む。

「私は御台場美吹(おだいばみぶき)よ。よろしくね。ヒロ」

「よろしくお願いします、えっと、御台場さん」

「美吹でいいわよ。後ここでは基本的に後輩先輩間の敬語はいらないわ」

 彼女――美吹は両端で長く結んだ髪をかき分けながらそう云った。

「判った。よろしくね……美吹」

 女の子を名前で呼んだことなどないので少し照れくさく顔が赤くなるのを感じながら僕は声を絞り出した。それをみて美吹は満足気に頷いた。

「よく出来ましたー」

 この学校についてさらに説明しておこう。先ほども云ったようにHTIVSは世界中の税金から成り立っている。このシブヤ校も勿論それは同じだ。そのため簡単に入学できるものではない。一年の間に入学のチャンスは春夏秋冬の四回なのだが、それを受かるにはするには次の二つの条件のうちどちらかを満たす必要がある。

 一つは「試験」。普通の学校同様に試験で入学するタイプだ。もちろん筆記だけでなく体術などの戦闘力も計測した上で、だ。入試自体は誰でも受けられるとあって倍率もすさまじい。僕は春これを受け、筆記は余裕のパスだったのだが戦闘面を落としてしまい不合格となってしまった。

 そんな僕が二回目、夏の募集でうかったのはもうひとつの理由だった。というか本校の殆どの入学はこちらが理由だ。しかしこちらはある意味高倍率の試験をパスするより難しい。それが「魔道具入学」だ。魔道具とは云ってしまえばヒーローのための武器だ。武器ごとに様々な能力を持っていてこれがヒーローをヒーローたらしめている。これを手に入れるとHTIVSに入学する義務が発生するのだ。だがさっきも云った通り魔道具を手に入れるのは試験より難易度が高い。それに関してはいつか説明するとしてとにかく僕はその手に入れるのが難しい魔道具を「ある理由」から運よく手に入れ入学にこぎつけたのだ。

 

「付いたわよ。ここが私達がヒーローを目指す場所。そしてここから貴方の学校となり職場となり家となる場所……。HTIVSの校舎よ!」

 五分ほどあるいた時、美吹は指を天高く伸ばして、目の前の巨大な建物を仰ぐ。僕も思わずそれを見上げる。HTIVS校舎は天高く伸びて最上階は雲の上にでもあるるのではないかという感覚に陥る。

「じゃ、行くわよ。ヒロ。今から、君のヒーローとしての一歩が始まる! なんてね」 

 茶目っ気たっぷりにウインクする美吹。僕は大きく深呼吸をしてドアに一歩近づく。するとドアが音もなく開いた。そして、僕は校舎へ最初の一歩を踏み出した。

               

 校内をしばらく行ったところにあるエレベーターに乗りこみ、美吹が三階のボタンを押した。僕は彼女が押したボタンの並んでいる所を見て目を丸くした。

「百階建て……」

「大きいでしょ? まあ卒業までにでも殆ど使わずに終わると思うわ」

 美吹は微笑んだ。エレベーターはあっという間に三階に到着する。エレベーターの扉が開くと、赤いカーペットが敷かれた廊下、そして大きくて立派な扉が目に飛び込んできた。そして廊下は左右に長く伸びている。美吹はその目の前の立派な扉を差して云った。

「この部屋は後で来るわ。とりあえず、会場のヤマトタケルの間に向かうわよ……。この学校で行事を行うような部屋は神話に出てくるヒーローの名前がついているの」

 美吹はそう説明しながら廊下を右に進む。僕は廊下に並ぶ見たこともない植物や、色々なヒーローを象った銅像に目移りしながらも彼女の後を追う。そして美吹は先ほどの部屋よりも立派な扉のある部屋の前で足を止めた。

「ここよ」

 僕はその扉の両端に据えられた銅像に目をやって、息を呑んだ。

「凛々しい立ち姿。狼を思わせる鎧……間違いない! これブラックフェンリル……」

 うっとりとした口調で云う僕に、美吹は目を輝かせる。

「好きなの?」

「うん、僕の憧れの人なんだ。というか……」

 僕の話を強引に遮り、美吹は目を輝かせながら僕の手を取った。

「いい子だ! いい後輩だ! 私も大好きなんだ! いや、人気ナンバーワンなんだけどさ、でも私が誰よりもファンだと思うんだけどね……。あ、ブラックフェンリルのファンってことは、ここで彼が教師をやっていることも知っているよね?」

「うん……」

 急にまくし立て始めた彼女に僕は若干気圧されながらも答えた。ブラックフェンリルは現在最強と話題のヒーローだ。人気もナンバーワンで、グッズ購入に長蛇の列が出来る程だとか。

