うわさ
更新予告日に遅れてすみません!
サラが生まれて間もない頃、ギルドの下っ端のひとコマ。
カ――ン。カ――ン。
(おぎゃぁぁぁぁ)
「なぁダミヤ。ひまだな」
「テトラ、これイカサマじゃね?」
「うん。トポがイカサマしてるよ」
「うわっ!テトラ何言ってんだよ」
「なぁトポ。ひまだ」
「はっ!テトラもイカサマしてるじゃねぇか!」
「そんなこと僕はしないよ」
「って、平然な顔をしてカード隠してんじゃねぇよ!」
「カード?何のことやら?トポは鳥族だから目悪いだろ?使えない目で何見てんの?濡れ衣は見苦しいよ」
「俺はただの鳥目だ!鳥族馬鹿にしてんのか?この軟弱兎野郎!」
「うぜぇ!喧嘩すんな。ってお前ら2人ともイカサマしてんじゃねえか!」
「なぁテトラ。ひま」
「「「うっさい!!!ムーバ!!」」」
3人が手に持っていたカードを丸太の上に叩きつける。
「でかトカゲはちょっと黙っててよ」
「そもそも暇なのはこの前ムーバが雇い主の館を半壊させたからだろ!」
「副長に業務停止命令出されたのはムーバのせいだぞ!」
「……すまん」
「あーあ、カードも飽きたな。なんかおもしれぇことないかね~」
「そういえばダミヤ……俺達ってここの掃除任されてたんじゃなかったか」
「あ~?したけりゃトポがすりゃいいじゃん」
(んぎゃぁぁぁぁぁぁ)
「「「「…………」」」」
「ギルド長の姫さんってよく泣くよなぁ」
「ギルド長の住まいって丁度ギルドの後ろだからよく聞こえるしな」
「そうだね。さっきも丁度正午の鐘が鳴るのと同時に泣いてたぞ」
「俺昨日の朝の鐘が鳴ると同時に泣いていたのも知っているぞ」
「俺はその前の日も同じ時間帯に泣いているの聞いたぞ」
「なぁ……これ、明日かけねぇか?」
「何を?」
「明日姫様が朝の鐘と同時に泣くかどうか。これならイカサマできないだろ?」
「はあ?今日、同じ時間帯に泣いたのだってただの偶然だろ」
「じゃトポは泣かないにかければいいじゃん」
「俺は明日も泣くに10エント」
「泣かない10」
「泣かないに10エント」
「じゃ俺は泣くに10」
――――次の日――――
「うわっ。すげぇ。ぴったり泣いたな」
「じゃ俺とテトラの勝ちやな」
「……偶然?明日は泣かないに10エントかける」
――――3日後――――
「すげぇ。姫さんまたぴったりだ」
「……」
「ムーバ、また外したの?」
「でもよぉ……これ俺らだけでやるのつまらなくないか?」
「ギルドの連中も巻き込むか?」
「賛成!」
「街の連中にも広げようぜ!」
「賛成!」
――――10日後――――
「これ、すげぇすげぇ。マジで儲かるかもな。次はいつまで続くかでやるか?」
「……」
「ムーバ、また泣かないに賭けたのか?いい加減諦めて泣くに賭けたら?」
「……」
――――3ヶ月後――――
「さすがギルド長の娘だな。もう3ヶ月かぁ」
「すげぇ!すげぇよ!まじで儲かるぜ!!」
「……」
「ムーバ…君、また……」
――――8ヶ月後――――
「おうおう!野郎ども!!聞きやがれ!今日ギルドになんと姫さんのご登場だぁぁ!!」
「マジで!これはあれだな!街の連中にも言って髪の色とかも賭けね?」
「いいねぇ!じゃ早速ギルドの連中に広めて集計取らないと!」
「おう!――って、あ!副長!!今日の何時くらいに姫さん来るんですか?」
「副長は姫さんの髪の色とか知ってます?ちょっと街の連中集めて賭けを――」
「あれ?副長?なんで角出してんですか?」
