ようこそ
久しぶりにサラ視点。
短いです。
ほわほわ。
ほわほわ。
顔があったかい。
薄らと目を開けてみると視界いっぱいにいつも持っているぬいぐるみがあった。あぁそうだった。馬車の中に置き忘れていたよ。
……なんかぬいぐるみ顔に覆いかぶさってないか?私の半分くらいの大きさはあるからちょっと窒息しそうだし、周りが見えないんですけど。
「サラ、起きた?」
あ、お兄ちゃんの声だ。声をかけられると同時にぬいぐるみを剥がされた。剥がされた際、ぬいぐるみがちょっと水色になった。しょんぼりとしているみたいだ。
ここどこ?と私は周りを見渡す。コトコトと揺れる地面に、上を見れば豪勢な天井とニコニコ笑顔のお母さんの顔、横はドアと窓、正面きょとんとしたお兄ちゃん……どうやら馬車の中みたいだ。
「今日初めてお外に出たから疲れちゃったのかしらね~」
そと?―――ああ、そうだった。今日初めて外に出たんだった。そしてキスしちゃったんだ。
「あぁぁぁぁ(はぁぁぁぁ)」
「サラ?どうしたの?なんかちょっとご機嫌斜めだね」
「馬車になれないのかしらね?」
不思議そうに二人がこちらを見ているのは分かるけれど、そんなこと気にしている余裕があまりない。今日の起こったことは私にとって衝撃的なことが多すぎた。だって黒の物体Xは赤ん坊だったし、しかも黒い靄おいしかったし。
あれはいったい何だったんだろう?
あの黒い靄―――黒たんぽぽを食べてからお腹がまだぽかぽか温かくて力が漲るような感覚だ。また食べたいなぁ。
疑問に思うより食欲の方が強かったようだ。思わず思い出してよだれがでた。お母さんが透かさず私の口を拭い、頭をなでる。そのなで方も私を見つめるまなざしもとても柔らかい。
「サラちゃん。もうすぐ着くからちょっと待ってね―――着いたようね」
丁度馬車が止まったようだった。
「着いた!」
お兄ちゃんが勢いよく扉を開けて外に出る。それに続きお母さんが私を抱っこしながら外に出た。
家に着いたのかなと思い私はほっとした。ちょっと部屋に帰ってぬいぐるみと戯れながら今日の事について考えたいし、突然のキスについてもちょっと感傷に浸りたい。
―――感傷っていったらセル君に失礼か。すまないセル君。だが乙女にとってキスというのはとても重要なものなのだ!
早く部屋に帰りたいと急かす様にじたばた動く。しかしお母さんは馬車から出たあとすぐに立ち止まった。
「だあぁぁぁ?(どうしたの?)」
不思議に思いお母さんを見るといつものニコニコ顔を返された。
「――サラちゃんようこそ!!冒険ギルド、オリヴルへ!!」
え?家に帰ったんじゃないの?