「ふふふ、実はね。私、生徒じゃなくて彼の助手なの! すごいでしょ?」

「へ、へぇ……」

 苦笑いする僕を見て美吹は口に手をあて、ハッとした。

「あ、ごめん、私ったらつい……。とにかく入りましょ。皆待っているわ」

 美吹は少し顔を紅に染めながらアセアセと扉のもち手に手をかけ、押した。ズズズという大げさな音がして扉が開いていく。そして扉の中が僕の視界に飛び込んできた。

 

 僕が部屋に入ると部屋に居た数名の視線が全て僕に集中する。ドアの傍にある椅子に座っていた茶髪の男性がよっこらしょと、立ち上がる。

「これで全員か……じゃ始めるか」

 その言葉に僕は部屋を見回す。信じられないほど広く、幾つか円形テーブルが並んでいる。そして奥にはステージが設置されている。まるでパーティ会場のようだ、と僕は思った。その時だった。少し苛立ったような声が聞こえてくる。

「遅いんじゃないの~。この僕を迷わせるなんてさ」

 上から目線の口調。僕は声の主を探し、キョロキョロとする。しかしそれらしいのは見当たらない。すると下から声が飛んで来た。

「ここだよ」

 僕は視線を下に投げ、唖然とした。そこにはさっきの上から口調とは裏腹に僕を見上げている一三〇センチほどしかない小さな少年がいた。爆発したみたいにもしゃっとした髪の毛の彼を僕は怪訝な顔をして美吹に聞く。

「この子、迷子かな?」

「違うっ!」

 僕のすねにケリを入れる少年。鈍い痛みに悶えてうずくまる僕を見下して少年は云った。

「金的しなかっただけありがたいと思いなよ。あ、僕は天才小学生木島射鷹(きしまいるたか)。よろしくね」

 木島射鷹、その名前はどこかで聞いたことがあった。僕は思考をめぐらせ――ハッとする。

「あー! 射撃の天才の!」

 テレビで見たことがある、天才小学生スナイパーと言われる程スナイパーライフルの扱いに長けた小学生がいる、と。その通り、と頷いて射鷹は云う。

「全く、年上だからって調子にのらない方がいいよ?」

 僕が体を起こし、すこし不貞腐れていると抑揚のない声がした。

「射次郎だったか? 止めておいた方が良いのではないか? 小学生のお前が喧嘩売るにはちょっとコワモテだな」

 僕が声のするほうを見ると部屋の壁に寄りかかってカロリーメイトを食べている男がいた。彼に反発するように射鷹の叫び声が響き渡る。

「名前間違えないでよね、射鷹だから! それに僕のこと見くびらないでよ」

 一方僕はため息をついていた。僕は生まれつき目つきが悪く、ここ数年で背が伸びて一七五はある。その上ブラックフェンリルに憧れ全身を黒い服やズボンで固めているのだ。確かに傍から見れば「コワモテ」だろう。

 僕がなんと説明すべきが戸惑っていると、舞台の上から掠れたような笑い声がした。そして

「安心しろ札一。そいつ見かけによらず身体能力は全くだ」

 という声。僕らは一斉に舞台を見上げる。そこに立っていたのは、僕に負けないくらい目つきの悪い二十代くらいの男性……。僕は思わず叫んだ。

「鞍臣さん!」

「久しぶりだな、ヒロ。遅かったじゃないか。まあ魔道具を手に入れたなら結果オーライだな」

「そうですね、それにしても本当にお久しぶりです。活躍はそりゃもう聞いてますよ」

「ふっ、まあな。俺がここまで上り詰めたのもある意味お前とアイツのお陰かもしれんがな」

 鞍臣さんは僕に微笑み返す。後ろで美吹は素っ頓狂な声をあげていた。

「ちょと、ヒロ! 鞍臣先生と知り合いなの?」

「……うん。実は僕の師匠なんだ」

 そう、僕と英雄に中学時代稽古をつけてくれた浮浪者のふりをしていたウルフのおっさん。それがこの小笠蔵臣(おがさくらおみ)さんなのであった。彼がこの学校の教師になったことは聞いていた。それも僕のここに入りたい意欲を煽ったわけだが。

