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オモワヌもの  作者: トキ
26/44

逃げた先

前回の話の最後を変えています。




レオナードの笑い声が耳に響く。



ライガルは部屋の窓から突き落とされた瞬間に風の力を使いなんとか落ちる衝撃を抑えることができた。

ストンッという音を発して着地する。

落ちた場所は裏庭だ。帝国の兵はまだその場にはいなかったが直に現れるだろう。

レオナードの狂った笑い声が突然途絶えた。様子を見るため上を向けば、赤い滴が降りかかる。

手の甲で拭うとぬるっとした熱い赤。血だった。

誰の血かすぐに分かった。


「レオッ――――!!」


声を出したと同時に窓から人影がみえた。その人影はライガルが知っている人物ではなく冷たい鉄を纏う帝国の兵士だった。

兵はライガルの姿を確認すると警笛を鳴らす。

ライガルを殺すために増援が呼ばれた事が分かった。


すぐに逃げなければとも思ったがライガルは動けなかった。このまま逃げるべきかどうかを、もう自分もこのまま終わるべきではないかと―――。


窓際にいる兵士が何かを叫んでいる。

裏口からライガルのいる裏に三人の兵士が入ってきた。それぞれ剣を構えていた。


ライガルは動かなかった。

レオナードは死んだのだろうか。また助けられなかったという絶望がライガルの中を駆け巡り現状を把握することができないのだ。


兵の一人がライガルの目の前まで近づいた。兵士は卑しい笑いを上げながら剣を振り上げる。

ライガルの瞳に刃先が写るがその瞳には何の光もなかった。



――――ギンッ!!


高い音が鳴り響いた。

その音でライガルの瞳にも光が戻る。

気がつけば無意識のうちに持ち歩いていたナイフで攻撃をかわしていた。

ライガルは瞬間に剣の力をそのまま回転させ相手の攻撃を大きく弾いた。その上、弾いた際に傾いた兵士の左脇を力の限り蹴り上げたと同時に相手の首を切る。


別の兵士が反撃したライガルに驚いた様子だったが気を取り直し、攻撃を仕掛けてくる。

兵士は罵声を浴びせながら剣を振り回す。

身体を捻って剣先から外し、相手の手首をナイフで切り裂く。

兵士の絶叫には目も向けず最後の兵士をみた。どうやら最後の一人はライガルの動きにひるんでいるようだった。ライガルは素早く兵士がおとした剣を掴み、最後の一人に近づき鎧がなかった胴を切り裂いた。


ほんのわずかな時間で兵の二人は絶命し、一人は絶叫しながらその場で蹲っている。

ライガルはその姿を確認し一目散に走って逃げた。


走りながら手が震える。王子として護身術として身体は鍛えていたが人を切ったのは初めてだ。

なぜ自分はこんな行動をとってしまったのだろうか。

ただ自分の命の危機に身体が動き、今もこうして逃げている。


突然、右肩に殴られたような衝撃が走りライガルはつんのめった。どうやら遠くにいた兵士に弓を放たれたようだ。

それでもかまわず走った。

生まれた時から暮らし、知り尽くした城下町だ。どうすれば街の外に出られるかもどう逃げればいいのかも分かっている。

ライガルはどうして自分が逃げているか考えることを止め、ただひたすら逃げるためだけに身体を動かした。


目指すは街の外に拡がる森―――。





  ~~~~~~~~~





ライガルはずいぶん長いこと夢の中にいた。


ライガルは街にいた。大好きだった街の風景だ。

だが、今は人々の悲鳴、生き物の焼ける臭い、そしてごうごうと音が聞こえそうなほどの炎の熱さを感じていた。街の中は火の粉が渦巻いている。


見えるのは逃げている自分。


逃げて逃げて逃げて――何も残らない自分。


思わず叫んだ。


―――嫌だ!!助けてと叫んだ。もう嫌なんだ、と。


周りの風景が暗闇に変わる。

それでも叫ばずにはいられなかった。

走って走ってその後にあるものは何もない。

ライガルは立ち止まって膝をつく。

そのなかでまた風景が変化した。


顔を上げれば見えたのは蝋燭の火のような小さい光だった。





  ~~~~~~~~~





ライガルは目を開けると幾つも重ねた布が見えた。

重ねた布から淡い光が漏れる。


(ここはどこだ?)


身体を動かそうとすれば肩や腕に刺すような痛みがはしる。

ライガルには今がいつで、自分がどうしてここにいるのか、どうして怪我をしているのかが分からなかった。

寝床の脇には水差しや桶が置かれている。誰かがライガルの世話をしていた様だ。


「あっ!ようやく目を覚ました!よかった」


いきなり声をかけられ驚く。人がいたのか。


「うっ……」


かすれた声で呻き、手で頭を押さえた。声をかけられたことで今までの起きた全ての記憶がどっと押し寄せてきたのだ。

ハッと目を見開く。この状況は危なくないか?帝国の兵士から逃げるために森に入った後からの記憶がない。今自分は捕まった後なのか?

声を発した人物を見る。燃えるような赤い鶏冠のような髪に鳥のような赤茶の瞳、自分より1.2歳年上そうな少年だった。少年は帝国の兵士が身に着けていた鉄の鎧は身につけていない。しかもこちらを心配そうに見ている。


少年はライガルの傍によって心配そうに顔を覗く。


「大丈夫か?頭が痛いのか?」


「あ……」


声を出そうとした瞬間激しくせき込んでしまった。少年はあわてて背中をさする。


「起きられるか?」


少し身体を起こせば少年がすかさず水差しをライガルの口元に持っていき水を飲ませる。

水を飲んだことで少しほっとした。

どうやら帝国の兵士ではなさそうだ。


「……ありがとう。君は?」


身体を起こしたことで自分が今簡易のテントにいることが分かった。


「俺か?俺は鳥翼族のジェノクだ。」


明るい笑顔でジェノクはそう言うと立ち上がる。


「まってて。今、サイルを連れてくるから!大丈夫だよ!」


声をかけられることなく颯爽とテントから出ていってしまった。




取り残されたライガルは声を漏らす。


「サイルって誰?」






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