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オモワヌもの  作者: トキ
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ことのはじまり

別視点。暗めです。


ライガルは走っていた。どんなに馬が悲鳴の声を上げようと気にならなかった。


ライガルがいた迷宮図書館から城の広場までは遠い。


この先に起こっているだろう惨劇になんとか間に合うように願いながら――――。





ライガルは大陸の西端にあるガタニア王国という小さな国の第3王子として生まれた。


ガタニア王国は魔術を商いとし成り立っている国だ。

だが魔力を使いこなせる人間はあまりいなかったため強い魔力を持って産まれたライガルは周りの期待が強かった。


人は遺伝によって髪の色や瞳の色は受け継がれない。自分の適性した魔力が身体―――髪や瞳に宿る。ライガルは風と植物を操ることを得意としていたため蒼翠の髪と琥珀色の瞳を持っていた。



もともとガタニアは緩やかな国風を持つ国で、国の始まりも魔力を使いこなせない人が多いなら使いこなせる様に魔道具作ればいいと始めた者たちが代表をつくり街から国に変えたものだった。

だからだろう。王子だといってもそこまで民と壁があるわけでもなく、ライガルも国の学校に通いながら民の役にたてる道具をつくり国を支えるという志をもち、また周囲の期待にこたえながら逞しく育っていった。


ライガルが10歳を過ぎたころから少しずつ国は変わっていった。

十数年前までは遠くの国としか認識していなかったレトゥール帝国が着々と国土を広げ、数年ですぐ隣の国まで侵略してしまったから。


ガタニアにはレトゥール帝国に対抗する戦力はない。属国か滅びのふたつしかなかった。しかも今から属国になるとしてもレトゥール帝国が受け入れてくれるかは分からなかった。隣国が属国になると意志を示していたのに滅びたからだ。この国も隣国の二の舞をふむかもしれない。


隣国の滅びは恐ろしいものだった。ほとんどの町が焼かれ、残された人間は奴隷にされたのだ。隣で見ていることしかできなかったガタニア王国は国民に大きな不安と恐怖をあたえた。


隣国と友好関係だった我が国にも同じ惨劇が起こるのかもしれない―――


しかし恐怖と混乱が国を襲うなかレトゥール帝国は何もガタニア王国に示さなかった。

こちらから使者を送っても使者は帰ってこなかった。


ライガルが12歳になったころには国は既に狂い始めていた。

隣国が滅びたため、魔道具で収入を得ていた国は収入源がなくなったため財政が圧迫した。


他の国はレトゥール帝国を恐れ、ガタニアと関係きった。

街は昔の活気はなくなり、残ったのは職をなくして彷徨う浮浪者たちだった。

城では王が病に臥せ、貴族たちが資金を盗み帝国に亡命をはかる。

ライガルは賢く周りより抜きんでた才を持っていたが、所詮子供、何もすることができずただ傾いていく国を見ていることしかできなかった。




レトゥール帝国の皇帝が白の使者を探している。事の発端はこの噂からだった。




白の使者とは百年に一人の割合で産まれてくる異能者だ。その異能の力をつかって国を救ったという実記が多いため他国では聖人とあがめるところもあるらしい。

見た目は白の使者と言われる由来となる純白の髪に金目。


なぜレトゥール帝国の皇帝がいるかどうかも分からない白の使者を探しているのかはわからない。


ただその噂を聞いた第一王子の言葉で今後のガタニアの未来が決まった。


「白の使者を探しだし、帝国に献上すればどうにかこの国を救えるかもしれない」


ライガルは驚いた。父にかわりこの混乱のなか政治を指示している第一王子が確証を得ていない噂を信じ、いるかどうかも分からない白の使者を探すといったのだ。

「兄上!おやめ下さい!それは噂でしかない!国を救えるかどうかわからない」

「だまれ!!子供のお前に何がわかる!もうこれしかないのだ。……我が国は魔術に特化した国だ。探すまでもない。召喚すればいいのだ」

「物を召喚するわけではないのですよ!人を召喚するのにどれほどの人間を犠牲にするつもりですか!」

ライガルは第一王子をみた。辛労の溜まった第一王子の目は既に理性の光がなかった。

周りの者も第一王子に賛同した。

他に救う手立てがないと口ぐちにそう述べる。

ライガルは唇を噛んだ。第一王子の意見をかえる手立てがない。父は病にふせり、第二王子は帝国の使者と選ばれたが帰ってくることはなかった。

ここでもライガルは黙って見ていることしかできなかったのだ。



時をおき、召喚の準備は速やかに整えられた。

召喚の条件に当てはめるためならと街中央にある迷宮図書館から古文書を解析し異界からでも対象者を無差別に召喚できるようにした。

召喚には膨大な魔力をつかう。第一王子が命じ城にいる魔術師十数人が国を救うためとわが身を差し出した。

ライガルには分からなかった。どうして皆、盲目的に動いているのかと。

成功するなんてわからない。むしろ失敗する確率の方が高い。

それでも止めることができないと動く。


召喚当日、ライガルはその召喚の儀に立ち会うことができなかった。

そこで邪魔されては困るといったところだろう。


結果は失敗となった。

召喚されたものは黒の使者だった。黒の使者とはこの世界では必ず持っているはずの魔力をもたない人間に対する別称だ。

召喚された瞬間ライガルにも聞こえるほどの絶望の声が城に響き渡った。

駆け付けたライガルが見たものは狂ったように笑う第一王子と干からびた魔術師たち、それに泣き叫ぶ家族、駆け付けた際に自分の横を兵士に引き摺られながら通った傷だらけの黒髪の少女だった。


