刺客
「ありがとうございました」
注文の幕の内弁当を会社帰りのサラリーマンに渡しつつ、俺は営業スマイル全開だ。
今日は突然、バイト仲間の美樹ちゃんが休みとなったため、俺は店内でフル活躍。
時折、フィジカルブーストを利用して、いくつもの工程を手早くほぼ同時にこなしていく。
それにしても、美樹ちゃんが無断欠勤なんて初めてではないだろうか?
うちの魔王少女ミリーとの共同生活を初めて1ヶ月が経つ。
少しは、こちらの生活リズムにも慣れてきたのか、ミリーは今は俺の頭上を漂いながらおやすみ中だ。
なんでも今日も見逃せない深夜アニメがあるらしい。気楽なもんだ。
バイトが終わると、暗い夜道を歩き、俺たちは日課となっている海岸付近での訓練に来ていた。
「ミリー、どうだ」
<辺りに、人の気配はない……しかし、いや気のせいか?>
ミリーが何かを考えている。
でも、人の気配がないなら心配ないだろ。
俺は訓練に入る。
(竜巻・level1)
俺の目標とした地点に二メートル程の風の渦が巻き起こり、五秒程で消滅する。
今日も威力は変わらない。
主に上昇しすぎないという意味で。
どうやら、このlevel設定は成功のようだ。
俺はlevelを設定することで、威力を調整することを思いつき、ミリーにlevelに応じた魔力調整をしてしもらっていた。
まぁ、これでも普通の現代人相手の喧嘩程度に使うことは出来ないな。
俺がそんなことを思っているとミリーが声をかけてくる。
<どうやら、俺様の予感が当たったようだ>
「ん?」
<俺様たちに客だ>
俺が後ろを振り向くと、少し離れた場所に人影があった。
次第に近づいてくる人物をよく見ると、それは俺の知り合いだった。
「美樹ちゃん?」
俺は、虚ろな表情をするバイト仲間の少女に声をかけていた。