「知り合いって、なにそれー」

 美吹は不満そうに頬を膨らませる。一方僕以外のメンバーは誰だか全く知らないようで、それを代表するように

「貴方誰ですか~?」

 ちゃっかり席についてテーブルに肘を付いている、ギャル系の女の子が云った。

「ハッ、確かに俺のこっちの姿を知ってる奴は貴重だな。じゃ、ちょっと見せてやるか」

 鞍臣さんはあるものを懐から取り出す。部屋の隅にいたポーニーテールメガネの女の子が目を丸くする。

「なに、あれ短剣?」

「ただの短剣じゃないわ。英傑魔道具よ」

 美吹が付け足した。 それを聞いた射鷹は素っ頓狂な声を上げた。

「じゃあヒーローってこと?」 

 美吹がさも自分のことのように笑う。

「ええ、しかも皆知っている奴よ」

 鞍臣さんは短剣を胸の前に構えて叫ぶ。

「チェンジ!」

 それと同時に短剣は大剣に変貌し、彼の体は光に包まれたかと思うと、黒い狼を思わせる鎧が鞍臣さんの全身を包んでいた。その姿を見て、一同にどよめきが走る。

「ブ、ブラックフェンリルじゃねーか!」

 床に座って足を組んでいた金髪男が叫んだ。僕は彼に見覚えがあると感じたが、その頭を細い針でチクチクとつつくような弱い感覚は、美吹の元気な声にかき消されてしまった。

「どう? これが我が学校の教員であり、ナンバーワンヒーロー、ブラックフェンリルの小笠鞍臣様よ!」

「……というわけだ」

 鞍臣さん――ブラックフェンリルが美吹のテンションとは裏腹に、それだけ云うとすぐに元の姿に戻ってしまった。短剣を懐にしまい一息ついた鞍臣さんには既に皆、先ほどまでの怪訝な眼差しとは違い、羨望のものを送っていた。

「す、すごい本当に、あの……本物のブラックフェンリルが教えてるんだ……」

 真面目に立っていた小柄な女の子が思わず言葉を詰まらせる。鞍臣さんは相変わらず下手糞な笑みを浮かべた。

「というわけで諸君、ようここそ――HTIVSに」

 思わず拍手が起こった。すると先ほどドア付近に立っていた茶髪男がいつの間にか舞台の上に現れ、鞍臣さんの肩を取りながらこう云った。

「じゃあ今から説明会の準備をするからお前らは自己紹介でもしてくれ、美吹たん、よろしくね! あ、俺は教師の一人で美吹の恋人の雷土蒼太(いかずちそうた)だ。よろしくな!」

 そう言って去っていく蒼太先生。当の美吹は皆を見回して呆れ顔をしていた。「あいつはロリコン教師で私のストーカーだから気にしなくていいわ。私の恋人でもなんでもないから勘違いしないでね。とりあえず一人ずつ自己紹介してもらおうかしら」

                ◆

 というわけでそれぞれ自己紹介をした。まずは先程も名乗っていたが、天才小学生スナイパー木島射鷹。次に先ほどカロリーメイトを食べていた軍服で口元を隠した無表情男は他の国にスカウトされていたらしい元軍人、宮間札一(みやまふだいち)。なかなか大人びた風貌だが同い年らしい。そして中国出身でスイーツが大好きというレア・セニ。長い髪と細い目、それから黒豆みたいな眉が印象的だ。彼の笑顔は心地よいと僕は感じた。続いて銀髪で暗い印象を与える華奢な少年、刀田(かたなだ)ムゲン。幅は三メートル、高さは二メートル弱あり、見るからに強そうなまるで歩く筋肉のような彼はインド出身のシヴァ・ムスタファ。メガネで少し自信がなさそうな印象を受けるまっすぐな前髪とポニーテールの女の子は泡尾根(あわおね)リカ。長い黒髪にカチューシャをした活発な女の子が克己神酒(かつみみき)。小動物のように小柄な女の子は姫路花火(ひめじはなび)。茶髪と巨大なリボン、それから濃いメイクが目立つ女の子は不動和歌子(ふどうううたこ)。和歌子と書いて「うたこ」と読むらしい。

そして

「あ、あんた、思い出した!」

 僕は叫んだ。それは先ほど見覚えがあると感じた茶髪とアクセサリーの男だった。僕はその名前を呼んだ。

「藤代佐吉……」

「俺のこと、覚えていたのか、ヒロ……」

 彼は気まずそうに目線をそらした。

 ――藤代佐吉。忘れもしない、僕と英雄が始めて一緒に戦った日に魔獣ケフェウスを連れ込んだ不良だ。さらに云えば彼は弱い生徒からカツアゲをしていた。僕はそれを止めようとして逆に潰されかけたこともあったっけ。

