いま
「キャッキャッキャッキャ~♪」
「ははっ。今日のサラは甘えん坊だね」
只今、私はお兄ちゃんの手の中にある物体に注目中。
お兄ちゃんの手の中にあるものはクマもどき――――以前、マサドーラさんがくれたぬいぐるみだ。
お兄ちゃんは私の目の前にクマもどきを掲げる。私が手を動かしそのクマもどきに触ろうとするとお兄ちゃんはそっと上にクマもどきを投げる。
明るい黄色だったクマもどきはお兄ちゃんの手を離れた瞬間に一瞬にしてピンク色に変わり高く上がったところからふわふわと落ちていく。
「きゃっきゃ~」
いやぁ。何だろうね。赤ん坊って面白いね。最近のお兄ちゃんが私を慰めるときには必ずクマもどきを使う。
何度も同じことをされているから飽きてもいいはずなのに全然飽きない。
なんか面白い。なぜか面白い。本当に赤ん坊って不思議ね!
この身体には私という人格と赤ん坊としての本能が混ざっている。だからどんなに悲しいことを思い出しても何かのきっかけがあれば心の切り替えができる。
私はこの赤ん坊の体に救われているんだろう。辛くて、辛くて。苦しくて、どうしても耐えられない時にお兄ちゃんやお母さんが私の心を変えてくれる。
「にゃははぁぁぁ!<ありがとう!>」
私がサラになってから8カ月にたった。
今でも泣くことは止められないけど笑う事が増えた気がする。
それにお母さんが私を慰める度に決まってお乳を飲ませようとしたけど今では離乳食に入り、あの恥ずかしさで憤死する時期も越えることもできた。
―――下のお世話にはまだなっているけどね。
最近では赤ん坊ライフが楽しい。だって小さなことでもこの赤ん坊は感情を爆発させる。初めは抵抗があったし、どうすればいいか分からなかったけど、この感情の波に乗れば気持ちがよかった。
赤ん坊の生活は単純だ。寝て、食べて、寝て、寝て、遊んでもらっての繰り返し。はまると止められないね。
私がお兄ちゃんに遊んでもらっているとお母さんが入ってきた。
「あっライト。ここにいたのね」
「お母様、どうしたの?」
「ふふっ。もうすぐマサドーラが帰ってくる頃じゃない?マサドーラが帰ってきたら忙しくなるからその前にサラちゃんとセル君の初顔合わせさせておきたいのよね~」
「……マサドーラ帰ってくるんだ」
お兄ちゃんの顔が一瞬にして真っ白になった。お兄ちゃんはマサドーラさんが本当に苦手なんだね。
マサドーラさんは5か月前に突然現れた不思議な人だ。だいたい1カ月か2カ月おきに帰ってきて数日過ごす。そしていつの間にかいなくなっている。
その間のお兄ちゃんは大変だ。朝から特訓と言われて引きずられるように家から出ていく。その姿を見た時はとてもかわいそうだった。それに時折、家の外から叫び声が聞こえるから恐ろしい。
初めてあった時に私も教育とか恐ろしいことを言われた気がしたがまだ赤ん坊の私にはまだ特訓はないらしい。
本当にほっとした。
お兄ちゃんごめん。見守ることしかできない妹を許してくれ。
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