これから
ガタガタッガタガタ。
ガタガタッガタガタ。
気がつくと視界が揺れていた。
頭に鈍痛がはしる。少し動いたことで胸が詰まりせき込む。
呻きながら身じろぎをしても揺れは収まらない。自分が揺れているのか、世界が揺れているのか。
「―――おい。やっと起きたか」
低い男の声が聞こえた。ライガルは声に反応し少し顔を上げた。
誰かがいる。誰なのか見て確かめたいのに瞼をうまく上げることできずひどくもどかしい。
時間をおいて恐る恐る瞼を上げた。
目の前に広がっていたのは光り輝く宝石や水晶だった。
なぜここに水晶があるのか。いや、この水晶には魔力を感じるから魔石か?
「―――魔石?」
「おい。起きたのなら返事しろ」
魔石に気を取られていたせいで男のことの反応が遅れた。ライガルはすぐさま男の声がする方に目を向ける。見ると先ほどまで自分とやり合っていた男―――はこちらを向いておらず、男の武器だろう剣を磨いている。
そして辺りを見渡せばどうやら馬車の中で今はライガルと男しかいない。
「……あの?」
「それは魔石じゃねえよ。岩塩だ。魔力入りだがな」
男が後ろ向きのままライガルの目の前にあるこぶし大の岩塩を指さす。
「それはマバンと言われる岩塩だ。ここから大分離れているがリール王国を知っているか?その国には不思議な塩でできた湖があり、岩塩がとれる。しかも微弱ではあるが圧力を加えると魔力を発生するんだ。食べるだけで魔力を補充することができリール国のみでしかとることはできない。国を代表する輸出品だ」
男はさて、と呟きライガルを見据える。そしてあの戦闘の時と同じようにニヤッと獣のように笑った。
「賭けはお前の勝ちだ。何でも質問に答えてやる。―――ライガル・ランドールド・ガタニア」
やはり、と思わずライガルは息を飲んだ。ナイフを渡したのだ。自分の素性が知っているのも当り前だ。それでも今殺されていないのはこの者達は本当に帝国と関係がないからだろう。男が攻撃してきたのもただの暇つぶし。
「ふっ。まあガタニアの第三王子がなぜこんな地にいるのかなんて興味はない。で、何が知りたい?」
ライガルは口を開く。帝国と関係なくてもこの人達が何者か気になった。
「……あなた達は何者ですか?」
「商人……と、言ってもお前は信じないだろうが表向きはそこにある岩塩を商いに世界中をあるく商人というのは間違いないぞ」
「裏向きは?」
男は可笑しそうに答える。
「ただの冒険ギルドだ」
「冒険ギルド?」
「ああ、そうだ」
眉間にしわがよる。冒険ギルドと言われてもなぜ商人に偽装しているのかが分からない。それに聞きたいことは沢山あるがどう聞けばいいか分からず知らないうちに男から発せられる覇気に言葉が回らない。
とりあえず今聞かねば男は答えてくれないだろう。とにかく会話をもちかけようとしたライガルの言葉を男が遮る。
「俺らはただの冒険ギルドだ。ただリールの王にレトゥール帝国を見てきてくれと頼まれただけさ」
「――――え?」
「お前も身をもって知っているだろう?レトゥール帝国の異常さは。リール国としてもどれだけ離れた土地だろうが厄介なものを見逃すわけにもいかない。とりあえずの偵察として俺らはきた。これから俺らはガタニアの様子を見た後帝国に向かう。お前はどうする?」
男は話しながら磨いていた剣を鞘に戻す。男はライガルの返答を促す様に向き合った。
男はライガルの目をひたと見つめている。
ライガルは思わず視線を下に逸らした。
‘おまえはどうする’の言葉がライガルに重くのしかかる。
国は帝国に滅ぼされた。帝国に復讐したいという気持ちはあるが一番に強く思ってしまうのは何もできなかった自分に対しての苛立ちなのだ。それにガタニアが滅んだのは帝国が原因ではあるが自滅したという方が正しい気がする。
どうしてあそこまで国は狂ってしまったのだろう?
一か月前、帝国に滅ぼされながらもその疑問がライガルを占めていた。
(……やりたいことは決まっている)
ライガルはおろしていた視線を戻し、男をみた。
「僕は知りたいんだ。どうして僕の国は滅んだのか」
ライガルは頭を下げた。
「お願いです!僕を一緒に連れて行ってください!なんでもします。僕は生かされた。知らなきゃいけないんだ!」
男は全くかまえた様子をみせず、ライガルに問う。
「なんでもします、か?甘いなぁ。坊主。俺がお前に何を言うか分からない状況で簡単に言う言葉じゃねぇな」
「あなた達は意味のないことをしない。僕に利用価値があるから教えてくれたんでしょう?だったら僕が知る限りのことは教える。だからお願いします!」
「そう必死になると簡単に足元を見られるぜ。まぁいい。俺はお前の今後に興味があるから連れて行く。―――後悔しても知らないからな?」
「後悔なんて既にもう死ぬほど味わった。何でもするという言葉をかえるつもりはない」
迷いはなく言いきる。男が何を言おうが構わない。何もできずに終わるよりよっぽどましだ。
迷いなく男を見据え、ライガルはうすく笑った。
「――よろしくお願いします」
ここで取りあえずライガル視点終了しサラ視点に戻したいと思います。