 僕は警戒もこめて彼の目をしっかり見ながら云う。

「藤代先輩……いや、ここでは佐吉って云うべきか。なんでアンタが――」

 そこまで云ったときギャルの和歌子が割り込んできた。

「ねね、えっと、アンタ――ヒロってアタシと同い年……今高一の年齢だよね?」

「え? うんそうだよ」

 僕は頷く。

「それでこのチャラ男、話し聞く限りアンタの中学の先輩っぽいけど」

「ここにいるメンバーは飛び級が認められた天才の僕以外は同い年かと思っていたな~」

 射鷹も性の悪い笑みを浮かべる。和歌子は口に手をあてわざとらしく笑う。

「じゃあアンタ浪人したんだ~」

 二人から小ばかにされ、佐吉は思わず声を尖らせる。

「あ? その云いかたはどうなんだギャル女。一応普通の高校に通いながらここを目指してたんだよ。二年かかっちまったけど」

「ぷーくすくす、小学生の僕でも受かるのに二年もがんばるなんて、可愛そう~」

 天才小学生はさらに煽る。そんな彼をにらむ佐吉。すると軍人男、札一が割って入る。

「争いはよせ、木島射次郎、藤代佐助」

「あの、名前が違うって云わなかった?」

 僕はそんな彼らの様子をみてため息をつく、彼らが僕のヒーローとしての同期になるわけだ。少し不安と云うかなんと云うか。それに今のゴタゴタで佐吉がなぜHTIVSに着たのかも聞けなかった。若しかしたらまた良からぬことをたくらんでいるんじゃないのか? そんな疑問が渦巻いた。

「とりあえず、これで一通り自己紹介が終わったわね……」

 すこし困りながらも美吹が云った瞬間だった。バツン、という音がして部屋が暗闇の中に落ちた。皆がざわつき、どよめく。電気が消えたのか……?

「て、停電?」

 小柄な少女、花火が悲鳴をあげた。まるでそれに答えるかのように――次の瞬間舞台へスポットライトの光が伸びた。

「どうやら演出……の様だな」

 札一が一人冷静にが云う。

「そうだ」

 札一に答えるように、しゃがれた声がした。僕らは声の主――いつの間にか、スポットライトに包まれて立っていた人物をみて文字通り口をあんぐりとあけた。そこには身長百センチにも満たない小柄な老人が立っていたからだ。

「よお、お前ら」

「嫌ぁ不審者!」

 メガネ少女リカが悲鳴を上げて机の上に置いてあった皿を老人めがけてなげた。そかしフリスビーのように回転しながら飛んで行った皿は老人にぶつかることなく彼の体を突き抜けた。

 豪傑男シヴァは体に似合わず長いまつげを瞬かせながら云う。

「どうやら『ほろぐらむえーぞー』のようじゃのう」 

 僕も頷く。どうやら僕らの目の前に立っている老人は本物ではない。先ほどいきなり現れたことも考えると如何やら立体映像のようだ。その映像老人は僕らを見ながら怒鳴り声をあげた。

「おい! 危ないだろ! 俺が映像だったから良いものの、もし本物だったら如何する!」

 指をビシっと突き出されて怒鳴られたリカは顔を青くした。

「ひええええごめんなさい!」

「まあ良い。もし俺が本物ならアレくらい余裕で回避できたしな。それにもし刺さっても全くなんてことはない、俺は最強だから」

 自慢気に語る老人。レアがおずおずと問いかけた。

「あ、あの、どちら様ですカ?」

 それを聞いた老人の眉間がピクリと動く。そして思い切り体を反らしながら堂々と叫んだ。

「俺様がこのHTIVSの学園長! 姫路美久馬(ひめじみくま)だぁ!」

「ええええええ? 学園長?」

 神酒が声を裏返す。冷静だった札一も表情を変えている。僕も正直驚いた――こんな小柄な老人が学園長だって? 僕らの困惑を代弁するように和歌子が声を張り上げた。

「ちょっとー、ここって世界を救う学校じゃないのー? それの偉いのがこんなちっこいジジイってどうなのー?」

「ほう」

 それだけつぶやいて――学園長は僕らをキッと睨みつけた。

「云っておくが俺はここにいるお前ら全員が力を合わせても一秒かからず殲滅できる」

 何を云ってるんだこの人は、僕は反論しようとして――足がすくんだ。それは他の皆もであった。皆今の老人の言葉に反骨心を抱いているのが顔に出ている。然し皆の顔には同時に恐怖の色が浮かび、足が震え、今目の前でただ立っているだけの老人に攻撃さえもできず、ただその場に硬直していた。一瞬であり永遠にも感じられるような時間が経った後学園長はフッと息を吐いた。瞬間、まるで鉄製のロープのように僕を硬く縛り付けていた力が消え、級に体が軽くなった。体が動かせる――開放感を覚え僕は思わず体を床に預けてしまった。呆然と座り込んでいる僕らを舞台の上から学園長は見下ろす――たった数メートルの視線の差だがそれが僕にはまるで永遠に手が届くことのないところにでもいるかのように感じてしまった。

