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称号を得し者たち

俺とチャーは俯きながら神殿からの学校の寮への帰路を歩んでいた。


「おい、クロハ、元気出せよ。かっこいいじゃねえか忍者なんてよ」

「なんつーか、微妙だわ。極度の憧れも精霊の選択の候補になるってきいてたけど、まさか日本での子供の頃まで反映されるとは思わなんだ」

「はっはっは、俺のも前世の日本人の影響がまんまでてるぞ」

チャーが貰った仮称号は「シーフ」だった。前世で漫画の怪盗に憧れていたらしい。盗賊=怪盗なのか?と疑問は出るが、心当たりはそれくらいしかないらしいから、そうなのだろう。



神殿と学校の中間のところにある橋に差し掛かったところで、うずくまっている少女とその少女の頭を撫でるガタイのよい男が目に入った。

制服を着ていることから、どうやら学校の生徒、しかも店どころか何もないこの辺にいたことから、俺たちと同じ精霊の選択を受けて寮へ帰る途中の二年生だとうかがえる。


少し気まずい雰囲気を感じ、静かに通り過ぎようとしたその時、うずくまっていた少女は男にすがるような目を向け、叫んだ

「なんで、なんで僕はあんなに頑張ったのに、こんなことになっちゃったの。こんなのひどいよ・・・!」

男はふむふむと頷き、少女の泣きそうな顔とはまるで正反対の晴れ渡るような笑みで答えた。

「わはははは、そんなに落ち込むことはない、貴様にぴったりの称号ではないかー」


「ぶちっ」何かが切れる音がした。


「きみねえ、いい加減にしてよ!あったまきたよ、二度とたてないようにしてやる」

そういうと少女は拳を握り男に殴りかかった。だが、拳が繰り出される速度が尋常じゃない、俺の目では全く追えない。一体何発拳を繰り出したのだろうか、見当もつかないほど高速で放たれた拳を男は避けもせずに、なんとその分厚い胸板で全て受けとめていた。


そんな無茶苦茶なやりとりを唖然と見ていた俺とチャーに男は話しかけてきた。殴られたままで。


「おお、丁度いい、貴様らもこやつになんとや言ってくれんか」

なんとかって・・・何をだよ・・


その声に少女も俺らの存在に気づき、拳を止め、こちらを泣きそうな顔で見てくる。

ぷるぷると震えながら、少女は己の不幸を語りだした。

「じつは・・・」


彼女の名前は「スズ=トコヨノ」


スズは樹海で豊富な森の資源を、糧としてほそぼそと暮らしている村の出身らしい。

スズには幼い頃から夢があった。姉のような世界に名を轟かせる、格闘家になるという夢だ。姉というが近所に住む八つ年上の他人らしい。

姉はスズが幼い頃から格闘技を教えてくれた。魔物という危険が多い樹海で自分を守れる力を与えてくれたのだという。


スズの姉であり武術の先生である人はスズが十二歳になってすぐに村を出た。己をさらに高みに立たせる修業のために。

姉は村を出る際にスズに言った。

「より己を鍛えたいならば学校へ行きなさい、私があなたの歳の頃はまだ金銭を稼ぐ手段がなく、諦めてしまった。今でも後悔はしている」


たしかに、ゲント・シーザーへ入学するためにはそれなりの金がかかる。それにはもちろん理由がある、ただ授業を受けるためだけの施設ではないからだ。

理由の一つとして光の間を優先的に利用できるというものがある。精霊を顕現させるための魔法陣はかなりの魔力を消費する。そのため神殿には精霊の顕現の魔法を修めたものが十数人待機している。この精霊を扱える者というのが非常に希少な存在であり、簡単に増員することはできない。なぜなら精霊と心を通わす天性の才と清い心を持つものだけが、精霊を扱う称号を手にできるからである。


彼らが稀少であるのはどこの国も同じであり、大国であるグランスマートも例外ではない。

つまり、光の間を使用できる者はかなり制限されており、将来国に貢献できる可能性のある学校の生徒が優先されるのは当然である。


「お姉ちゃんは僕に素質があると言ってくれた。そして僕の両親を説得して、闘技大会の賞金で僕をこの学校に入れてくれたんだ」


「落ち込んでいた理由はその姉の期待に応えられなかったことか」

チャーは何気なしにスズに聞いた、そうするとスズはまた眉をひそめ泣きそうになった。だが、堪えその問いに答える。


「僕はお姉ちゃんのような格闘家になりたかった、だけど・・・なんのこの称号は!」

一転して怒りをあらわにした。そんなにひどい称号を貰ったのか?俺らもそこそこひどいが。


そ取り乱したスズに代わり、隣でガシガシとスズの頭を撫でる大男「ガンリ=ガンドル」が詳細を説明する。

「スズの称号は「沼のヌシ」というものだ」

ガンリは珍妙な称号名を口にした後に少し笑う。鬼畜か。

「スズの村の近くには瘴気の沼と呼ばれる、人を近づけさせない沼があるそうだ」


ある日スズはその沼の近くに、怪我をしたナマズのような蛙のようなトカゲのような生き物を見つけた。幼かったスズは両親の言いつけも守らずに、沼に近づき怪我の治療をした。不思議なことにスズは瘴気の影響を受けなかった。


「わはははは、どうやらそいつが瘴気の発生源である沼のヌシであったようでな。スズに感謝をし、その時に称号を授けたということらしい」

なるほど、スズが瘴気を浴びなかったのは沼のヌシが怪我を負って弱っていたからか。

そして、沼のヌシというやつは幻獣の一種だろう。魔物と違い、知性が有り無闇に人を襲うことはない。一部の地域では土地神として崇拝されている。


チャーが俺の耳元に口を寄せ、ぼそっと呟く

「なあ、クロハ。スズって子も俺らと同じで、精霊の選択をする前に高位のものから称号を受け取っていたんだろうな」

「ああ、そうらしい。話を聞く限り、ありがた迷惑だったわけか」


俺はスズに目を向け、同情するように声をかける。

「まあ、なんだ。ご愁傷様だ」

「わははははは、いいぞー、ご愁傷様だそうだ。称号なんぞ気にせず、武の道を極めるのだな」


そして、俺らはいたたまれない雰囲気から逃げるように、その場を去った。

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