光の精霊とお告げ
2年の最初の実技テストから一週間経過した。
このグランスマート王国には春夏秋冬がある。しかしどの季節も日本に比べて少し寒い。
今は春が終わり、少し暑くなってきたところだ。
「あなたたち、自分の将来についてどう考えてますの?」
落ちこぼれの俺とチャーにカリンが呆れたように聞いてくる。
2年になって同じクラスになってから、カリンはなんだかんだと俺らに絡んでくる。優等生ゆえに、落ちこぼれの俺らのことを心配してくれているのだろう。カリンの言葉はキツイが、俺らのことを思ってくれてのものだと分かっているので、邪見にするようなことはしない。
少し思案しながら俺とチャーは答えた。
「んー、来週、神殿に行ってから決めるよ」
「神殿か。精霊の選択ってやつだったな」
この世界の神殿ではその人の内なる資質を見極め、道しるべとして称号を与える。しかも称号を与えるのは光の精霊だ。希望の象徴であり、人の輝きを形にすることができる彼らが与えるは称号。それはただの名ではなく、人の可能性を大幅に上昇させる。
剣を修めてきた者、また剣の道を志したいと強く願っている者は剣士の称号を与えられる。そして腕力や俊敏性の極所的上昇、剣を扱う特技などを習得できる。しかし光の精霊が与えるのは称号という可能性のみだ。称号を貰ったからといって即座に変化が起こるわけではない。可能性を信じ成長しようとする者にのみ能力の上昇と特技の習得を成すことができる。
「まあ、それでもいいですわね。ですが、覚えておいてください。職業の選択を迫られてくるこの時期だから
こそ、私たちは精霊の選択をうけるのですわ。それまでにも少しは将来のことを考えておいてください!」
再来年には俺たち二年生は学校を卒業して職に着かなければならない。だからこそ、二年生は毎年この時期になると神殿におもむき、己の進路に大きく影響する称号を得るために、精霊の選択をうけるのだ。
早くデレにならないかなー、とのんきなことを考え、俺たちから去るカリンの後ろ姿を眺めた・・・。
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「神殿って外で見るより中って普通だな」
チャーは失礼なことを口走る。
「神殿のくせに、いるのが神じゃなくて精霊なんだから、名前負けもいいとこだしね」
つい俺も毒を吐く。ガッカリ度が高かった神殿が悪い。
俺たちは神殿の控え室にいる。光の間にて称号を与えてくれるのを待っているのだ。精霊の選択は一人ずつしかうけられないため、すでに精霊の選択を終え、称号を自慢している生徒の声もちらほらと聞こえる。
「やったー、休みを潰して特訓した甲斐があった。釣り人の称号とったどー!」
という声や
「魔術師か、これで再来年から国所属の安定した生活ができるわね」
という声があがる。
ちなみに魔術師は、魔術師科の優秀な者が多く選ばれる。さらに戦闘だけでなく魔術を活かした土地開発など他の称号に比べ有用性は非常に高い。ゆえに国は高待遇をエサにより多くの魔術師を国に所属させようとしている。
「クロハ=ロポア、順番です。光の間に来なさい」
クラス担任の先生に呼ばれる。
光の間はきらびやかな宝石や、魔力を込められた精霊の像が置いてあった。窓もなく、光源といえるものは何一つないのに、世界が眩しくぼんやりして見えた。
そんな部屋の真ん中には大きな魔法陣がある。
その魔法陣に近づくと・・・陣が輝き・・・消えた?
魔法陣からは何の反応もない。困り果ててうつむいていると、もう一度陣が輝き始めた。しかも先ほどとは比べ物にならない光量だ。
精霊が姿を現した。
しかし、なんと出てきたのはただの精霊ではなく光を統括するもの、光の大精霊だった。
「ほっほっほ。あなた様は私の正体をご存知のようですな。さすがは神の後継者殿」
「世界に役割がある大精霊をただの精霊と間違えたりはしないよ」
空間の神や、死神に近い感覚をこの老人に感じたのだ。
「ほっほっほ。実はただの精霊がこの場所の任についておるのじゃが、後継者殿の資質を見て青い顔して泣きついてきましてな」
それでただの精霊ではなく、大精霊が来てくれたのか。
「それにしましても、後継者どの・・・」
光の大精霊は白く輝く長いヒゲを弄び、眉をひそめた。
「「空間の神の後継者」という、神に与えられた称号をお持ちの後継者殿がなんのためにこの場所へこられたのですかな」
あぁ、なるほど。それって称号だったわけね。
「学校行事でさ、称号を貰いに来たんだよ。今世をわたるためにも」
ふむ・・・とシワシワの顔にさらに皺を作り、思案するように目を閉じた。
そして
「では、見せかけの称号を献上しますかのう」
「あー、やっぱり魔術師とかになるのは無理なんだな」
せっかく魔法がある世界に来たのだからいろいろな魔法を扱ってみたい、と思っていたが、やはり諦めなければならないようだ
「申し訳ないのう。だが大丈夫じゃよ、空間の魔法はこの世で空間殿と後継者殿しか使えぬ専用魔術、世界で比肩するものがほぼない超絶的なものじゃ」
ふむ、神と俺だけか。じゃあ時間魔術もチャー専用魔術になるのか。
仕方ない、じゃあ仮でいいから称号貰うか。
学校の授業で習ったのだが、この世界には他人の称号を確認する魔法があるらしい。就職の面接で、取得免許(|称号)の偽装を見破ったりする時に脚光を浴びる魔法だ。それにより神の継承者なんぞと知られたら大パニックになるだろう。
「一応聞いとくけど、やっぱ仮じゃあ魔法とか特技とか習得できないよね」
「魔法も特技も能力の向上も得ることはできんのう。さて、それでは仮称号を献上しますぞ、継承者殿」
光の大精霊はそういうと俺の体に光の粒子を纏わせる。視界が光で覆われ、幻想的な白が現れる。そして光が霧散した。
俺は自分に暖かいものが宿るのを感じた。例え他人と違えど、花開くことはないかもしれないけれど、これが俺の可能性だということがはっきりわかった。
「で、俺の称号って何?」
・・・
「にんじゃ・・・じゃよ」