「今のは殺気だ。お前らは雑魚だからコレくらいでも動けなくなる」

「そう、だよね。今の殺気を放っていたのって本物じゃなくてホログラムでしょ?」

 ハアハアと息を切らしながら射鷹は云った。

「そうだ、だがお前らもここで二年くらい学べば本物の俺が殺気を放っても動けるくらいにはなるだろ。まあ勝てないだろうけどな、ハハハハハハハ」

「あれが学園長かよ……ハイテンションジジイじゃねーか。そして嫌に強い」 

 佐吉が頭を掻く。一方和歌子は花火の方を見て云った。

「ていうか学園長の名前、姫路って……」

「たしかに花火ちゃんと同じ苗字だ」

 神酒もハッとして頷く。花火は照れくさそうに俯いて小声で云う。

「うん、美久馬学園長は、私のおじいちゃんなんだ……」

「そうなんだ……。でもなんかちっちゃいおじいちゃんだね」

 神酒が単刀直入な感想を述べた。

「ちっちゃいとはなんだ!」

「いやじーさん、お前実際ちっさいだろ」

 鞍臣さんが舞台の袖からずかずかと現れて云う。

「鞍臣! 師匠に向かってなんだその口の利き方は!」

「判った判った悪かった、だから下がれ、ご老体に無理は禁物だぞ」

 そして鞍臣さんが指を鳴らすと学園長のホログラムは消えた。鞍臣さんは頭を下げる。

「……学園長はちょっと変わった人でな。すまない」

「変わった人どころの騒ぎじゃないでしょ」

 リカがジットリとした目つきで感想を漏らす。札一も少し不機嫌そうだった。

「というかあの学園長、一騎当千どころではないのでは? あの人がいれば俺たちなど不要なのでは」

「確かに、そうかもしれないな。だけどお前ら、残念なことにあのジジイはアイツの部屋から出られないんだ」

「え? なんでですか」

 思わず聞き返した僕。鞍臣さんはニヤっと笑う。

「歳だ」

「んなわけあるか馬鹿!」

 突然舞台上に学園長が現れ怒鳴り声を上げた。鞍臣さんは耳を塞ぎながら文句を云う。

「勝手に出てくるなホログラム長」

「お前こそ俺様が話している途中なのに消しやがってクソ弟子が」

 ケッ、と毒づく学園長。そして僕らの方を見回してこう云った。

「俺はある理由から――俺の部屋から動くことが出来ない。それは世界を守るため。魔獣や犯罪者と戦うことと同じくらい、世界を守ることにつながる。何をしているかは云えん。鞍臣達にも云っていない。とにかく俺は部屋に縛られている。だからHTIVSを作った。戦えん俺の代わりにお前らを強くする。それがHTIVSだ」

ああ、と僕は思った。

 この人は間違いなくHTIVSの学園長だ。さっきあったばかり、しかもホログラムだけれど、判る。この人は絶大な安心感があって、信頼できる――眩しい人だ。

 学園長は僕らを見回し満足そうに頷き、消えた。

 鞍臣さんは先ほどまで学園長がいた空間を見つめ、ため息をついた。

「本当に変わった人だろ?」

 僕らは――花火でさえも――迷わず頷いた。鞍臣さんはクックと笑った。こうして入学式は壮絶なインパクトを与えたまま幕を閉じたのであった。

                  ◆

「まずは一階、正門側から見て一番奥にあるのが食堂よ」

 ――入学式後、美吹による校内案内が始まった。最初は食堂――華美な装飾が施された部屋に長机が並んでいる。そして奥には大きなカウンターがあって、奥では鍋やらなんやらがグツグツといって割烹着を着た女性が並んでいる生徒に食べ物を渡していた。

「すげー! 高級だな!」

 佐吉が率直な感想を述べた。それを聞いた札一が鼻で笑う。

「藤城佐之助のイメージは安っぽいな。俺の学校はこんな感じだったぞ」

「佐吉だ! 札一お前わざと間違えているだろ! そして悪かったな、安っぽくて。ていうかお前軍人だろ? 学校とか嘘つくなよ!」

 佐吉は突っ込みを繰り出すが既に札一は聞いていない。

「食堂では、自分の好きなものを買うことができるわ。学校から出される月一万お小遣いが出るわ」

「月一万……そんなにもらえるの?」

 射鷹が声をあげると和歌子はホホホとすまた笑みを浮かべ、云う。

「射鷹やっぱり子供ね、一万なんて気抜いたらマジであっという間だよ」

「子供だと~? 化粧で盛ってるブスのくせに!」

 それを聞いた和歌子が目を尖らせた。

「なんですって?」

「やめなさい、二人とも」

 神酒が優しく二人の間に割って入る。美吹は頭を抑えながら云う。

「とにかくここはメニューも豊富だから楽しいわよ。授業が大学みたいに選択性だから空いた時間に友達と食べられるしね。あとお小遣い一万じゃ足りないなら頑張って有名ヒーローになりなさい。そうすればお給料、入るわよっ」

