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僕と彼らと狂戦士  作者: 牧織トト
第一章
1/5

新しい町

 東京に隣接し、山手線までは電車で約30分。一応、急行だってとまる。

 駅前には大型デパートが2件立ち並び、こだわりが無ければ大抵のものがここで手に入る。


 かと思えばちょっと道を外れただけでその風景は新興住宅地の群れになり、もっと歩けば兼業農家の古い一軒家になり、小さな田んぼを挟んだりするので間隔も広がっていく。それでも時々思い出したように流行のものを取り扱う雑貨屋や、やたら近代的なフォルムをした真新しい病院が軒を連ねていたりする。気がつけば山の麓に足を掛けていたようで、舗装されていない斜面を登っている。


 ふむ、なんと言っていいのか、田舎というのは雑多でやや便利すぎるが、都会というにはやっぱり

やや不便な土地らしい、ここは。

 ちょっと不便ではあるが、嫌いじゃ無い。

 それにその不便を感じることはあまり無いだろうし、その不便は場合によっては便利な道具になる

だろう。




 僕は次の月曜日からここに通う。 

 祝日や夏休みやイベントごとなんかは概算で1年に約200日として600日―あ、でも単位制だから自分の采配で多少上下するのか。それにそのまま大学部に進学すればプラス4年~8年なので最大で

2200日か。もともとが大雑把な数字だったし、大学部は当然休みの期間も違うから適当と表現するにも甚だしい数字だがとりあえず2200日。


 長い、と思う。

 

 良く大人は大人になると時間の流れが速くなるとか子供の1ヶ月は大人の1年とかわけの分からないことを言うが、1秒は1秒だし、1年は1年だ。過ぎた時間を長く、あるいは短く感じるのは記憶の抜け落ち、又は肉付けによるものだ。


 ああでも、矛盾するかもしれないが、今現在、僕がここで経験している体感している時間は1秒でも10秒でも、果てしないように思う。右足と左足を交互に出し、目的地も無くただ歩く―いまやっているこの行為は、永遠に続くんじゃないかと思う。

 この感覚は、行儀良く座って黒板を見ているフリをしている時も、本を読んでいる時も同じだ。

 それが"今"であれば、永遠にこのまま何じゃないかという漠然とした不安に苛まれる。


 いや、苛まれるなんて仰々しいものじゃないな…せいぜいがちょっとばかしずんとくる、あまりにも日常化してしまって麻痺してしまった不満の絞りカスみたいな微細なものだ。

 そしてそんなものは、電車が無事目的地に着いたときや電話が終わってあの”ツー・ツー”という音を聞いたとき「ああよかった、ちゃんと終りがあったんだ」と少し安心する。


 「終り?…というより区切りに近いのかもしれない」と独り言を呟いてみたりした。

 とにかく僕にとって1秒だろうと10秒だろうと”今”は永遠のように長く、この先この町で、それを2200日も体験していかなくちゃいけないというのは、少々おっくうだ。






 「くだらねぇ」

 とその女性は言った。

 土手だ。

 金八先生のオープニングよろしく、真ん中の川に向かって傾斜している芝生は緩やかで大きい、小学生がダンボールを敷いてすべって遊べるだろう。少しはなれたところには線路が通り、その下は薄暗い。コンクリートの柱にはカラースプレーでかかれた文字だか絵だか判別のつかないマーク。不良が吹き溜まりそうなスペースだ。

 否、実際に不良すぎる不良が、ついさっきまでそこにいたわけだが…。

 「ちんたらちんたら動くから何を余所見してんのかと思えば、んなこと考えてやがったのか。てか、そんなくだらなすぎる話をあたしにするんじゃねぇ」

 「あなたが話せって言ったんですよ…」

 くくく、とその女性は喉を振るわせ「しかしまぁ、多少面白くはあったぜ」と言った「いや、正確には面白そうだったってところだな。面白そうかと思ってちぃと考えてみたら、結局はくだらなかった。ギリギリ落第って感じだな」

 なんだか酷い言われようである。


 

 そう、僕はつい1時間前までこんなくだらないことを考えながら歩いていた。

 そして30分前にその女性に会った。

 時間を戻そう、30分前に。

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