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吹き上げる風と大発明家

少し戦闘パートに話数をさきすぎな・・・いや、大丈夫かな?



「では、これより三試合を行います、始め!」

気づけば三回戦が始まっていた。相手はちんまりとした体格で白い白衣を羽織ったいわゆる理科系の男だ。

怪しげな風貌をこれでもかと怪しくしているのは、男が両手に持っているフラスコのような瓶だ。その中には紫色の液体が入っており、あまり不用意に近づき過ぎると危険だ、と本能が告げる。


「キヒヒ、いきますよお」

不気味な笑い声をあげ、両手に持っている瓶を男は周囲に撒き散らした。

すると毒々しい色の煙があがり、男を完全に覆い尽くす。


「戦い方からして、魔工技師科か」

「キヒヒ、正解ですよ。魔工技師といえば戦闘に不向きと思われがちですが、私たちが作る道具は凶悪な武器にもなるのですよ・・・例えばこんなふうに、ねっ!」

声が少しくぐもっている、あの煙を自分で吸わないようにマスクでもつけているのか。


理科系の男が煙の中から何かを投げつけてきた。まるでビーカーのような筒状の容器だ。

ビーカーが地面に落ちた瞬間、パリーンと割れ、中から気体が湧き出る。


・・・え?


「こ、これは、精霊!?」

気体は収束し、人型をつくりだす。自我を持ったように俺を睨みつけ、不遜に腕を組んでいる。その姿はまるで風の大男だ。


「そうですよ、私の称号は「風の科学者」、精霊も使役できる大発明家です」

なんじゃそりゃ、本当に精霊がこんなやつになついているのか。人は見かけによらないものだな。


くだらないことを考えていると、風の精霊は俺の胴体ほどもある腕を振り上げ、勢いよく俺めがけて振り下ろしてきた。

眼前に迫ってくる拳は、風のような速さで避けることもかなわない。


とっさに俺はワープをつかい、2メートルほど横へ移動しその攻撃をかわした・・・のだが。

風の精霊が放った拳からはすさまじい風が巻き起こり、俺の体は闘技場の天井付近にまで舞い上がった。


やばい!このままでは地面に落下して大ダメージだ、つーか死んでしまう。

俺はワープし、その身を地面に預けることで落下を防いだ。


「キヒヒ、面白い魔法を使いますねえ。ですが、どんな魔法を使おうとも、誰も私に傷を負わせることなんてできませんよ」

おそらく、あの男にまとわりついている毒々しい煙に何かあるのだろう。はなからあんなものに近づく気なんてないが。


「距離をとって、離れて攻撃してくる魔術師には風の精霊の圧倒的な一撃を。私に近づいて直接私を攻撃しようとしてくる者には、この麻痺薬を調合して作った魔痺雲が襲いかかるシステムです」


なるほど、風の精霊で魔法を放つプロセスを妨害してくるのか。魔法とは主に魔力を練る、詠唱をするという過程が存在し途中で放棄すれば魔力は霧散し空気中に消えてしまう。


さらに剣士などの即効で男本体を狙ってくる者に対しては麻痺薬で行動を封じる、というわけか。霧状のとても細かい粒子の群れである魔痺雲は、口を塞いでいたとしても皮膚から容易に神経に回るだろう。

自分に麻痺薬が回るのを防ぐためのマスク、そして羽織っていた白衣。おそらくあれらも魔道具だ。


かなり厄介だな。


だが、俺の空間魔法は詠唱も短く、魔力を練るのに全く時間がかからない。現にあの豪腕を避けきることができたのだ、打開策はあるだろう。


しかし、問題もあった。二回戦を消化したこの訓練場内は、かなり閑散としている。多くの人数が午前中の試合で負け、今この会場で試合を行っている人数はかなり少なくなっている。


そのため、一つの試合ごとに大きくスペースをとっており、俺が二回戦で使った、他人の魔法を自分の攻撃手段として使うことができないのである。


学校で魔法を本格的に勉強して一年ほどだ。いくら専用魔法とは言え、まだわずかしか空間魔法を操りきれていない。近くにある物体を転移させることはできるが、ある程度距離がある物体の移動はまだ無理なのである。


「とりあえず、さっきからブンブンとうるさいこの扇風機精霊からどうにかするか」

精霊が腕をものすごい速度でふるい、その度に巻き上がる突風を回避し、クロハは風の精霊に接近する。


「忍者の真似事で練習した技、完成にはまだほど遠いが、ありがたく受け取れってくれよ」

そう言うと俺は腰に忍ばせておいた小刀を手に持ち、技名を叫ぶ!

くらえ

「次元斬!!!」

その小刀はを風の精霊を真っ二つに切り分けた。

瞬間、風の精霊は体の裂け目から魔力を失っていき倒れた。使役者によって得た、世界に直接干渉できる体を維持できなくなった精霊は空中の魔力の流れへと還っていった。


「ば、ばかな。精霊を切っただと」

そんなこと、普通はありえないことだ。普段は空中の魔力の中に身を潜ませ、顕現させられた時のみ実体を有す精霊は、ある程度のダメージならば空中の魔力で回復する。

しかし、目の前の小刀を持った未知の魔法を使う男は、精霊の耐久力をもろともせず一撃で叩きってしまったのだ。


「驚いたか?まあ、正確に言えば”切った”のではなく”切り飛ばした”んだがな」


理科系の男は恐怖でふるふると震える。だが、まだ負けたわけではないと虚勢のような声をあげる

「さっきから見ていたが、きみはどうやら攻撃魔法を使えないようだね!それではこの煙の前では無力としか言い様がない。早く降参することだな!」


俺はそんな言葉は無視し、雲の前まで歩き、転移の魔法を唱えた。

もちろん俺自身がこの煙の中に入ることはできない。また、エネルギーの塊であり、自然界と同様に魔力を生成することができる人間を転移させることは今の俺ではできない。ワープできる例外は自分自身だけだ。




魔法を唱え終わると、俺の右手にはガスマスクがポスッと落ちてくる。

そして、雲の中から「ぐああああ」と叫び声が聞こえてきた。


数秒すると魔力でコントロールされていた煙が主を失い、霧散する。

煙の中心部であったところには理科系の男が、ひくひくと痙攣しながら倒れていた。


「勝者、クロハ=ロポア!」

試験監督の先生は、大きく勝利宣言を口にし、同時に俺の方を鋭い眼差しで睨む。


「まあ、そうだよな。ついこの間まで魔法かほぼつかえないーって先生たちの頭を悩ませてた問題児が、原理解析不能の魔法を使ってるんだもんな」

ポリポリと頬をかき、適当にごまかせるもんでもないな、と俺は後で先生たちの詰問を予想し、少し陰鬱とした気持ちで会場をあとにした。

魔痺雲の説明を補填。雲と皮膚の接触による影響も加えました。

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