落ちこぼれの真の価値
この学校の入学が12歳で卒業が15歳です。四話の時に十八歳と記述していましたが、訂正しました。度重なる改訂、申し訳ないです。温かい目で見てやってください
二年生のこの時期は忙しい。定期テストから始まり精霊の選択、そして年に一度の大行事であるクリスタンドとの交流戦がある。
交流戦は五人の団体戦で行われ、二年生の部と三年生の部がそれぞれある。一年生は学校に入学し、訓練を受けてまもなく未熟なことから応援のみとなる。
交流戦に出場できる人数は学年毎に五人と決まっているので、出場する生徒を選出しなければならない。そのための校内予選が明日に迫っていた。
俺も明日の校内予選のための準備をする。仮とはいえ忍者になったのだ。納得はしていないが遠い昔に憧れていたものになれたので嫌ではなかった。それゆえ、それらしい動きを身につけるための特訓を行っている。前世の頃の忍者に対するイメージと魔力の補助により身体的動きはなかなか様になってきた。いくつか空間魔法を使った忍者っぽい技も考えていた。
意外にこの称号のこと気に入ってるのかもな。
「いよいよ明日か・・・初戦負けだけはしないように頑張ろう」
ベットの中に入り強く目を閉じ、興奮し寝付けない気持ちを抑える。
気がつけば朝になっていた。
普段実技の授業が行われる訓練場は、校内予選に参加する生徒でごったがえしていた。参加は任意であるため、俺は参加の手続きをし、二階へと移動し席に着く。
訓練場の二階部分は場内を見渡せるようになっている。
席に付くと隣の席ににチャーがやってきた。
「おっす、調子はどうよ」
「ぼちぼちかな、順決勝までいければ万々歳だ」
この予選は五回戦まであり、二日に分けて行われる。途中怪我をすれば回復魔法を使える教師陣が駆けつけ治療を行ってくれるが、その時点で失格となる。
「こんにちは、このあいだはすみませんでした」
チャーとのんきに喋っていると、そこに現れたのは橋の上で暴走していた沼のヌシだった。
「わはははは、貴様らも参加するのかー、いいぞー」
その後ろには大男、ガンリがいた。
先日はあまり気にする余裕もなかったが、こいつ、周りの生徒より体格がふた回りくらい大きい。本当に俺らと同じ十三歳なのか、と疑問になるほどの巨躯だ。
「立ち話もなんだ、隣に座るか?」
「あ、ありがとう。それじゃ」
と言って二人は俺の隣に座る。
自分の順番がくるまで少し話をしたが、二人共、戦士科の生徒らしい。クラスどころか専攻も違ったので今まで顔を合わすことがなかったのか。
そのまま四人で世間話をしていると、一回戦開始の時間になる。
俺たちは揃って一階に行き、先生の支持でそれぞれの指定の場所につく。
参加生徒の数はかなり多いが、訓練場は広大であり、いくつかの組に分ければその広さを活かし、一対一の戦闘が可能である。
位置についた俺が目にしたのは、脂ぎった顔でニヤニヤと笑うクソ野郎だった。
「なんだ、一回戦の相手はクズハか、せいぜい死なないように気をつけたまえよ」
うぜえ、こいつは同じクラスの貴族の息子「ビーニョ=マッタギカ」
ことあるごとに落ちこぼれである俺に嫌味を言ってくるクソ野郎である。普段の立ち振る舞いも、権力を傘に着た横暴なものだ。
こいつだけは本気で潰す、やってやんよ。
「では、校内予選第一試合目、始め!」
審判の先生の合図があがる。
瞬間、ビーニョは詠唱を始める。太って起動力に欠けるビーニョはクロハが近づく前に勝負を決める気だろう。
火の玉が三つ現れ、クロハに襲いかかる。この歳で炎魔法の初級である火球を三つも操れるというのは、相当なものだ。性格には難があるが、実力は魔術師科の中でもトップに近い。
三つの火の玉はクロハの逃げ場をなくす、ビーニョは早くも勝ちを確信し、油ギッシュな笑みをニッタニタ浮かべた。
しかし、次の瞬間
「あめぇよ」
声がしたのは自分のすぐ後ろ、慌てて振り向こうとしたビーニョだったが、クロハの手刀によって意識を狩りとられた。
審判の先生も唖然としていた・・・が、しかしすぐに我に返り
「しょ、勝者、クロハ=ロポア!」
まさに瞬殺だった、その組では一番の早さで試合は終わり、クロハは二階の先ほど座っていた席に戻る。
少しするとチャーとスズ、さらに少し遅れてガンリがやってきた。
その早さからどうやら三人とも一回戦を圧勝したようだ。
「すごいです、あのビーニョを倒すなんて」
戦士科であるスズも、魔術師科でも上位の才を持っているビーニョのことは知っていたようだ。
「本当の実力は試験の結果だけじゃわかんないってことだよ」
そう、魔術師科である俺らに模擬戦闘はほとんどなく、実技試験は基本の四大魔法を操ることで評価される。
午前中の試合はもう一試合ある、各々の一回戦について喋っているとすぐに二回戦の開始時間になる。
二回戦も一回戦と同じ瞬殺だった。
ゴブリン戦の時に使った、空間魔法足払いをつかい対戦相手を倒れさせ、隣で対戦していた生徒の炎魔法を空間魔法で奪い、倒れている対戦相手にぶつけた。
そこで試合終了となった。またも審判の先生は唖然としていた。
昼休憩となり、無事勝利を手にした、俺、チャー、スズ、ガンリは食堂へ向かう。
「わはははは、雑魚過ぎて相手にならんぞ、早く貴様らと戦いたいものだ」
「ガンちゃん、あんまり相手をあなどっていると、痛い目見るよ」
「ふむ、沼のヌシ殿のありがたいお言葉、しかと受け取ったぞ」
「な、また僕をばかにして。八つ裂きにするよ!」
こいつらが一緒だと賑やかでいいものだ。
俺らは仲良くミントチャーハンを注文し、食事をしながら他愛のない話をする。
「あれ?そういえばガンリってなんの称号受け取ったの?」
沼のヌシの話からガンリの称号も気になったのだろう、チャーが問いかける。
「ふむ、わしの称号は騎士だ」
騎士とは、戦士科の極ひと握りの者たちが成れるエリート中のエリートだ。剣に盾、搭乗用の馬や魔物を完璧に操れるようになる。
まさかこんな男がそんな立派な称号をもらっているとは。
「貴様らの称号はなんだ?魔術師か、精霊使いか?」
「俺らは魔術師科の落ちこぼれだぞ、お前みたいなエリートの証みたいな称号じゃない」
「わはははは、冗談がうまいな。貴様らが落ちこぼれなわけがあるまい」
「いやマジだって。クロハが言ったとおり俺らは落ちこぼれだ。俺の称号はシーフで、クロハは忍者だぞ」
「なにっ、シーフに忍者?それではまるで戦士科の生徒みたいではないか」
ガンリは大笑いを浮かべ、面白い奴らだな、と俺らのことを根掘り葉掘り聞いてくる。
まったく、気がいいやつだ。
スズとの出会いも、村から一人で来て、あまりクラスに馴染んでいなかったスズに一方的に遠慮なしにガンリが話しかけてきたのがきっかけらしい。
楽しかった昼の休息も終わり、いよいよ午後から三回戦が始まる。