「え?ギルド長の娘を賭けの対象にするなって……でも、副長も昨日まで賭けてたじゃないっすか?」
「負けたからってそりゃあないでしょう。うわわっ!副長!なに耳掴んでいるんですか!」
「ひっ賭けを止めろ?分かりました!分かりました!止めます!」
「え!?今日立ち入り禁止!何で!!ずるいよ!副長!!」
「皆姫さんに会うの楽しみにしてるのに一人占めなんて!」
「下っ端のくせに生意気?ちょ!副長やめて~!!テトラの耳がもげちまうっ!」
「テトラ白目になってるよ!!」
~~~~~~~~~
「今日はサラがくるからこのギルドを立ち入り禁止にしただけだ」
何でもないようにさらりと告げる鬼さん――ドルフさんは私の頭をまだ撫でている。
えっと……。それはどういうこと?何で私がここにくるってだけで立ち入り禁止に?お母さんもお兄ちゃんも不思議そうに首を傾げているし。
「副長?どういうことかさっぱり分からないのだけど?」
「ああ、ちょっと下っ端連中が騒いでいてな。うるさかったからまとめて全員追い出した」
「あら?もしかしてサラちゃんが噂になっているっていうものと関係してる?」
「そうだ。すまんな、うちの馬鹿どもが始めたことだ」
「ふふっ。別にかまわないわ。でも残念ね。皆に会わせたかったわ」
「これからはいつでも会えるだろう。同じ建物に住んでいるのだから」
なるほど同じ建物……ということは、ここはおうちの一部なのかな?そう言えば建物が二つ連なって立っているようだったからちょうどここはおうちの裏側なのかもしれない。それにしても噂って私がいつまで泣くかってやつかな?そこまで騒がれるなら泣く時間帯も本当に考えないといけないな。あれ?赤ん坊っていつから泣くのって無くなるんだろう?
「副長。じゃあ、今日はトポ達いないんですか?」
「ああ、それに奴らが騒ぎの根源だからな。今日は朝からガルガドの討伐を任せたから当分帰ってこないぞ」
「そうなんですか。残念です。サラを紹介したかったのに」
「すまんな、ライト。わしが今日サラを一人占めしたかったんだ」
少ししょんぼりしているお兄ちゃんをドルフさんは私を抱っこしている手とは別の手で抱き上げる。
「あとな、ライト。わしのことは副長じゃなくておじいちゃんでいいんだぞ?」
「いやです。僕はもうこのギルドの一員だから副長と呼びます」
「そうか。それならサラにはおじいちゃんと呼んでもらおう」
ドルフさんは私を目線の高さを合わせて覗き込むように見てくる。
「にょぁあ<いいよ>」
「そうか、そうか。ありがとうなサラ」
こんなかっこいいおじいちゃんなら喜んで!ちょっと、見た目こわいし、鬼さんだけどファンタジーっぽいの大好きだからOKです!
私は元気に返事をした。ドルフさん――改めおじいちゃんも私がいったことを理解したように喜んでくれる。
「よし、じゃあ、わしの部屋にいくか。茶の準備をしとる。サラとライトに渡したいものがあるんだ」
「んりょんりょぉぉ!<いくいく!>」
はしゃぐ私を落ち着かせながらおじいちゃんの部屋に向かった。
ただ進む私達をじっとみている4対の目があることに私は気がつかなかった。
※ガルガドの討伐
………ガルガド:ネズミの姿をしているが鼻がない、猫と同じくらいの大きさの害獣。腐った食べ物を好む。また敵がくると自らを傷つけ血をつける。血には毒性があるがそこまでひどくない。ただ血は非常に臭い。とにかく臭い。吐くほど臭い。少しその血が付いただけでも1週間は匂いが取れずみんなから嫌われること間違いなし。




