顔合わせ(前)
更新遅れてすみません。
あっという間にジェノクが出て行き、ライガルはしばらく呆然としていた。
しかし、そんな場合ではないことに気づき慌てる。
この場所が自分にとって安全とは限らないのだ。ライガルは状況を少しでも把握しようと周りを窺う。
移動式の簡易のテント、自分が寝ている下には重ねられた布、側にある水差し、そしてテントの端には丁寧にも折りたたまれた自分の服と自分のナイフがある。
(今すぐにも逃げ出せる状態じゃないか?)
そもそもジェノクという少年は自ら鳥翼族と名乗っていた。
この大陸では北にいくほど人間の比率が高くなる。また帝国は大陸の最北端にあり、完全な人間の国家だ。
獣人である時点で帝国の人間であるはずがない。
それに何かの思惑があるのならば、ライガルを一人にはしないだろう。
(……危険ではないかもしれない。それにすぐに逃げ出すこともできるし)
「お待たせ!ごめん!サイルを探すのに少し時間がかかった」
ライガルが少し肩の力を抜いてしばらくたった頃にジェノクは戻ってきた。
そしてその後をうるさいとつぶやきながら一人の青年もテントに入ってくる。
ジェノクがサイルと呼んでいた人物なのだろう。
ライガルは青年をみる。ジェノクに対してもこの青年に対しても警戒を怠ってはいけないだろう。
サイルと呼ばれた青年は不思議な格好をしていた。
どこの民族衣装なのか分からないが細かい刺繍があしらった布を頭に巻き、その隙間からは派手な黄色の髪が揺らいでいる。そして同じような刺繍の入った布を腰にまき、ゆったりとしたズボンをはいていた。
どれもライガルの国では見られない服装だ。この姿だけでも彼ら遠くからやってきたことが分かる。
ライガルがまじまじと青年を見ていると目があった。
深い緑の瞳だ。少し面倒そうに頭に巻いている布を持ち上げすぐに逸れされる。
何をどうすればいいのか分からず、ライガルが黙っていると、青年は溜息をつきながらライガルの側に座りいきなり包帯を解き始めた。
ライガルは青年のいきなりの行動に戸惑う。
「あの?」
青年は一瞬ライガルに視線を向けたがすぐに傷のほうに視線を戻す。
何故傷の手当をしてもらっているか分からず声を出すが、青年は気にせずに傷の具合を見始めた。
「大丈夫だよ。サイルの腕は確かだから安心して、じっとしていて」
ジェノクを見ればテントの端で治療の邪魔にならないよう座ってこちらを見ていた。
ライガルの視線に対して二カッと笑う。ジェノクの意見を聞くべきなのだろうか?
ライガルはとりあえず黙って治療を受けることにした。
「―――頭と額は打撲傷、右肩には弓傷、左腕や足には刺し傷か。かなりの血が流れただろうによく生きていたな」
「…えっと」
サイルはライガルの肩に触れる。帝国の兵士に弓を射抜かれた場所だ。いきなり話し始めたサイルに驚いたがライガルの様子は関係ないとばかりに話は続く。
「足には複数のかすり傷がある。必死に逃げてきたというところか」
「ねぇ、サイル。大丈夫なのか?」
「あぁ。別に問題ない。多くの傷があるが既に治りかかっている。治療したような痕はないのにな」
サイルがライガルを見据える。
「俺はサイルという。この旅団のなかじゃ、薬師のようなものだ。お前も聞きたいことがあるだろうが質問はこのあとメンバーとの顔合わせのときにでも聞いてくれ。面倒だから俺には聞くな」
それから、と言いながらテントの端においてあった服を投げ、ナイフを渡してくる。
「今からお前をメンバーに引き合わせるが、内容によってはどうなるか分からんからな。自分の身くらい自分で守れ」
そう言うとサイルは立ち上がりテントから出て行こうとする。
「あ、あの!手当てありがとうございます」
何も言わずここまま終わるのは無礼だろうと思い、サイルが出て行く前に礼を言ったがサイルは軽く手を挙げただけでなにも返事をしなかった。
サイルが出て行った後、ジェノクが立ち上がりライガルの側による。
「なぁ。立てるか?今からみんなの所に連れていくよ。あとサイルはちょっと人見知りがあるからあの態度は許してくれよ」
「ねぇ、君たちは何者?どうして僕を助けたの?」
「助けたのはトーイが拾ってきたからだよ。あ、そういえば、お前の名前何ていうの?」
「……名前」
ライガルは言葉を濁す。ジェノクの答えでは意味が分からない。それにライガルの名は多くあるが教えていいものだろうか?自分の立場がばれることは危ないだろう。
迷っていたらジェノクから切り出した。
「あ~別に言いたくないなら別にいいけど。じゃいくか」
ジェノクが手を伸ばす。
ライガルは手をかりて立ち上がった。
全員大集合になりませんでした。
次こそ遠征組大集合です。