                     ◆

 続いては二階。そこは二階のスペースを全部使って図書室が展開されていた。和歌子は雑誌棚に駆け寄って目を輝かせる。

「あ、雑誌も置いてあるんだ! 嬉しい!」

「ほう、トレーニング本も豊富じゃのう、札一!」

「そうだな、まあコレは悪くない」

 札一も思わず笑みをこぼしている。僕は本なら何でも大好きなので逆に目移りしてしまう――そんな人をもう一人見つけ、僕は微笑んだ。

「リカも本好きなんだね」

「え? なんで判ったの?」

 メガネは飛び上がるほど驚いているリカ。

「だって目移りしてるもん」

「あ、もしかしてヒロも?」

 嬉しそうに身を乗り出してくるリカ。僕は頷いた。もっとリカと本棚を前に話していたかったが、美吹が呼ぶ声がしたので、なくなく集合した。

                 ◆

 その後も色々な設備を紹介された。トレーニングルームは勿論、映画館なんかもあっ驚かされた。最期にエレベーターに乗り込んで美吹はこう云った。

「他にも沢山設備はあるけど、まあぼちぼち覚えるでしょ。というわけで皆の部屋に案内するわね」

 そう言って美吹は五〇階のボタンを押した。

「なんかすごいのう」

 しばらく、音もなくエレベーターは動く。まもなくチンと云う鈴音がしてエレベーターが止まり、扉が開かれた。          

「こっちよ」  

 エレベーターを降りた美吹は廊下を進む。そして突き当たりの部屋の前で止まった。

「この部屋がヒロと佐吉、レアの三人部屋、隣が射鷹、札一、ムゲン、シヴァの部屋。隣が和歌子と、花火の部屋、でその隣が神酒とリカ。先に送った荷物はもう部屋においてあるわ」

「ワッハッハ。やったのう射鷹、札一それにムゲン。一緒の部屋じゃ!」

 嬉しいのか豪快に笑うシヴァ。射鷹は顔をしかめる。

「えー、個室が良かった」

「……いびきが五月蝿そうだな」

 札一はそれだけ云う。ムゲンは黙ったままなにも云わない。そういえば彼、ずっと一言も発していない。僕は少し不思議に思って彼を見つめる、が。

「じゃ、佐吉、ヒロ部屋に入るヨ」

 と、レアに半ば押されるような形で僕と佐吉は部屋に押し込まれてしまった。

 部屋はホテルを思わせる細長い部屋で横向きのベッドが縦に三つ並んでいた。窓際には小さな円形テーブル。ベッドとは反対側の壁には机が三つ。そして空中にディスプレイが浮いていた。

「ちゃんとテレビもあんじゃねーか」

 佐吉が早速電源を入れてチャンネルをバシバシ切り替える。

「うひょー全部写るじゃん、やったな。俺もうちょっと厳しいと思ってたわー娯楽設備みたいのも整ってるしさ」

「そうだネ。エアコンもついてるシ……。ほんとにホテルみたいダ」

 レアは部屋をぐるりと見回してドアのほうへ向かう。

「ウチ、自販機で飲み物買ってくル」

「おう」

 佐吉はベッドでボフボフしながら答える。バタンとドアが閉まった。部屋には僕と佐吉が振二人だけ残された。

「……」

 僕は黙り込んでしまった。

 彼の中学時代の佐吉は不良だ。悪いことでもしていない限りあんまり関わりたいとは思えない。二人きりになったら何を話したら良いのか……。すると意外にも佐吉の方から切り出してきた。

「お前――俺のこと覚えてるんだよな」

「うん」

 僕は正直に頷いた。すると佐吉は目を伏せる。

「そうか――。あの時は本当にすまなかった!」

 そう叫んだかと思うと彼は額をベッドに押し付けた。僕はぎょっとして云う。

「ちょ、いきなりやめてよ!」

「ああ、そうだなすまない。つい、その気持ちが」

 そう云って居住まいを正す。

「だが俺自身、あのときのこと、ケフェウスのことやお前を殴ったこと――幾ら謝っても謝りきれないほどだと思う。あの後俺はずっと謹慎になっていた。お前途中で転校したんだよな。じゃあ知らないだろうけど、俺はあの後、不良をやめた」

