第1話
亀更新ですが、見守って頂けると幸いです。
――松沢マネジメント事務所――
そう書かれた事務所のドアを開けると、そこには数人のバイトと思しき事務員達が、
慌ただしげに、PC画面とにらめっこをしながら、電話の応対をしていた。
勤労な事務員らに対し、軽く会釈をすると。ニッコリと。原価0円のスマイルを顔に張り付け、
しかし、乱暴に社長室の扉を指差していた。どうやら、指先にまで業務態度を徹底させる事は出来なかったようだ。
手を軽く振り上げて、感謝の意を表しておいた。
事務員に指示された様に、社長室のドア前に立ちノックを数度。
『入っても良いぞ!』と、ダミ声に反応して、部屋に入ると、そこには。
「いやぁ。良くやったな!」
デスクを挟んで向こう側。恰幅の良い男性が、ヤニで汚れ切った歯を剥き出しにして、
俺に笑いかけていた。歯がボロボロなので、笑いかけた顔が酷く歪に見える。
「此処まで忠実に仕事をこなしくれるヒーローはいねぇぞ! 窓ガラスの破損に、備品の破損、ドアの破損! 修理の為に呼び出された、請負会社は大喜びだな!」
唾をまき散らしながら、声高々に、俺の仕事の成果を読み上げる。破損した備品、設備に関する報告、
業者紹介をしたマージン代の報告。そこには『モンスター』を退治したという報告は一切ない。
「ははは。今回の出来事は色々な所で感謝されたぞ!」
「そうですか。それならば、僕もヒーローとして、活躍した意味があります」
「お前さんは文句言わないから、助かるわ。『フラッド』と『エルプション』は意見が多くて好かねぇ」
この場に居ない同僚の2人を思い浮かべる。そして、俺が社長だと仮定する。
呼び出して、話をする事から殴り合いになるまで、5分を切る自信がある
「彼らにも良い所はあるんですよ。僕みたいに、意見も何も出さない、非生産的な輩より、
未来に向けて何かしらの意見を出す彼らの方が発展性があります」
もちろん、これは俺の評価を上げる為のおべっかだ。あの二人を評価する気なんて、
微塵たりともありはしない。
「本当にお前を雇っておいて良かったわ。『ヒーロー』があんなのばっかりだと思うと、
俺もやってられなかったからよ」
「いえ。それでも、あの二人の手綱を握っていた松沢さんは凄いですよ。僕なんて、若輩者を褒めてくれるなんて。
身に余る光栄です」
これはおべっか半分。本心半分と言った所だ。事実、あのじゃじゃ馬二匹の手綱を握っていた、
この松沢と言う男の手腕は中々の物だろう。
「おべっかも過ぎると嫌味だぞ? まぁいい。これが今回の報酬だ」
釘を刺された事に内心冷やりとしながら、新書程度の厚さがある封筒を受け取る。
中身は、誰もが貰って嬉しい日本銀行券だ。脱亜論の提唱者が、しっかりと印刷されている。
「ありがとうございます」
「これからもしっかりと働けよ。で。次のモンスターの出現位置だが……」
――
「了解しました。では、次に出現する位置は○○商社でありますから、
破損をさせる備品は―――位で良いと言うことでしょうか?」
「そうだ。特に細かい所を破壊して、ポイントを稼ぐんだぞ」
「了解。では、僕は大学に提出しなければならないレポートがあるので、今日はこれにて」
「おぅ。お疲れ!」
お辞儀をし、社長室から出て行く。事務所では相も変わらず、バイトが電話の応対に追われていた。
そんなバイト達を傍目に『お疲れさん』と一言だけ投げかけると、事務所から出て行った。
――
物語が遅々として進みませんね。物語を書く難しさが、少しずつ実感できた着た様な気がします。