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オモワヌもの  作者: トキ
25/44

生きる

「なぁ、ライガル。君はこれからどう生きていく?」



今よりもっと幼いころだ。


ライガルが学舎の図書室で本を漁っている時、彼はいきなり表れて問いかけた。それも目をキラキラさせた状態で。


「レオ、いきなりどうしたの?またいつものお兄さんの言葉?」


彼――レオナードが激しく首を上下するのを見てライガルははぁとため息を吐いた後読んでいる本を中断し、彼に向き合った。

ライガルの兄、第一王子と同じ年の魔術師の兄を持つレオナードは大のお兄さんっ子だ。兄に何か言われる度に幼馴染のライガルに相談することが度々あり今回もその問いかけのようだった。


「さっきさ、久し振りに兄さんと会えたんだ!でもその時俺はあまり真面目に勉強していなくて。その姿が見られちゃって叱られちゃった。で、その時言われた言葉が‘お前も学舎に通うのならちゃんと目標を持って学べ。そしてこれからどのように生きていくかもっと考えろ’だって!!カッコいいだろ!俺の兄さん!でも言っていることが難しくてよく分からなった!なあ……ライガル。目標を持つことは大事だって先生も言っていたから分かるけど、どうに生きていくかってなに?ライガルだったらこれからどうに生きていくの?」


教えてと目を輝かせながら見つめるレオナードをみてライガルか呆れたように言った。

魔術師のくせにどこか騎士のような雰囲気のあるレオナードの兄の姿を思い出す。


「僕らまだ10歳にもなっていないじゃん?これからどう生きていくかなんてまだ先のことだから追々考えていけばいいんじゃない?」


王子として生まれたからには国のために生きるという漠然とした考えはある。だがどのようにといわれてもすぐに答えることはできない。


ライガルは閉じた本をなぞりながら考える。ライガルにしてもレオナードにしてもまだまだ子供だ。将来の事なんて想像もつかない。なぜレオナードの兄は幼い自分たちにこの言葉を伝えたんだろう。


「そうだよな!でも俺目標ならあるよ。兄さんみたいな魔術師になるんだ!」


レオナードはニカっと笑い、ライガルから本を奪う。


「よし!ライガル!今から魔術の特訓をしよう!!」


初めからそれが言いたかったのだろう。レオナードはライガルの了承を得ずにさっさと本を片付ける。レオナードが兄に言われたことを尋ね、その後ライガルを巻き込んで次の行動を起こすのは毎度のことだ。ライガルはいつものように返事をする。


「わかったよ」


「サンキュー!!そんなライガルにプレゼントだ!」


レオナードはポケットに手を突っ込み、何かを取りだしライガルの前に突き出す。


「何?」


「ほれっ!手を出して!」


ライガルが手を恐る恐る出すとレオナードはライガルの掌にぽとっと何かを落とした。

ライガルの手にあったのは丸い卵のような形をした石だった。

美しい空色をしていて宝石のようだった。


「……キレイだな。でも、これ何?」


「卵だよ!」


「何の?」


「さあ!」


オレと先生で作ってみた!とレオナードが鼻息荒く答えた。ライガルも納得したようにうなずく。


「先生の仕業か~」


「そ!今回オレも作るの手伝ったけどどんなのかは分かんない。でもたぶん大事にしていたらライガルのためになるさ!」


「適当だなぁ」


先生というのはレオナードとライガルが師事している魔術の先生だ。ただ変人で放浪癖があるからなかなかお目にかかれない。

ある日どこで知り合ったかわからないがレオナードが突然師匠と仰ぎ、それに巻き込まれてライガルも先生に魔術を習い始めた。

先生が何の研究をしているかは分からないが時々研究で生み出されたモノをライガルやレオナードに渡す。大抵はライガル自身に被害が出ることがあるが先生が渡すものは珍しく便利なものもあるので有難く頂戴することにしていた。


