記憶の中の神様
僕は12歳の夏休みに神様を見た。
近所のおっさんが趣味で建てた鏡の迷路。
迷路と言っても小綺麗なログハウスの中に鏡の壁が適当に置いてありおっさんの居住区であるゴールに進む方向が分かりにくいというだけだ。
田舎でなんの娯楽もない僕ら子供たちのいつもの遊び場だった。
その日も学校が終わりみんなで集まっていた。
「こ、これがケロベロス!」
美味しそうな皿の上のししゃもの首部分に爪楊枝を刺し食い終わったししゃもの頭をくっつける、反対側にもくっつける。
ガキの遊びにしてもアホな遊びだ。食べ物で遊んではダメである。
ケロベロスを生み出したアホの健介はおっさんにゲンコツされていた。
僕はそんな光景を横目にうっとりと鏡を見つめる。いつも感じる不思議な感覚。
引き込まれそうになる、だけど何かが出てきそうな不思議な感覚。
鏡は毎日見ても飽きないなぁ。
端から見たら危ない子だ。しかしそんな子だからこそ気づいたのだ。
鏡の様子がいつもと違うことに・・・。
あれ・・・?なんか歪んでる?
おかしいな自分の姿が出っ張ってきている?なにごと!?
鏡の中の自分がゆっくりと自分に近づいてきている。
呆然と立ち尽くしていると鏡から出てきた自分が困ったような顔をして話しかけてくる。
友達はみんなおじさんと戯れているかログハウスの周りで遊んでいる。
ここには僕しかいない・・・
「あれ?どこだここ?」
少年はハッとし、もう一人の自分に問いかける。
「きみ、だれ?」
「驚かせてすまんね。ここはカマドウマかい?」
え?そんなとこ知らない、どこだ・・・東京とかにあるのか?
違うと言うとすぐに困った顔が驚きに変わり、納得するようにつぶやく。
「あ、ここ地球か・・・!あ~、女神の鏡なんてつかって移動するんじゃなかった、飛びすぎた」
言っていることは意味がわからなかったが子供の好奇心の前には些細なことだった。
僕は彼に興味津々でいろいろ尋ねた。
「僕の質問に答えてよ!きみはいったい誰なの!?」
彼はプッと吹き出し笑った。そして微笑みを浮かべ答えた。
「俺は神様さ。遠い世界の・・・ね。自由にいろいろなところに行ける、空間を操る神だよ」
「すごいっ!僕も鏡の向こうに行きたい!いろいろなところに行ってみたい!」
「ふふっ、面白いやつだな!気に入った!約束してろう、いつかお前を鏡の向こうに連れて行ってやる」
それが・・・
周りに人はいない・・・。
そう、それが・・・俺の記憶の中にのみ存在する、神様との出会いであった。