明日第一王子は黒髪の少女を処刑するという。

召喚の被害者である少女をすべての元凶とみなし、元凶である黒の使者を処刑しその元を断ち切るとわらう兄はあの聡明でやさしかった昔の兄の面影は既にいなかった。


ライガルは黒髪の少女を助けるべく牢に忍び込むことにきめた。

少女は牢の中で瞳を閉じたままピクリとも動くことなく床に横たわっていた。ライガルは迷わず少女に進みより傷の確認をする。


傷の応急措置をしている間も少女は全く動くことはなかった。ライガルはどうすればこの少女を助けることができるか必死に考える。気を失った身体は重い。12歳になったライガルではとても城の外まで誰にも気ずかれることなく運ぶことは困難だ。

ライガルが少女の顔を見た―――初めて見る黒髪だ。きっと瞳も黒色なのだろう。やはり魔力がないため傷の治りも遅――――魔力がない?ライガルはかすかだが少女に魔力を感じている。

この少女は魔力がないわけではない―――ならなぜ黒髪なのか?

そもそも異界の者は身体の仕組みが違うのではないか?

召喚は白の使者を呼ぶための条件しか入っていない。ならば少女には白の使者としての力があるのではないか?


白の使者の可能性があるならば少女を救える!


ライガルに希望が見えた。

迷宮図書館にいき、古文書に異界の人間の体の仕組みの違いを証明すればいい。

処刑が取りやめになって少女の傷を治したら元に世界に返すことはできなくてもここよりも安全な国に避難させることができる。少女がこの国のために犠牲になることはない。


ライガルは牢に少女を残すことにきめ、少女の顔をみながら誓う。

「まってて、僕が必ず証明して君を助けるから」


牢を出た後すぐに迷宮図書館に赴く。

迷宮図書館とは国ができる前の街だった時代から街の中央に存在していた。

古文書は禁書になるため閲覧を禁止されていたが王族のライガルには関係なかった。幼いころからよく通っていた図書館だ。禁書の場所も把握している。後は証明できる文書を探しだすだけだ。




「――――あった」


時間を有したが古文書から異界について書かれてあった。魔力と身体の色は関係ないと―――。

これを第一王子にみせたら処刑は取りやめになるだろう。


まだ処刑の時間には時間がある。これなら間に合う。

ライガルは意気揚々と馬に乗りこむ。

はやくはやく、これで少女を救うことができる。

ずっと国を傾いていくのを見ることしかできなかったがようやく自分で何かを動かすことができた。

少女を救うことで何かが変わる気がする。みんなの目もさめるかもしれない。



馬を走らせながら、ライガルは街の様子がおかしいことに気がついた。

「人がいない?」

活気はなくなった街でも人気はかろうじてあった。とくにこの時間帯はましだったはずだ。なぜ人がいない?

城から警報の音が聞こえた。

「まさか……処刑をはやめたのか?」


全身に警報がなる。狂った兄が処刑の時間など守るはずがない。

自分の考えがあまかったのだ。


馬に鞭をうち、急がせる。魔術で風を起こしスピードを出させる。

「間に合って!間に合え!」


広場には大勢の人が集まっていた。黒の使者を殺せと叫びながらも次は自分たちが殺されるのだと怯える民たち。

ただ怒りの矛先がほしかっただけなのだ。民の眼は虚ろだった。


ライガルが広場に到着したときには少女は既に処刑台に固定されていた。


「やめろ!!やめろ!殺すな!!」

前に進みたいのに大勢の人たちで進むことができない。


ライガルは力を込めて叫んだ。


「っやめろ!!!」


殺せという声が大きくなる。ライガルからでも第一王子の口が動いたのが見えた。


少女はこちらには気が付いていない。きつく閉じていた瞳は開けられ、黒い瞳は濁った空を眺めている。

ギロチンの刃が落ちる。

「やっ―――――!!



ザクッ!


周りでは狂った歓声が聞こえる。


ライガルはただ立ち尽くすしかなかった。







その一カ月後、レトゥール帝国から侵略をうけ、ガタニア王国は滅びた。

王族、貴族が見殺しに遭うなか、蒼翠の髪と琥珀色の瞳を持った少年の姿はどこにもなかった。


次はまた主人公に戻ります

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