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オモワヌもの  作者: トキ
28/44

顔合わせ(後)



(……立てる)


体中に痛みがはしるが動けないことはない。

ライガルはジェノクに手を借りながら立ち上がることができたことに安堵の息を漏らした。




ジェノクに促されて外に出てみればテントが張られている場所は木々が生い茂る森の中。出た直後ライガルは目の前に広がる森に違和感を感じた。ライガルが逃げ込んだ森と今いる森の雰囲気が違うのだ。ライガルは植物を操ることを得意としていたため森の性質の違いが大体わかる。ライガルの逃げ込んだ森はよく人の出入りが多く木々の声はあまり聞こえなかったが今いる場所は木々の声がよく聞こえた。

思わず立ち止まって尋ねる。


「……ここは?」


「えっ?ここ?ルハの森だけど?」


「君達が僕を拾ったのはこの森?」


「そうだけど?」


ジェノクがどこにいるのかも知らなかったのかと呆れたようにライガルをみていたがライガルはそれどころではなかった。


(なんで僕はルハの森にいるんだ?城下の森から大分かけ離れた場所じゃないか)


ルハの森はちょうど国の境にある森であまり人が入ることがない。なぜ自分がここにいるのか全く分からなかった。


「なんか考えているところ悪いけど、進んでいいか?」


「ああ、ごめん」


ジェノクに言われライガルも動き始める。


生い茂る木々の集団から離れ、けもの道を少し進むと馬車でも通れる道にでた。人があまり入ることのない森でも道はあった。荷をできるだけ早く運びたいと思う商人がギルドと手を組んで危険をおかし、馬車や人が通れる道を作ることがあるという。この道もそうして出来たものなのだろう。

視線を上げれば進む先に竜騎と馬車がみえた。


竜騎が3頭に馬車が2台。


ライガルは竜騎を見て驚く。竜騎とは馬のように躾けられた竜種のことだ。強く体力があり、また竜であるため野生の魔獣はあまり近づいてこない。荒々しい気質を持つが一度躾てしまえば大人しく従順になる。長距離の旅には心強いが値段がとても高く1頭だけでも馬の数十倍はかかるだろう。そんな竜騎が3頭もいる。

竜騎から視線を外し、ジェノクを見る。一体彼らは何者なんだろうか?


(そういえば、サイルさんが旅団と言っていたな。遠征中の商人か?いや、それにしては雰囲気が違う)


ジェノクはライガルの視線を気にせず竜騎が見えた先を指さす。


「あの先に皆がいる。そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だぞ!ちょっと癖があって自己中心的で鬼畜な人間なだけだし、すぐお前をどうこうしようなんて思わないはずだ!…たぶん」


「……………」


それは不安になる要因しかないのではないだろうかと思ったがライガルは取りあえず肯くのだった。






竜騎と馬車の間近まで歩くと先にジェノクが馬車の先に進み奥にいる旅団のメンバーに声をかける。


「団長!連れ来ましたよ!」


「―――ああ」


ライガルも前に進むと竜騎と馬車の先はひらけた場所になっていた。そこにはライガルとジェノクを除いた6人の人物がいた。一人は先ほど会ったサイルだ。サイルは興味がなさそうにタバコを吸っており、それとは逆にその隣にいるサイルと似たような見た目の人物がこちらをにやにやと眺めている。とても似ているのに感じる印象が全く違う。

そのほかの人物からも視線を感じる。知らず知らず緊張がはしり手に持っていたナイフを強く握りしめた。この場の空気は重い。

特に荷物に腰かけている団長と呼ばれた人間とその隣にいる人間の発する独特な雰囲気は人と思えなかった。


「……おそい」


ジェノクに団長と呼ばれた男が地を這うような低い声を発する。その声にジェノクがビクッと震わせる。


「え?だ、団長。俺言われたように彼が起きたらすぐに連れてきましたよ」


「お前じゃない。そこの坊主だ」


男はライガルに視線を向ける。


「……2日だ、2日。坊主、お前が目を覚ますまでにかかった日数だ。俺らは見たとおり商人ギルドで急いで荷を運ばねばならん。だが、トーイの野郎がお前を拾ってきてしまったせいで精霊に邪魔され進むことができなかった。お前は一体何者だ?」


その視線だけで人が殺せそうだ。

ライガルは足が震えた。どこか猛獣と対面しているような感覚に陥ったが目を逸らすことはできなかった。ここで視線を外せば全てが終わると本能で悟った。


「助けて頂いて有難うございます。そして迷惑をかけてしまったことは申し訳ありません」


「……ほう。餓鬼にしては礼儀がなっているじゃねえか。だが答えにはなっていないぞ。もう一度聞く。お前は何者だ?なぜ精霊はお前を味方する?」


「…………」


男は変わらずライガルを睨んでいるがライガルは答えることができなかった。

なぜならライガル自身が驚いていたからだ。ライガルは精霊を見たことがない。というより、人は精霊を感じることはできても見ることも話すこともできないのだ。

そんな見たこともない精霊がライガルの味方をしていると言われても知らないとしか言いようがない。それにここで自分の身元を明かしても明かしてなくても危険だ。

迷うが答えないという選択はこの独特な雰囲気を発する男たちが許してくれないだろう。

一体どうすればいいのか。


「今の段階で名乗りたくありません。そして精霊が僕を味方していると言われても答えようがありません。僕自身そのことは知らなかったのだから」


「名乗らなければ今この場でお前を殺す」


間髪入れずに男は目を細めて言う。手は剣を握っている


やはりあやふやな解答では許してくれない。

ライガルは一度深く息を吸い込み言葉を吐いた。




「僕の名は――」






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