 ――その格好でやめているんだ。

 そんな突込みが頭に浮かんできて僕はやっと冷静になった。この人は――過去の藤代佐吉じゃないんだなぁ、なんとなく僕はそう思った。

「俺は見下してボコボコにしたお前に、自分の女を助けられた。俺の脚は怪我していたのもあったけど確かにあの時、由紀を助けに入れたはずだ。でも俺は怖くて動けなかった。だけどお前は――動けた。

 あの件以来由紀には嫌われちまった。だが俺には目標が出来た。お前みたいになること、だ。俺もきっとそしたらあの日みたいな情けない自分と、決別できるかなって」

 真面目な表情の彼。僕はこみ上げてくるものがあった。それらを全部ひっくるめて僕はこう云った。

「佐吉……見かけによらずいい人なんだね」

「お前が言うか?」

「あ、確かにごめん。でも僕は弱いから、それを克服しようとしてブラックフェンリルみたいに黒で固めているだけだよ」

 僕が云うと佐吉は笑った。

「それなら俺もだ。俺は弱い自分が嫌いだ。だからせめて見た目くらいカッコ付けようってな」

 僕は思わず噴出した。

「あっはっ、僕たち似たもの同士かもね」

「だな」

 笑い合う僕ら。そして僕は一通り笑った後佐吉に問いかける。

「そういえばヒデ、見なかった? 中学のとき僕と一緒に戦ってた白い髪の」

「ああ、あいつ? アイツもHTIVSいんの?」

「うん。先に入学しているはずだけど見ないなぁ」

 僕はすこししゅんとなった。今日にでも英雄に会えると思っていたのに。

「まあヒデもそのうちお前に会いに来るだろ」

 佐吉ニッと微笑みかける。僕も、微笑み返した。

「はは、ありがと」 

 そこにレアが帰ってきた。そして微笑みあう僕らを見てギョッとした。

「な、二人共僕がいない間にめっちゃ仲良ク! 怖いヨ! 日本人のスキンシップ怖いヨ!」

 思わず噴出す僕と佐吉。その息の合いっぷりにレアは益々不貞腐れた。

               ◆

 翌日、僕らは鞍臣先生の説明を聞くため、再びヤマトタケルの間に集められていた。鞍臣先生は紙を取り出し――多分そこになにか書いてあるのであろう――を読み上げた。

「えー、この学校はお前らの学校であり職場であり――家だ。入学パンフレットにもそう書いてあったように、お前らはこれからここでヒーローとして必要なことを学びながら時にヒーローとして魔獣と戦う。お前らは最初の一年間の訓練期間を終えることで晴れて外でヒーローの力を振るうことを許可され、生徒であると同時にヒーローとしてここに雇われたことになる。それ以前に使うことは問題なので注意するように」

 僕らは黙って、時に相槌を打ちなが話を聞く。こんなことはパンフレットどころか誰でも知っていることだ。僕が少し退屈に思ったときだった。鞍臣先生が少し声のトーンを変えた。

「お前らがここに入学資格を得たということは……。試験に合格した、もしくは全員魔道具を手に入れたわけだな?」

 なんらかの手段――先生はそこを強調して云った。それがどういう意味かは僕らにだって判る。

「別にいいんだ、入手の手段は山ほどある。師匠から受け継いだとか、魔道具に認められたとか。もしかしたら違法な手段かも知れん。だが正直俺たちはそんな手段はどうでもいいと思っている。少なくともお前たちがヒーローの力を使える。その力を持っていることが大事なのだ。ヒーローの力を手に入れた人間がここに入学することは権利であると同時に義務でもある。魔道具入学者は事前に面接をしたな」

 僕含め数名の生徒は頷く。僕自身事前にHTIVSの先生に場所を指定されそこで万節を行ったのだ。

「そこで人格的にHTIVSに相応しくない――悪しき人間や戦う意思のない人間はその時点で所有権を剥奪している。よってお前らがどのような理由『力』を手にしていようとも関係ない。お前らはヒーローの力を持っていて、HTIVSに相応しい人間だお前らの手にした力は間違えれば人を不幸にする。しかしうまく使えば多くの人を救える。お前らが訓練生として最初の学ぶのはそれを上手く使う方法だ。というわけで――とりあえず、魔道具を手に入れて入学したヤツらは手を挙げろ」

