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オモワヌもの  作者: トキ
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ため息



「あたった……」



ふさがっていただろう傷が開き流れた血で表情は見えない。しかしトーラトーイには少年が一瞬笑ったのだと分かった。


ライガルとなのった少年はガタニア人だという。

ナイフをウルに差し出す際の複雑な表情。

ナイフを差し出す行為はおそらく自分の素性を明かすものだ。だがウルは何も言わなかった。という事はただの孤児などではなくそれなりの身分があるのだろう。


トーラトーイは思考を巡らしながら手に持っていた葉巻の火をつけ煙を周りにまく。


エルフの葉巻には精霊が好む魔力が練り込まれており精霊を抑えたい時や落ち着かせたい時に使うものだ。

今この場には精霊の卵が無数にある。そして卵達は人間の思考や魔力を読み取って性質の色を変える。トーラトーイは滞在しているだけでも簡単に変化してしまう卵達に毎日葉巻を服用し抑止していたのにササカがあの少年に嗾けたせいで周りの精霊の卵達も盛大に変化してしまった。しかも闘争心に煽られて卵達も色が荒々しい。


トーラトーイは思わずため息を零す。


「あぁあぁ……せっかく抑えていたのに色が変わってしまったよ」


「諦めることだな。ここは確かに人があまり入らない土地だろうが葉巻で煙を撒いて抑えようが私達がいる時点で変化はするのだろう?そもそも純粋な精霊は長生きをしたエルフでもほとんど目にすることはできないと聞いているぞ」


「精霊になっていない卵だけの状態だったたら純粋なものも多くいるよ。ただそれが人と関わって性質を変えてしまう事が僕は嫌だ」


となりにいたマサドーラがニヤッと笑った。確かにそうだ。卵が精霊に孵化するには早くて数十年、長くて数百年とかかる。その長い期間にたった一度近くに人間がいただけで卵に影響をあたえるのだ。


精霊の性質は細かく分類されているがおおきくいうと3つの性質に分かれる。


森や植物、虫のエネルギーから作られる自然の精霊。

自然精霊が生まれる過程に人や動物の意思に関わって生まれる天然の精霊。

人の魔力によって作られる人工の精霊。


人工精霊は人がつくった精霊もどきだ。媒体がないと作れないため人間にもみることができる。しかし自然精霊も天然精霊も人では見ることができないため、この二つの違いも分からずそこまで重要に考えないのだろう。

別に天然精霊自体は悪いことではない。それにほとんどお目にかかれるのは天然精霊だ。ただトーラトーイの好みの問題で、できるだけ人間に関わらせずに卵を孵化させたいと思ってしまう。

少年の側にいるのは天然精霊だった。しかも生まれる直前に人と関わったのだろう。それにその人間は死に匹敵するほど何かがあったのではないかと思う。

そうでなければ精霊が生まれたばかりで強い意志を表すわけがない。


トーラトーイは少し不思議に思った。そういえば精霊はあれだけ助けるように声を出していたにも関わらず今は少年の側で静かにしている。ササカが少年に危害を加える意思がないことを察知しているからだろうか?


今回卵達に大きな影響を与えてしまった二人を見てみれば少年は気を失っておりササカにまた首を掴まれた猫のように持ち上げられている。


「ササカは気に入ったんじゃないかな?」


「そうだな。しかしササカは初めからあの少年を気に入っていたんだろう。そうでなければ今手を出さないだろうし」


「まあ、彼の登場は初めから衝撃的だったからね」


ラクガイハの繭に入っていた少年――。

しかも体中に傷があり血だらけで姿はぼろぼろ。そりゃ誰だって印象に残る。

特に面白いことがすきなササカなら興味を持つだろう。


しかも繭から出てきたあと、側にいた精霊が今すぐ治療しろとばかりに騒ぎ進行を阻むように深い霧を発生させた。さすが人間に関わって生まれた精霊だ。感情がとても人間に似ている。

無理にでも進むことは可能だが進むたびに邪魔されては堪ったものではないととりあえず少年が目を覚めるまでこの地に留まることにしたのだ。



「たぶんササカはこれからあの少年を遠征に連れていく気だよ。本人の意思は関係なく」


「ご愁傷様だな。少年」


ササカは気に入ったならば本人の素性や事情など関係なく話を進めるだろう。精霊にあれだけ心配されている少年にトーラトーイも興味がある。


「下っ端が増えるのは大助かりだ。よかったね」


「トーイ。お前が拾ってきたのだから少しは手を貸してやれよ」


「失礼だな。僕はいつだって拾ってきたもの世話を責任もってしようとしているさ。それを皆が止めるんだろう。だから僕は自分が拾ったものに手を出すことができない」


「……そうかい」


今回も一応なにか世話をしようと思ったがサイルに絶対に手をだすなといわれてしまったため、仕方なく傷の手当てと世話をジェノクとサイルに任せ拾ってきた張本人のトーラトーイは何も手を出していない状態だ。

簡単にいえばトーラトーイに誰かのお世話をするという才能がないのだ。

今まで森で精霊に頼まれて拾った生き物―――親が死んで生まれたばかりにも関わらず森を燃やしつくそうとした火竜やふられたショックで腐敗をまき散らすドリュアス、その他もろもろもきちんと最後までお世話をしようとした。

だが逆にお世話された者から逃げ出して行くのだから仕方がない。

今までの経験上、周りからはトーラトーイが少年の世話をすることは危険と判断されてしまったのだ。




昔の拾ったものを思い出しているとササカは少年をジェノクに渡し、ウルに話しかけているところだった。

トーラトーイはやれやれと息を吐く。まぁ、原因は拾ってきたトーラトーイにあるが関係なしである。


「この坊主連れていくぞ。で、これからどうする?霧は晴れた。ガタニアには寄るのか?」


「ああ、ガタニアは既に滅んで帝国の連中はいないということだったがどうにもきな臭い。一度行っといた方がいいだろう。その坊主も道案内に役立ちそうだし遠征に入れることは問題ない。それにその坊主帰る場所もないだろうしな。あとササカ、自分から提案したからにはちゃんと坊主に言ったことは守れよ」


ササカが尖った目を細める。


「おう。それとこいつは遠征が終わったら俺んとこのギルドにいれるぜ。予感だがこいつこれから面白いこと絶対やらかすぜ」


「……おい。この遠征であまり目立ったことはしないでくれよ」


トーラトーイのところまでため息が聞こえた。


「まあこれでやっと動くこともできる」


ウルは立ち上がりメンバーに聞こえるように言い放つ。




「これからガタニアの首都だったカルディアに向かう。森を抜けて街に入ったら商人の振りを徹底しろよ。

―――――遠征再開だ」


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