4人の乱入者
―――ガッシャーンッッ!!!
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「う???」
水が弾く音と器が壊れる音と―――人の叫び声?
お父さんらしき人の影がちょうど見えた瞬間に器の上を何かが通り過ぎたのが見えた。
しかしその何かを確認する前におじいちゃんの大きな手で庇われたため何が起こったのかさっぱり分からなかったがとりあえず私に危険はない。
おじいちゃん庇ってくれてありがとう!でも、手で目を隠さないで。足元しか見えません。何が起きたのか分かりません!
足元には先ほどまであった高そうな器が破片として散らばっているしララハイナという魔水も周りに飛び散って淡く光っていてとても悲惨な状態に……これはこれで幻想的で綺麗です。
思いのほか美しい光景に見とれている間にも光がどんどん薄くなり消えてしまった。
「サラ、大丈夫か?」
残念そうに水を眺めていた私におじいちゃんがようやく手を外してくれた。しかし何がおこったか確認できると正面を見るも見えたのはおじいちゃんの大きなお顔。ダンディーな眉毛を大きく下げている。本当に心配してくれているのが分かるから嬉しい。
「だぁいあぁ!<大丈夫だよ!>」
「そうか、そうか。よかった」
赤ちゃん言葉どうやら通じたらしい。
ようやくおじいちゃんの顔が外れて前が見える。って、煙で前見えないし!
でも、煙で見えないが何やら今回の騒音の原因らしき人達の声が聞こえてきた。
「あっぶね――!!それに重い!どけっトポ!」
「うぅっ。イタタタ!ご、ごめんダミヤ!でも失礼だな!僕は軽いでしょ!」
「繊細な私には重いんだよ!」
「はっどこが繊細なんだか。――ってテトラが潰れているよ!白目むいてるよ!」
「トポお前、後で覚えておけよ。それよりムーバ!!どけって!テトラが死んじまう!!大体何でてめぇは図体でけぇのに天井に一緒に来てんだよ!」
「……仲間外れはいやだ」
「そ、そんなことよりムーバ!早くどいてあげて!!テトラがやばい!」
「おお!すまん。テトラ」
「相変わらず、テトラは運がないよな」
「そういう星の下に生まれてるんでしょ」
煙がようやく消え見えてきたのは4つの姿。
私たちの事などまるで気が付いていない様に話しているその姿はなんとも特徴的な姿をしている。
まず一番目を引くのは大きな大きなトカゲさん。オレンジの鱗に闘牛のような角、そして私が乗れそうなほどの大きな手の平に大きな爪。たぶん竜人と呼ばれる種族だと思う。強そうな姿をしているけれど、今人間の女の子に責められている姿はなんだかのんびりしている。
トカゲさんを責めている女の子は肩までの金髪に燃えるような真っ赤な瞳をしている。見るからに気が強そうだ。そして声が大きい。この子は人間だ。
女の子の隣には気を失っている兎耳の男の人がいる。見るからに獣人っぽい。ひょろりとした体系にフードをかぶっていてそのフードから白い兎耳が飛び出ている。可愛いけれど、兎耳なら男の人より女の子が良かった……。
最後に気を失った兎耳の人を心配するように顔で頭をつつき次に鼻の穴に指を突っ込んでいる翼の生えた男の子。いや、女の子かもしれないけど心配しているんだよね?背が小さくて淡い桃色の翼に髪をしていて可愛らしいけれどなんか鼻に指を突っ込んでからニヤニヤしている姿はとても悪意を感じる。
そして皆同じような服装にお揃いの赤いバンダナを首に巻いていてとても仲が良さそうだ。
私が一人一人観察している間にも4人というより3人の会話は止まらずしかもまだ私たちに気が付いていないようだ。
そういえばお兄ちゃん達はどうしているかと思い周りを見渡してみたらお兄ちゃんはカルマドさんの隣で私と同じように騒ぎの4人を眺めている。なんだか呆然としている。カルマドさんは無表情だ。なんか恐い。けれど何も行動を起こさずただ控えているという感じだ。
そして次にお母さんを見てみれば俯いている。なんだか器のかけらや光っていた水をじーっと見つめているという感じだ。どうしたんだろ?セル君の爆発のときだって変わらずに、にこにことしていたのにじっと俯いている姿は珍しい。さっき何か怪我でもしたんだろうか?
お母さんが心配で近づいてほしくておじいちゃんを仰ぎ見て―――。
「ぎゃっ!」
おじいちゃんは声が出るほど恐ろしい顔をしていた。まさに鬼の顔。さっきまで現れていなかった角や牙が鋭く尖り、瞳は猫のように細い。私を驚かすための鬼の姿とは次元が違うほど恐い。自分に向けられたものではないのに怒気や殺気が肌で感じられる。
底冷えしそうな声が聞こえる。
「――――お前ら。何故ここにいる?」
その声にようやく気がついたように4人がびくっと肩を震わせこちらを振り向く。あれっ、兎耳の人目が覚めている。
「ふ、副長。あのこれは違うんです。ちょっと団長の姫さんを陰からこそっと見ようとしただけで別に賭けの対象として観察しようなんて思っていないです!!」
「そうだよっ!その後からガルガドの討伐に行こうと思ってたし!」
「ひぃっ!ちょっと副長!なんでまた俺の耳を鷲掴みしてんですか!」
「副長!副長!顔めっちゃ恐いですよ!!」
「ちょっ!あ!ライト~!!助けて!」
「ライト~!!」
おじいちゃんはソファの上に私をおろした後、2,3歩で彼らに近づき彼の兎耳を鷲掴みにし持ち上げる。
そして彼らは呆然としているお兄ちゃんに助けを求めているようだ。
声をかけられたお兄ちゃんは彼らを見たあとおじいちゃんをみた。そして笑顔で言い放つ。
「副長!!やっちゃって下さい!」
「「「「ライト~!」」」」
「「「「ぎゃ――――!!!」」」」
おじいちゃんの拳が飛び交う中お兄ちゃんは私の頭を撫でる。
「……せっかく、サラにお父様を見せられると思ったのに」
ちょっと涙目になっているお兄ちゃんが呟く。
ああ、そっか。割れちゃったからお父さんもう見れないんだ。
見れると思った分、見れないのは落胆が大きい。
しかもお兄ちゃんはあんなに嬉しそうにしていたのに。
お兄ちゃんを慰めるようにカルマドさんが肩をたたく。
「すみません、ライト。あの馬鹿達を抑えていなかったのは私のミスです。でも大丈夫ですよ。今回は割れてしまいましたが私がすぐにまたララハイナの魔水を手に入れましょう。それまで待っていただけますか?」
「うん」
カルマドさんに慰められているお兄ちゃんに和みながらそういえばお母さんはどうしているのかと仰ぎ見る。
あ。
なんかやばい。
お母さんの姿を見た瞬間、頭の中で警報が鳴り響いた。
これ、なんかやばいよ!絶対。お母さん俯いてから一度も顔を上げていない。そのお母さんが今ゆっくり顔を上げようとしている。顔を上げようとしているのに黒くて顔が見えない!ホラーだ!
お兄ちゃんもお母さんに気がついたのか小さくやばいと呟いている。
「ああ、久し振りです。マリアが怒っていますね」
少し関心したような声でカルマドさんが呟く。
お母さんが顔を上げた。
その顔は――――いつもと同じ笑顔だった。




