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僕と彼らと狂戦士  作者: 牧織トト
第一章
2/5

新しい町-2

 場所は変わらず土手である。

 おそらく今は14時位だろうか、桜が散り始める時期だ、日の光を浴びた風が心地良い。

 もう10分ばかり歩いているが、誰ともすれ違っていない。去年か一昨年か、ある日突然自分以外の人間が消えてしまうなんてアメリカの映画があったが、そんな感じだ。


 「ん?」

 と思ったらいた。

 土手を降りた河川敷の影になっている高架下、コンクリートの柱を囲むように3人の男が立っている。

 「チッ!」

 嫌なものを見た。不良がする愚考としては平凡だが、胸糞悪い光景だ。

 どうしよう、無視してしまおうか。僕には関係の無いことだし、もはや手遅れの可能性が高い。仮に間に合ったとしても、できることは少ない。沈んだ気分が浮上するとも思えない。


 「……………はぁ」

 日の光を反射して風で波打つ緑の坂道を、僕は降りた。





 「ああん?なんだてめぇ?」


 …うわ怖っ。


 3人の男というのは、予想したとおり、というかよそうよりやや上をいった不良だった。

 アーマーナイフを持った浅黒い大男、顔面に2桁のピアスを空けた色白の男はなんと釘バットを持っている。そしてもう一人はスキンヘッドにした頭部にでかでかと刺青が入っている。―多分、こいつがリーダーだ。細身に見えるのはボクシングか何かで絞ったに違いない。


 「なんだって聞いてんだよ。お前何か?もしかして正義の味方か?」

 「寄付じゃねぇの?財布を進呈しに来てくれたんだろ」

 「こいつの仲間に加わりたかったんじゃねぇの?」

 釘バットの男がその獲物で背後の”それ”を指した。

 思わず眉に皺がよる。

 「…」

 「なんとか言えやぁぁっ!!」


 しかし、ナイフ・釘バット・格闘家の拳って…どれも人を殺せる道具じゃないっすか。

 どうしよう、本当に。何で来てしまったんだろう。あーもう、無視して通り過ぎておけば明日には忘れてしまえるぐらいの不快さだったはずなのに、ちょっとした気まぐれのせいで今や大怪我との瀬戸際みたいな情況だ。馬鹿か僕は。帰りたい、今すぐ帰って母さんのあのぼんやりとした味のご飯が食べたい。大体、ちょっと相手が黙ってるからってそんな大声張り上げなくたって良いじゃ無いか。不良って奴はいつだってキレる世代なのか?


 「あー…」

 「あーん?」

 「だから…えっとですね…」

 「もういいやめんどくせ、潰して貰うもんもらって晒しとけば解決だろ」


 刺青の男が、早々にコミュニケーション放棄し、僕に向かって歩いてくる。

 えー。

 もうちょっと粘りましょうよ。


 腕力、では到底叶わない。脚力、も無理だろう、すぐに追いつかれる。携帯で助けを呼ぶ、のは愚の骨頂だ、確実に間に合わないし、なにより持ってきていない。周りには他に誰もいない。今更謝ったって許してもらえるはずが無い、てゆうか何に対する謝罪だ?


 僕が一歩下がっては3人組が1歩出る、まるで紐で繋いでるように一定の距離を保って。きっと、僕が恐怖に耐え切れなくなって逃げ出すのをきっかけに”楽しい狩り”を始めるつもりなんだろう。

 ほんと、どうしたもんか。

 と、そのときだった-


 「よぉ」


 僕の背後、5cmも離れていない距離で。


 「面白そうなことしてんじゃねぇか」


 「―っ!?」

 馬鹿みたいなプレッシャーが、僕の首筋を撫で上げた。



 「はっ…はっ…はっ…」

 呼吸が、辛い。

 なんだ?!僕の後ろに何がいる?

 怖い!

 痛い!

 死ぬ!

 振り向けない。

 震えることすらできない。

 全身がパニックになってる。

 まるで真正面にライオンがいて、バックリ開いた口が喉元で待機してるみたいだ。


 「何だお前?」

 「てゆーか、こいつ喘息みたいになってんじゃん」


 阿呆かこいつら、何でこの圧力が分からないんだ!

 相手が刃物を持っていたら、俺の体から刃の切っ先が飛び出てないのが不思議なくらいだ。

 相手が銃を持っていたら、打ち抜かれて俺の服が赤く染まっていないのがおかしいくらいだ。

 ああそうか、後ろの奴。

 殺意で、遊んでる。


 「ククッ」

 「―っう!』


 ぶちり、と頭の中で何かが切れる音がした。


 『うわゎぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!!』

 『あはははははははははははははははははははははははは!!!!』

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