新しい町-3
「あんた…誰だ?」
「お?すげぇな。あんだけのでっかい声出しといて声が潰れてねぇのかお前?つーかこの情況、分かりやすすぎるな。差し詰め少年は正義の味方ってわけか」そういってその女性は不良3人組の後ろを覗き込む「ん?アレか?―アレだな。くくく、愉快愉快」
ポンポン、と2回頭を撫でられた。僕は今、あの声の主と向かい合い、見上げる形で尻餅をついているのでちょうど良い高さだ。
美女-だった、それもとんでもない。
芸能人とか絵画とか、そんなものとは比べ物にならない、畏怖さえ感じさせるほどの美人さん。奇跡みたいな顔の作りだ。
そして、どこか禍々しいオーラを身に纏っている。
でも先ほどのような爆発するようなプレッシャーではない。
いや、冷静に思い出してみれば、さっきのだって今のとたいして変わるものではなかったはずだ。じゃあ…
僕はなんであんなにも異常に怯えたんだ?
それこそ恥や外聞は愚か、喉も心臓も擦り切れんばかりに悲鳴をあげた。
誰…ていうか何なんだ?
この人の何が、僕の何をブチ切れさせたんだ?
てゆうか、今こいつ何した?
「おいっ!」という声と共に何かを叩く音が聞こえ振り返ってみれば、釘バットがどうやらそれをジャリに振り下ろしたようだった。苦痛に顔を歪ませて、開いた手で片方の耳を塞いでいる。
「いきなりバカでかい声を出しやがって、無視してんじゃねぇ」
「ふざけやがって」
「てゆーかダメでしょう。おねーさんみたいな美人がそんな格好でウロウロしてちゃ」
「絶対誘ってるでしょ」
「誘って無くてももう手遅れだけどね」
「まずはそこの綺麗な姉ちゃんを縛って、こいつをボコって、イイことしてんのを見せて勉強してもらおうよ」
「性教育だよ、ハッハー」
事前にやることを予告してくれるのか、親切だな―じゃなくて!
このままだと目の前の女性が巻き添えになってしまう。
「あ、あの、どこのどなたかは知りませんが、巻き込んでしまったようですみません。本当に、この人達が言うようになったらお詫びのしようがありません。ここは僕が何とか引き付けて…みるので、できるだけ遠くへ逃げてくださ―」
僕が今後の人生で2度ど使うことはないであろう一大決心して放たれた恥ずかしいセリフは、最後まで言い切ることはできなかった。
かわりに、後頭部への衝撃と持ち上げかけた膝の再びの着地。
痛痛痛痛痛痛痛!!!痛って!
音からして手のひらでハタかれただけのようだったが、水を入れたたらいが落ちてきたかのように痛い!あ、涙が…
「何キモいこと言ってんだお前、的外れな上全然似合ってないぞ。それに礼儀がなってねぇ。誘ってくれてるんだから誘われてやろうぜ」
「な、何を…」
「あたしがあいつらをよがらせて喘がせてるのを、楽しく見学しとけって言ってるんだよ」
「い…」
陰魔、という単語が思わず口に出そうになったが、慌てて引っ込める。不敵に上がった口角とダダ漏れのフェロモンが、まさしくそのとおりに思えたのだ。
「は、ははっ」刺青男が笑いながらジャンプして、クルクル2・3回その場で回転した「お姉
さんかっこいいっ!ギャハハ、すっげぇ!何!空手?少林寺?カポエラ?負け知らず?惚れた!惚れた惚れた惚れたっ!」
へ、変態だ。
いまだ後頭部の痛みから回復しきれていないが、後ずさる僕。
残り2人の不良はニヤニヤと気味の悪い笑いを浮かべている。しっかりと自分達のペースを取り戻したようで、喜ばしいことだ。
惚れられた美女は、先ほどの陰魔な微笑を保ったままである。
「テメェはボクシングだろ。筋肉の付き方からしてたいしたことなさそうだけどな」
言われた刺青男は、ますますその笑みを深くする。
「ああすげぇイイ、すげぇイイよあんた。何がイイって、アンタみたいな美人で自信過剰な女が、3分後には俺に組み敷かれて泣きながら喘いでるってとこを想像すると、すげぇ興奮する」
「ククク、言うだけフラグが立つってもんだぜ。お前は、お前らは…どんな道具を揃えようと、どんな情況を作ろうと、奇跡が起ころうと、神託があろうと、万が一にも、63億人が1にも―あたしに勝つ道理はねえッ!!」
突然!というより当然。その言葉をきっかけに刺青男が美女に向かって走り出した。
拳を構え、腰を低くしたままのトップスピード。
やはりボクシングだ、しかもケンカ慣れした。まずい、せめて間に―
「―っ!?」
動かない!?膝?後頭部の打撃か。くそっ、まだ回復してないのか。
「はっ」
小馬鹿にしたように美女が笑い、拳を突き出す。が、ダメだ。出すタイミングが遅すぎた。クロスカウンターのように見えるが、腕の長さも違う。美女の腕は、届くはずが無い。
「…え?」