 僕は手を挙げる。他に手を挙げているのはシヴァ、レア、札一、リカ、和歌子、花火、神酒の七人。

「なーんだ、留年さんと、そこのなんだっけ、根暗くんと僕以外は魔道具入学なの?」

 射鷹が少しバカにしたように云うので、シヴァが声を尖らせる。

「なんじゃ、射鷹。その馬鹿にしたような態度は」

「静かに。良いか。お前らはこれから最初の試練を与える」

 鞍臣先生は二人を静めてからこう云った。

「お前らにはこの学校にあるマシーンを使ってミッションに挑んでもらう。それを五つクリアしたヤツだけが晴れて訓練を受けられる。これをクリアしなくては訓練生にもなれないわけだ。そしてこのミッションのルールは二つ。一つはこのミッション二人一組のペアで行ってもらう。そしてもう一つのルール、ここで今手を挙げてもらってる魔道具入学者が対象になるのだが……この試験をパスするまで魔道具は没収だ」

            ◆

「は?」

 僕は思わず聞き返してしまった。シヴァも眉をひそめる。

「理解しかねますな、先生。ワシらはこの力の使い方を教わりに来たのではないのですかのう?」

「それに二人で行動というのもどうなんですかね?」

 魔道具を持っていない佐吉も不満たらたらと云った感じだ。鞍臣先生はため息をつく。

「話を最後まで聞け。お前らに挑んでもらうミッションは、歴代犯罪者のゴーストを倒すことだ」

「ゴースト? お化けってコト?」

 レアが白目をむいて声を裏返らせた。僕はクスクス笑って説明する。

「違うよ。ほらマリオカートとかのレースゲーで前のプレイデータとレース出来るのあるでしょ? あんな感じ。多分だけどこの学校では歴代の犯罪者を再現できるマシーンがあって僕らはそれと戦う。そうでしょう? 先生」

「ああ、その通りだ。お前らには過去の犯罪者のデータと戦ってもらう。状況なども捉えられた当時を再現している本格仕様だ。いわばお前らの実力をあらめてみさせてもらうって感じだな。で、試験入学のやつらはまだ魔道具を持っていない。そこで公平を期すため、また魔道具を持つのにふさわしいかを確かめるためにお前らには魔道具なしでやってもらう」

「なるほどそれくらいなら出来るかもなぁ」

 リカは頷いた。一方神酒は首をかしげていた。

「あのさー、ミッションの内容は大体わかった。だけどさ、私たち奇数だからペアって無理じゃない?」

「うん、それなんだけどね」

 困ったように微笑んだのは美吹だった。そして鞍臣さんが話を続ける。

「その件に関しては今説明しよう。実は俺は今回奇数の定員を設けたのだが、それはある意図からだ。そしてある意図とは――ヒロお前に関することだ」

 鞍臣先生はまっすぐに僕をステージから指差す。僕は何もいわずに彼を見詰め返した。

「それって、まさかヒロはその鞍臣先生の弟子だから一人でってことですか?」

 花火が恐る恐るそう云った。先生は首を横に振った。

「いや、ヒロとは別のヤツと組んでもらおうと思っている。そいつは未だにこれをクリアできないでいる」

「別のヤツ、ですか?」

 僕は聞き返す――心臓が早撃つのが判る。なんとなくだが、心のどこかで僕はこの後に起こることを予想していたのかもしれない。

「ああ……ヒロ、お前なら、アイツを戻せるかもしれない。俺はそう思っているんだ。それでいいか?」

 僕は静かに鞍臣さんを見る。この人は僕の師匠だった時代から正しい判断の出来る人だった。それは先生となり、最強となった今でも変わらないだろう。だから僕は先生の提案がなんであろうと……。

「はい」

 そう答えるのだった。鞍臣さんは不器用に微笑んだ。

「そうか、やはりお前を待っていて良かった。さあ入ってくれ――天川英雄」

 そしてその言葉に答えるように扉が開かれ、真っ白な髪に眼鏡、そして中学生位にも見える童顔の青年――僕の親友が姿を現した。

                     ◆

 動悸が激しくなるのが判る。ドクンドクンという脈打つ音が外に聞こえるのでは、と不安にさえなる。ああ、やっとだ。やっと会えた。

 ここまでくるにはいろいろなことがあった。だが夢の舞台で、HTIVSで、約束を交わした親友と再び会いまみえることが出来た。これ以上の幸せがあるだろうか? 

 僕は涙がこぼれそうになる。

 ――やっと約束が果たせる。やっと――僕は胸にこみ上げるものを感じながら英雄に駆け寄った。

「ヒデ! やっと会えた!」

 英雄は僕を一瞥する。それから――顔をしかめてこう云った。

「――誰だお前?」


 これは、僕と英雄がヒーローになる物語。だけど、その道のりは険しくつらいものだった。これはその始まりだった。


 第二話 完結


次回予告

「誰だお前?」

久しぶりに再会した親友から放たれた衝撃の言葉。果たされなくなった約束、衝撃を受けるヒロ。そして英雄が変わってしまった理由とは?

次回第三話「再会と変化と」

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