あるくのは
―――――早朝の森。夜を制する獣が眠り始めるしずかな時間帯。朝靄ははれ神秘的な空気を醸し出す。
この静かな時間に一人の男が動き出そうとしていた。
男、トーラトーイである。
トーラトーイはエルフの出身だ。エルフは森と共に生きることを好む。
自然的にこの森に入ってからトーラトーイの気分が上がるのはしょうがない事でエルフの特徴の長い耳が少し動いていた。
音楽のような森の声、花開くような香り。ここ長い間街で暮らしていたためひどく気持ちがいい。
トーラトーイは本日見張りを任されていたが神秘的な森の雰囲気に感銘し、もう一人の見張りに全てを任せ散歩に行くことに決めたのだった。
出発の際もう一人の見張りがなにか文句を言っていたが全てまるっと無視して歩きだす。
今現在歩いている森をルハの森という。ルハの森はガタニアとサルジャナという国の間にあり、珍しい生物が多く生息する豊かな森だ。
なぜトーラトーイ達がここにいるのかというと仕事だ。
もともとここから遠く離れたリール王国からはるばるルハの森まできた。目的の場所はガタニア王国だ。
―――いや元ガタニア王国というべきか。
近年、レトゥール帝国の動きがあやしい。この十数年で周辺国を占領し着々と領土を増やしている。
他国を攻め領土を増やすことには別段不思議はない。ただ時間に異常性があった。一つの国を落とすスピードが非常に早いのだ。
今回知らせを受けたガタニア王国はわずか2日で滅んだ。
しかもレトゥール帝国には謎が多い。2,3カ国を嵐のように滅ぼしたかと思えばそのあとしばらく動きを止める。他国の協定は退ける。何が目的なのか全く分からないのだ。
リール王国も警戒はしているがそもそもレトゥール帝国との距離が離れすぎているため情報はあまり入ってこない。情報が入らなければ動きようがない。
現に最近滅ぼしたというガタニアまで赴くのにトーラトーイ達でさえ2カ月以上時間がかかるのだ。
トーラトーイ達が出発した時にはまだガタニアは滅びていなかった。
リール王国は自軍の兵ではなく、王国に拠点を置いているギルドに依頼をかけた。
今回仕事は視察だ。
また今回の視察は珍しいことに他ギルドとの共同だった。
リール王国には3つの代表するギルドがある。
他種族が多く入り乱れたギルド―――オリヴル。
人間のみで構成されたギルド―――サンアストロ。
獣人のみで構成されたギルド―――ラマン。
この遠征にはオリヴルとサンアストロの二つのギルドが共同で参加することになった。
ギルドは世界中にあり、今回この依頼がきたのも国が動くよりもギルドが動いた方が目立たないため。
2つのギルドはリール王国に借りがあったため断ることができなかった。
今回、国はギルドのどちらかの長が遠征に参加することを臨んだ。確かに今回の依頼は深刻だ。高い能力をもち、癖のある団員達をまとめるのにはギルドの長が必要と考慮してのことだった――。
だが問題がひとつあった。
オリヴルとサンアストロのギルド長には共通していることがある。
それはどちらも最愛の妻に子供ができたことだった。
しかも二人とも有名な妻愛家だったためどちらもこの遠征に参加することを拒否したのだ。
どちらも嫌がり片方のギルド長に仕事を押し付けようとする何とも子供じみたやり取りがあった。
どちらがいくかで決闘に決闘を繰り返し、しかし最後全く決着がつかなかったことに呆れた両妻たちがじゃんけんをして今回の遠征の長を決めたのだった。
遠征の長はオリヴルのギルド長―――ウル・アルテンイ。
他オリヴルからは3人、サンアストロから4人の構成で遠征のメンバーが決まり早々と出発した。
トーラトーイは森を歩く。歩きながら今回の遠征について考えため息がでた。
今回トーラトーイはオリヴルからの遠征参加だ。今回の仕事は大変だった。出発早々からギルド長が出発を嫌がるのだ。
他の団員―――オリヴルだけではなくサンアストロの団員も癖が強すぎる。
この2カ月日に日に苛立ってくるギルド長をなだめるのは大変だ。
少しくらい森を散策しても許されるだろうと思い、トーラトーイは森を歩くのであった。
癖が強いのはトーラトーイもです。