魔王少女ミリー
病院で目覚めた俺は、簡単な検査をするだけで退院することができた。
そして、今、俺は自分のボロアパートに戻ってきている。
自称、魔王の少女とともに。
俺の住むアパート、ツヅレ荘。
築60年を越える立派な佇まいの物件だ。
以前、大家のばあちゃんに冗談でツブレ荘っていったら、マジギレされて追い出されそうになった。
口は災いの元とはよくいったものだ。
四畳半のワンルームの見知った我が家。
見知らぬ魔王少女は、幽霊のように俺の頭上を漂っている。
この時点で、こいつが人でないのは確定だ。
「お前が魔王っていうのはともかく、ここにいるわけを聞いておこうか」
<いや、勇者に不覚をとって体が滅ぼされた際に、技の余波で魂がこちらの世界に飛ばされたというわけだ>
魔王に勇者……。
本当にファンタジーの世界だ。
「まぁ、いいだろう。それで、なんで病院にいたはずのお前が、うちにいるんだ?」
<しょうがないだろう。俺様は、お前と体を共有しているのだから>
「何?」
こいつ、聞き捨てならないことをさらっと言いやがった。
俺は自分の体をチェックするが、事故前と別段変わったところはなかった。
角も翼も尻尾もない。
魔王っぽいところは1つもなく、まさしく俺の体そのものだ。
まぁ、目の前の自称魔王の少女も全然魔王っぽくないが、最近のアニメで出てくる魔王もこいつのように人間に近い外見の奴が多いし、誰も現物を見たことないので違うとは言い切れない。
「てことはだ。俺の体はそのままで、お前の魂が俺の体に宿っているってことなのか?」
<だから、そういっているであろう。俺様がこちらの世界に飛ばされた際、魂だけでは霧散してしまうため、新たなる体を探すため検索の魔法をかけたのだ>
検索の魔法?
また怪しげな……
<怪しいとは失礼な。検索の魔法は世の理に触れる大魔法の一つだぞ。検索対象は新しい死体、条件は孤独なやつだ。誰にも相手にされず、ひっそりとゴミ虫のように生きている寂しい奴の死体があれば、俺様が貰ってしまっても誰も文句は言うまい!>
そんな条件探して俺が選出されたってわけか……
泣いてもいいだろうか?
というか、俺に良くしてくれている店長夫婦に謝りやがれ!
<だが、どうやらお前は仮死状態だったらしい。気が付いたら俺様のほうが、お前の魂に吸収されていたのだ>
魔王の少女、魔王少女か……名前がないと不便だな。
「なあ、前にも聞いたかもしれないが、名前は何て言うんだ?」
<魔王ミリーヒルクライムだ>
「じゃあ、呼びやすくミリーってことで決定な?」
<構わんぞ。ってか、お前順応早いな>
人より魂が1個多いってくらいたいしたことじゃない。
ただ、魔王だし何ができるか確認しとく必要はあるかもな。
とりあえず、今は生きていたことと、魔王少女ミリーとの共同生活を楽しむとしよう。