プロローグ。
~~ヒーローアヴァランティア~~
昼下がりのオフィスビル。普段は、業務に勤しむ人間とOA機器で溢れ返っているはずのそこは。見るも無残に破壊されていた。
デスクから転げ落ちたPCは、その液晶画面にヒビを入れ、コピー機は黒煙を上げていた。壁を見ると、あちらこちらに血が付着しており、窓ガラスには無数の亀裂が走っている。
おおよそ、人間が在住するべきではない空間に、一対の人影らしき物が存在していた。らしきものと言ったのは、その一対の影が、人間と呼ぶに相応しくない異形であったからだ。
片や。アリを彷彿とさせる頭部に、緑色の体毛に覆われた2m程の体躯。その二本脚は、昆虫の様にか細くはあるが、しかし、巨大な体躯の自重にけして潰されはしない。
片や。体躯は日本男子の平均サイズ位しかないが。頭から爪先までの全身を、白色のボディスーツで覆っていた。体の凹凸位しか分からず、男性か女性か。子供か大人か。外見からは判断はできない。その白色の手にはPCの液晶モニタが握られていた。
白色がアリに向かって走る。アリの巨大な体躯から繰り出される拳を、液晶モニタで受け止める。衝撃に耐えきれず、モニタがバラバラに砕け散る。
使い物にならなくなったそれを捨てると、デスクの近くにあった椅子を拾い上げ、アリの頭部に向かって放り投げる。投げた椅子がアリの頭部に命中し、よろけた刹那。デスクを蹴り上げた。
蹴りあげられたデスクに巻き込まれ、アリは窓ガラスまで吹き飛んだ。その背中にある窓ガラスは、既にあったヒビを広げ、遂には耐えきれずに割れた。
支えを失ったアリは、デスクごと宙に放り投げられ、コンクリートの地面へと体を激突させ、緑色の体液をまき散らした。数回、体を痙攣させると、それっきり動かなくなった。
遥か眼下に広がる惨状を一瞥すると、腰のバックルのボタンを押した。
光に包まれ、全身のボディスーツが足元へと溶け落ちていく。全てが溶け落ちると、そこには青年がいた。
「……足りない」
呟くや否や。青年は、辛うじて原形を留めていたデスクや、椅子を手当たり次第に壊し始めた。
「ノルマが達成できない! 売上に届かないじゃないか!」
部屋の隅にあった、観葉植物の葉を引きちぎり、ポッドを破砕する。天井の蛍光灯を素手で叩き割る。ドアを蹴る。蝶番が外れる。支えをなくしたドアは重力の法則に従い、地面に倒れる。
「もっとだ。もっと。もっと」
その青年がアリの怪人と戦闘を繰り広げるよりも長い時間、青年は、オフィス内の物を破壊しつくしていた。
始めまして。ゼフィガルドと申す者です。友人から誘われて、小説を書いてみたのですが、難しいですね。遅筆ですが、これからも書いていきたいと思います。