「う~ん、とりあえず大事にするよ」


「おう!」


「じゃ、魔術の練習するんでしょ?」


「うん!―――あ!あとライガル!」


「なに?」


「さっきの話!‘どう生きるか’決めたら真っ先に俺に教えてくれよな!」


周りから期待され、王子であるライガルにとってこの素直な幼馴染は大事な存在だった。


「うん。わかった。レオもわかったら教えてよ」


ライガルは笑って答えた。






  ~~~~~~~




ライガルは目的の人物に会うためこの屋敷にきた。


どろどろとした気味の悪い空気が通路を漂う。気持ちの悪い感覚に襲われ、背中に汗が流れる。走りながら外を見れば街は黒々とした煙に包まれていた。微かに人の悲鳴や物の焼ける音が聞こえてくる。


もうこの国は滅ぶ。帝国の軍が流れ込んできた。街にも城にも火の手が上がるが誰も抵抗することはない。もうこの国は帝国が攻め入る前に既に滅んでいるも同然だったのだ。


ライガルは通路を突き抜けた先にある部屋に入る。屋敷の外では五月蠅いほど悲鳴や破壊の音で溢れているのにこの部屋はひっそりと静まり返っていた。ライガルの立てた足音が響く。


部屋には2人の先客がいた。――いや、一人と言うべきだろうか。


一人は部屋の中央にある椅子に座るからからに干乾び、骨と皮だけになった人間。

一人はその人間の手を握り締め床に座り込んでいる少年。

ライガルは床に座り込んだ少年の前まで進む。


「レオナード。逃げよう」


返事はない。それに構わずライガルは床に座り込んだ少年の肩を掴む。


「レオナード!お願いだ。逃げよう」


少年の瞳が開く。しかしその瞳にライガルは写らない。ただ虚ろな顔をあげた。


「ねぇ、ライガル。あの魔女は死んだんだよね?」


「何をいっているの?レオ」


「黒い黒い汚れた魔女だよ。兄さんをこんなふうにした人間」


ライガルはレオナードの前に座っている人物を見る。

もはや人とは言い表せられないほど干乾びた人物はレオナードの兄だった。レオナードの兄は高い魔力をもった魔術師で召喚のあの日生贄になったのだ。

あの日兄の下で魔術師見習いをしていたレオナードも兄が魔力を奪われ干からびていく様を見ている。そしてあの黒髪の少女を憎む一人だった。


「彼女は死んでいるよ。処刑された瞬間をレオも見ていただろ……」


ライガルが救いたかった少女はレオナードにとっては何度殺しても殺したりない憎悪の対象でしかなく処刑されたあとも思い出したように殺せと叫ぶ。


「ねえ……ライガル。兄さんが目を覚ましてくれないんだ。何でだろう?一緒に起こすのを手伝ってよ」


「レオ!!そんなことよりも今は早く逃げないと!一緒に逃げよう!!」


レオナードの瞳にライガルが写った。しかしその瞳は狂気が孕んでいる。


「……そんなこと?」


肩を掴んでいたライガルの手を激しく振り払う。


「レオ!!」


「あはははははっ。そんなことって言ったの?ライガル!兄さんの事をそんなことって言った!!この前も兄さんが死んでいるなんて戯言を言っていたよな!ふざけるな!兄さんは生きている。お前は兄さんのことだって僕のことだってお前にとっては本当はどうでもいい存在なんだよ!だったら逃げるなら一人で逃げろ!」


ひどく歪んだように笑う友にライガルは言葉を失う。


「あの女の召喚さえなければこんなことには!!そもそも第一王子さえあんなことをいわなければ召喚なんてなかったのに!」


「レオ!今の言葉は謝るから!お願いだよ!早く逃げよう!!もうすぐここも帝国の奴らが攻め込んでくる」


通路から足音が聞こえてきた。帝国の兵たちだろう。奴らは屋敷の金目の物を回収した後火を放つ。


「はははははっ。周りは皆燃えているね。全部燃えればいいんだ」


レオナードは立ち上がる。そしてライガルの腕を掴むと窓まで引っ張る。腕に爪が食い込み血が流れた。


「レオ!!」


「じゃあね。ライガル。僕は兄さんの側にいるから君一人で逃げてよね。あっそうだ。君に聞いておくよ」


レオナードが窓を開ける。開けた同時に部屋に帝国の兵が入ってきた。

レオナードがライガルを窓から突き落とす。

ライガルが最後にみた幼馴染も顔は笑顔だった。


そして落ちていく瞬間に聞こえてきた。




ライガル。君はこれからどう生きていく?



レオナードの笑い声が耳に響いた。









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