刺客の正体
俺は突然のバイト仲間、美樹ちゃんの登場に動揺する。
原因は簡単、俺が魔王少女ミリーの能力を使用する訓練をしていたからだ。
もし見られていたら、大問題になってしまうかもしれない。
とりあえず、いつもの調子で話しかけてみる。
「美樹ちゃん、どうしたんだ?こんな時間にこんな場所で」
「…………」
だが、美樹ちゃんは答えない。
ショートブーツにショートパンツ。
この海岸は昼間はともかく、夜遅くに可愛い女の子が一人で来るような場所ではない。
俺は怪しく思いながらも、美樹ちゃんに近づこうとする。
<馬鹿者! 転移で後ろに跳べっ!>
「!」
突然のミリーの大声に驚き、俺は思わずテレポートで後ろに移動した。
……って、もろに能力の使用を美樹ちゃんに見られることになってしまった。
「あのさ、これは……!」
言い訳を口にしようとした俺だったが、それをやめた。
今も虚ろな表情の美樹ちゃんは、その華奢な外見に似合わない戦斧をさっきまで俺がいた場所に叩きつけていたから。
土煙とともに地面には深さ数十センチの穴が開いていた。
「なんの冗談だ?」
俺がそう呟く間にも、戦斧を地面に突き、軽業のように美樹ちゃんの体が宙を舞う。
何か嫌な予感がする。
俺は、身体能力を上げ身構える。
(フィジカルブースト)
それとほぼ同時、美樹ちゃんが最大に重心移動を活かした渾身の一撃を放ってくる。
フィジカルブーストの動体視力とテレポートでの移動でどうにかかわす。
連続テレポートで一旦距離をあけると、ようやく斬撃の手が止まった。
<恐らく、俺様の予感が正しい形で当たったようだぞ>
ミリーが、今まで見せたこともないような緊張した表情を見せる。
「なんの冗談ってのは、此方の台詞だぜ。まさか、討伐したはずの魔王の魂が此方の世界に来ていたなんてな。それに上手いこと肉体を手に入れて復活していたなんて…」
「美樹ちゃん……?」
美樹ちゃんが、急に普段とは違う口調で言葉を発したかと思うと、戦斧を肩にかける。
その出で立ちは、俺の好きなファンタジーにも多数登場してきた、戦士系のようにも見える。
俺はミリーに目をやり、彼女は呟く。
<間違いない。あいつは勇者だ>